母

なんで私は不妊治療に二の足をふんでしまうのだろう。

他の方々のように子供を産みたいと心の底から思うことができないんだろう。

アダルトチルドレン。

この言葉に引っかかった。

これは私が長年悩んでいたことだ。

私は自分の母の呪縛から逃れられない。

わかりやすく虐待されたり育児放棄されたわけでもなくむしろお金の心配なんてしたことがなく結構習い事もさせてもらって不自由したことはない。

けれど母は自分の母に愛されなかった人で自分の子供には優秀になってもらって自分が虐げられて叶えられなかった称賛とか自由とかを叶えてもらいたいという願いがあったようだ。

表面上は。

私の記憶では母と祖母と母の姉妹たちは定期的に大喧嘩して罵り合っていてそのたびに私は泣いていた。

母はそのたびに父に悪態をついたりバカにしたりしているのを何時間も横で聞いていた。

私は比較的いい子だったと思う。

でも、母の期待に答えられなかったり母の気持ちに寄り添えなかったり思い通りにならなかったとき母は一変した。

お前のことを一生懸命育てたのに結局は私を困らせようとしている。

祖母とお前はそっくりだって。いつも私を困らせて不幸にしてやろうと思っているんだろうと。

こうなるとどんなに私が自分の気持ちを訴えても母に届くことはなかった。

でも私は母に見捨てられたくない。もっと言えば私が母を幸せにしてあげなくてはいけないと強く思っていた。

だから友達と遊ぶことも、好きな異性を作ることも、土日に家をあけることも私には罪悪感しかなかった。

でも、ある時母に私はお前の奴隷じゃない。いい加減につきまとうのはやめろと言われた。

その言葉は今でも忘れない。

ただ、この出来事をきっかけに母の人生は母が責任を取って生きるべきで私の人生は私のものなんだとやっと理解した気がする。

それで私はちょっと遅くなったけれど結婚できた。

でも、自然に妊娠できなかったことで自分が母になることにとても違和感を抱き、また母の影がちらつきとても苦しむことになる。

そして主体的に自分の人生を生きることが苦手な私は今最後の不妊治療をどうしていいのかわからずに途方に暮れている。