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実験報告書の著作物性

 

▶令和4年11月28日東京地方裁判所[令和2(ワ)29570]

原告報告書[注:「脳機能NIRSを活用した交通安全対策の評価手法に関する調査(平成28年度)」と題する報告書のこと]の著作物性

⑴ 著作物性の判断枠組み

著作権法2条1項1号は、著作物の意義につき、思想又は感情を創作的に表現したものと定めている。そして、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でないもの、又はありふれた表現は、個性等を表出するものとは認められず、思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから、著作物に該当しないものと解するのが相当である(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。

⑵ 原告報告書本文の著作物性

原告は、原告報告書の本文のうち、別紙対比表1ないし5記載の部分にそれぞれ創作性が認められる旨主張するため、以下、別紙対比表1ないし5記載の部分の順に従って、その著作物性の有無を検討する。

別紙対比表1

(ア) 番号1

原告報告書対比表1の番号1部分は、運転者が運転中に行う「認知」、「判断」及び「行動」という3つの過程における頭頂連合野と前頭前野の連動した活動が関与しているという仮説を示すとともに、先行研究において頭頂連合野の亢進が定性的に確認されたことにより、注意喚起情報の提示により脳活動の変化を捉えられると考えられたことを客観的に説明するものである。

そうすると、原告報告書対比表1の番号1部分は、仮説という自然科学におけるアイデア又は実験結果という事実など表現それ自体ではないもの、又はありふれた表現にすぎないから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。

したがって、原告報告書対比表1の番号1部分は、著作物に該当しない。

(イ) 番号2

原告報告書対比表1の番号2部分は、fNIRSの機器としての説明や、脳が活動する際のヘモグロビンの変化及び本件実験におけるヘモグロビンに係る条件を客観的に説明するものである。

そうすると、原告報告書対比表1の番号2部分は、機器の説明又は脳の活動に関する事実など表現それ自体ではないもの、又はありふれた表現にすぎないから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。

したがって、原告報告書対比表1の番号2部分は、著作物に該当しない。

(ウ) 番号3(総括部分)

原告報告書対比表1の番号3部分は、実験により得られた脳反応の結果や、当該脳反応と先行研究との関連性に加えて、それらの分析等を踏まえ、これまでfNIRESを用いた自動車運転評価では主として前頭前野のみが計測対象とされてきたが、今後、頭頂連合野まで広げて計測する必要性が示唆されたことを客観的に説明するものである。

そうすると、原告報告書対比表1の番号3部分は、実験結果という事実や科学上のアイデアなど表現それ自体ではないもの、又はありふれた表現にすぎないから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。

したがって、原告報告書対比表1の番号3部分は、著作物に該当しない。

(エ) 番号4

原告報告書対比表1の番号4部分は、実験により判明した自動車運転における頭頂連合野での活動状況や、頭頂部の働きと注意機能の向上との関連性、情報板が注意の感度を高めることに寄与している可能性を客観的に説明するものである。

そうすると、原告報告書対比表1の番号4部分は、実験結果という事実や科学上のアイデアなど表現それ自体ではないもの、又はありふれた表現にすぎないから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはで

きない。

したがって、原告報告書対比表1の番号4部分は、著作物に該当しない。

(オ) 番号5

原告報告書対比表1の番号5部分は、実験により得られた脳反応の結果や、当該脳反応と先行研究との関連性に加えて、それらの分析等を踏まえ、「運転行動の切替え」という認知に関連して前頭前野の活動が亢進したものと捉えることができることを客観的に説明するものである。

そうすると、原告報告書対比表1の番号5部分は、実験結果という事実やデータの解釈という科学上のアイデアなど表現それ自体ではないもの、又はありふれた表現にすぎないから、思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。

したがって、原告報告書対比表1の番号5部分は、著作物に該当しない。

(略)

まとめ

以上によれば、原告報告書の本文部分は、いずれも著作物に該当しないものと認めるのが相当である。その他に、原告の主張及び提出証拠を改めて検討しても、高度な専門的かつ科学的知見等を客観的に示す原告報告書の内容、性質等を踏まえると、前記判断を左右するに至らない。

したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。

 

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