【日本版フェア・ユース】新30条の4の規定の導入 2/6
導入の立法趣旨
書籍や漫画、音楽、映画、ソフトウェアなどの著作物が社会で「利用」されるのは、通常、人がその知覚によって当該著作物の表現を認識すると同時に、その利用によって自己の知的・精神的欲求が満たされるという効用が得られるからです。つまり、著作物が有する経済的価値というものは、通常、市場において著作物の視聴等をする者が当該著作物に表現された思想又は感情を享受してその知的・精神的欲求を満たすという効用を得るために対価の支払をすることによって具現化されると考えられます。そうだとすれば、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為」については、そもそもそれを許容しても、著作権者の市場における対価回収機会を損なうものではなく,著作権者の経済的利益を害するものではないと評価することも可能です。そこで、新設の法30条の4は、著作物は、技術の開発等のための試験の用に供する場合(1号)、情報解析の用に供する場合(2号)、人の知覚による認識を伴うことなく電子計算機による情報処理の過程における利用等に供する場合(3号)その他の「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」(=「非享受目的の場合」)には、その必要と認められる限度において、利用することができることとしました。
本条は、通常は著作権者の市場における対価回収機会を実質的に損なわない利用行為であるにもかかわらず、形式的には権利侵害となってしまう一定の行為を幅広く権利制限の網にかけよう(権利制限の対象とする)という趣旨で整備されました。ただし、デジタル化・ネットワーク化の進展等による時代の変化への柔軟な対応を加味した「柔軟な権利制限規定(抽象度を高めた権利制限規定)の整備」を図る趣旨であっても、一方で、著作権者の利益(経済的利益)を不当に害することは法目的(1条)に照らして許されません。そこで、技術の進展等によって市場で現在想定されていないような新たな利用態様が現れる可能性があること等を踏まえ、「著作権者の利益が不当に害されることとなる場合は,この限りでない」との但書を設けているのです。本条但書に該当するか否かは、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか否か、将来における著作物の潜在的販路を阻害するか否かといった観点から、最終的には司法の場で個別具体的に判断されることになります。