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各種フィギュアの模型原型は美術の著作物か

 

▶平成16年11月25日大阪地方裁判所[平成15(ワ)10346等]▶平成17年7月28日大阪高等裁判所[平成16(ネ)3893]

ウ 本件模型原型は純粋美術か否か。

(ア) まず,本件模型原型は,前記認定のとおり,いずれも,実在する動物や,絵画に描かれた妖怪ないし人物等を立体的に表現したものである。

本件模型原型は,実在する動物や,絵画に描かれた妖怪ないし人物等を立体的に表現するに当たって,誰が制作しても同じような表現にならざるを得ないような類型的な表現方法を用いたとはいえず,一定の限度で制作者の個性が表れているといえるから,思想又は感情を創作的に表現したものであるということができる(ただし,その創作性の程度には,後記のとおり高低がある。)。

(イ) ところで,菓子製造販売業者が,菓子の需要者(主に子供たち)に人気のある動物,乗り物等を模した小さな玩具や,漫画のキャラクターを描いたシール,カード等をおまけとして付けることで,菓子の需要者のおまけに対する収集欲を刺激し,菓子の販売促進を図ることは,これまでも広く行われてきた。このような菓子等のおまけとなる玩具は,一般に「食玩」と称されている。

本件フィギュアは,従来の食玩に比べて,極めて精巧なものであるとはいえ,その使用目的は,やはり菓子のおまけとして付けられ,菓子の販売促進を図ることにあることに変わりはないと認められる。そして,本件模型原型は,上記のような本件フィギュアを量産するための金型の原型及び彩色用の見本として用いられるものである。

(ウ) してみると,本件模型原型は,前記(ア)のとおり思想又は感情を創作的に表現したものではあるけれども,制作者が,当該作品を専ら鑑賞の対象とする目的ではなく,実用目的で制作したものであり,かつ,一般的平均人が,実用目的で制作されたものと受け取るものというべきであるから,純粋美術には該当しないものと解するのが相当である。そして,上記制作目的及び一般的平均人の認識からすれば,本件模型原型は,応用美術に該当するものというのが相当である。

(エ) なお,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件フィギュアは,その精巧さから,販売後は子供たちのみならず一部の大人たちの間でも人気が出たことが認められ,証拠及び弁論の全趣旨によれば,菓子の購入者の中には,菓子よりもおまけである本件フィギュアを目当てに購入した者が多かったこと,これらの者の多くは,本件フィギュアを鑑賞の対象として扱っていたことが認められる。

しかし,純粋美術であれば,その巧拙を問わず著作物に該当し,著作権法による保護を受けることになるが,我が国の著作権制度のもとにおいては,著作権の成立には審査及び登録を要せず,著作権の対外的な表示も要求しない一方で,著作権侵害については刑事罰の規定も設けられていることを考慮すると,観る者によって当該作品を専ら鑑賞の対象とする目的で制作されたものと受け取るか否かの判断が異なるような作品についてまでも,純粋美術として著作権法による保護を与えることは,予測可能性を害するものであって,相当ではない。

そして,上記各証拠をもってしても,本件フィギュアないし本件模型原型について,一般的平均人が専ら鑑賞の対象とする目的で制作されたものと受け取るとまでは認めがたい。

また,制作者が,制作当時は,当該作品を専ら鑑賞の対象とする目的以外の目的で制作した作品が,制作後の事情により美術的な評価が高まり,当該作品が鑑賞の対象として取り扱われるようになったとしても,そのことにより,応用美術が純粋美術に転化し,著作物性を獲得するに至ると解することは,法的安定性を著しく害するものであって相当ではない。

したがって,上記の事情は,前記(ウ)の判断を左右するものではない。

エ 応用美術たる本件模型原型は著作物か否か。

(ア) そこで,本件模型原型が応用美術であることを前提にして,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるか否かについて検討する。

(イ) 本件動物フィギュア

前記認定のとおり,本件動物フィギュアは,市販の動物図鑑,鳥類図鑑等をもとに,動物の形状等を,可能な限り,実際の動物と同様に立体的に表現し,色彩も,実際の動物と同様の色,模様が付されたものであり,極めて精巧なものであって,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,相当程度の美術性を備えていると評価されるものといえる。このことは,前記認定のとおり,原告の制作に係る各種フィギュアが各地の美術館等で展示され,高い評価を受けていることからも裏付けられる。

しかしながら,上記のとおり,本件動物フィギュアは,実際の動物の形状,色彩等を忠実に再現した模型であり,動物の姿勢,ポーズ等も,市販の図鑑等に収録された絵や写真に一般的に見られるものにすぎず,制作に当たった造形師が独自の解釈,アレンジを加えたというような事情は見当たらない(なお,(証拠)によれば,本件動物フィギュアの中には,あえて実際の動物と異なる形状等を採用しているものも存在するが,これは,美術性を高めるためにデフォルメしたというよりも,主に,型抜きの都合や,カプセルに収まる寸法を確保するなどの製造工程上の理由によるものと認められる。)。したがって,本件動物フィギュアには,制作者の個性が強く表出されているということはできず,その創作性は,さほど高くないといわざるを得ない。

