【日本版フェア・ユース】新30条の4の規定の導入 3/6
条文解説その1
それでは、条文の中身(文言)をもう少し詳しく見ていきましょう。
新設の法30条の4は、「非享受目的の場合」すなわち「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に適用されるのですが、ここで「享受」とは、一般的には(辞書的な意味では)、「精神的にすぐれたものや物質上の利益などを、受け入れ味わいたのしむこと」(広辞苑)を意味します。したがって、ある利用行為が当該「享受」を目的とする行為に該当するか否かは、前述した本条新設の立法趣旨と、「享受」の一般的な語義を踏まえて判断されることになります。
<具体例>
〇「美術品の複製に適したカメラやプリンターを開発するために美術品を試験的に複製する行為」⇒非享受目的の利用行為に該当(理由:かかる利用行為は、通常、画像の歪みのなさや色合いの再現性等、開発中のカメラ等が求められる機能・性能を満たすものであるか否かを確認することを専ら目的として行われるものであり、当該著作物の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為ではないと考えられるから)
〇「複製に適した和紙を開発するために美術品を試験的に複製する行為」⇒非享受目的の利用行為に該当(理由:かかる利用行為は、通常、インクや金箔の見え方や耐久度等、開発対象の和紙が求められる機能・性能を満たすものであるか否かを確認することを専ら目的として行われるものであり、当該著作物の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為ではないと考えられるから)
本条では「享受の目的がないこと(非享受目的)」が要件となっているため,仮に主たる目的が 「享受」のほかにあったとしても,同時に「享受」の目的もあるような場合には,本条の適用はないものと解されます。
<具体例>
×「漫画の作画技術を身につけさせることを目的として、民間のカルチャー教室等で手本とすべき著名な漫画を複製して受講者に参考とさせるために配布したり、購入した漫画を手本にして受講者が模写したり、模写した作品をスクリーンに映してその出来映えを吟味してみたりするといった行為」⇒適用外(自由利用は不可)(理由:たとえその主たる目的が作画技術を身につける点にあると称したとしても、一般的に同時に「享受」の目的もあると認められるから)
「享受を目的としない(非享受目的の)」利用行為であるか否かの認定では、利用者の「主観に関する主張」のほか、利用行為の具体的態様や当該利用に至る経緯等の「客観的・外形的な状況」も含めて総合的に考慮されるものと解されます。
<具体例>
×「人を感動させるような映像表現の技術開発目的であると称して多くの一般人を招待して映画の試験上映会を行うような場合」⇒適用外(自由利用は不可)(理由:その客観的・外形的な状況を踏まえると、当該映画の上映を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けて上映行為が行われていると考えられるから)
新設の法30条の4は、営利目的で著作物を利用する場合も含めて、幅広く権利制限を認めています。そのため、とりわけ著作物の表現に対して「人の知覚による認識を伴う」場合には、当該「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない」利用行為に該当するか否かは,以上のように、本条の立法趣旨及び「享受」の一般的な語義を踏まえたうえで、利用行為の具体的態様や当該利用に至る経緯等の「客観的・外形的な状況」も含めて、慎重に判断される必要があると解されます。