してみると,本件動物フィギュアに係る模型原型は,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるとまではいえず,著作物には該当しないと解される。

なお,本件動物フィギュアのうち,ツチノコについては,モデルとなる動物の生息が確認されていないため,実際の動物の形状,色彩等を忠実に再現したものとはいえず,他の本件動物フィギュアに比べれば制作者の個性が強く表出されているということができるけれども,やはり,これまでに描かれた数多くの想像図をもとに制作されたものであって,それらから想像される一般的なイメージの域を超えるものではなく,いまだ純粋美術と同視し得る程度の美的創作性があるとまではいえない。

(ウ) 本件妖怪フィギュア

本件妖怪フィギュアは,本件動物フィギュアと異なり,空想上の妖怪を造形したものである。

確かに,前記認定のとおり,本件妖怪フィギュアのなかには,石燕の「画図百鬼夜行」を原画とするものもある。

しかし,平面的な絵画をもとに立体的な模型を制作する場合には,制作者は,絵画に描かれた妖怪の全体像を想像力を駆使して把握し,絵画に描かれていない部分についても,描かれた部分と食い違いや違和感が生じないように構成する必要があるから,その制作過程においては,制作者の想像力ないし感性が介在し,制作者の思想,感情が反映されるということができる。

そして,前記認定のとおり,本件妖怪フィギュアは,石燕の原画を忠実に立体化したものではなく,随所に制作者独自の解釈,アレンジが加えられていること,妖怪本体のほかに,制作者において独自に設定した背景ないし場面も含めて構成されていること(特に,前記認定の「鎌鼬」,「河童」や,「土蜘蛛(つちぐも)」が源頼光及び渡辺綱に退治され,斬り裂かれた腹から多数の髑髏(どくろ)がはみ出している場面などは,ある種の物語性を帯びた造型であると評することさえも可能であって,著しく独創的であると評価することができる。),色彩についても独特な彩色をしたものがあることを考慮すれば,本件妖怪フィギュアには,石燕の原画を立体化する制作過程において,制作者の個性が強く表出されているということができ,高度の創作性が認められる。

また,本件妖怪フィギュアのうち,石燕の「画図百鬼夜行」を原画としないものについては,制作者において,空想上の妖怪を独自に造形したものであって,高度の創作性が認められることはいうまでもない。

そして,前記認定のとおり,本件妖怪フィギュアは,極めて精巧なものであり,一部のフィギュア収集家の収集,鑑賞の対象となるにとどまらず,一般的な美的鑑賞の対象ともなるような,相当程度の美術性を備えているということができる。

以上によれば,本件妖怪フィギュアに係る模型原型は,石燕の「画図百鬼夜行」を原画とするものと,そうでないもののいずれにおいても,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるものと認められるから,応用美術の著作物に該当するというのが相当である。

(エ) 本件アリスフィギュア

前記認定のとおり,本件アリスフィギュアは,テニエルの挿絵を立体化したものである。

本件アリスフィギュアについても,本件動物フィギュア及び本件妖怪フィギュアと同様に,極めて精巧なものであって,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,相当程度の美術性を備えていると評価されるものといえる。

しかしながら,本件アリスフィギュアは,平面的に描かれたテニエルの挿絵をもとに立体的な模型を制作する過程において,制作者の思想,感情が反映されるものであるから,創作性がないわけではないが,前記認定のとおり,本件アリスフィギュアは,テニエルの挿絵を忠実に立体化したものであり,立体化に際して制作者独自の解釈,アレンジがされたとはいえない(この点において,本件妖怪フィギュアとは事情が異なる。)ことや,色彩についても,通常テニエルの挿絵に彩色する場合になされるであろう,ごく一般的な彩色の域を出ていないことを考慮すれば,本件アリスフィギュアには,テニエルの原画を立体化する制作過程において,制作者の個性が強く表出されているとまではいえず,その創作性は,さほど高くないといわざるを得ない(ただし,前記認定のとおり,他にもテニエルの挿絵に彩色したものがあるが,証拠上,これらがどのような色であったかは判然としない。また,一部には背景ないし場面を含めて造型されたものもあるが(例えば「チェシャ猫」の木),これらの背景も,もともとテニエルの挿絵に描かれていたものである。)。

してみると,本件アリスフィギュアに係る模型原型は,極めて精巧なものであるけれども,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,いまだ純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価されるとまではいえず,応用美術の著作物には該当しないと解される。

 

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