安アパートに帰ってきたたかしは借りてきたアニメを見ようとデッキにディスクをいれテレビをつける。

―明日は特に冷え込みますので風には注意して下さいね。―

「明日はかなり寒いらしいしやめとこう。カーチャンも言った通り、体壊しちゃだめだからな」

天気予報を聞いて彼の夕方の決意は露と消えた。そのままアニメを見て、ネットで画像をあさって、床についた。



「おい!ババア!早く金だせよ!!」

「ごめんね、たかし…今月はもう渡せないの…」

「ああ!?ふざけんなよ!!お前ほんとは持ってんだろ!クソババァ!!」

「痛っ…痛い!ご、ごめんね、ごめんね…うっ、うっ…」

「何泣いてんだよ!俺が悪いみたいじゃねぇか!!…カスが」



「うぁぁぁぁあ!!!!!」

絶叫と同時に目が覚めた。消したいといくら願っても過去は消えず、忘れることすらできなかった。


「何で今更夢に出るんだ…!もう終わった事だ…オワッタコト…オわッタこと…」

からくり人形のように呟いた。壊れたかのようにだんだんと片言になっていく。

壊したいのは、過去か。それとも自分か…。

「やっぱり…働いた方が良いよな、働いた方が…あの時の金だって返したい。あの時の俺と今の俺は違うんだ!!!

 よし、まずはバイトから探そう、正社員なんかになってもカーチャンのお見舞いに行く時間が無くなるからな!」

「確か近くのコンビニに情報誌があったはず…取り合えず取りに行くか…」

決意が揺るがないうちに着替え家を出た。

見舞いと必需品の買い足し以外の理由で外に出ること自体が久しぶりのことだったろう。



―いらっしゃいませー―

「あった…。バイトの募集は…」

「おい!ゴミ虫!」

「ヒィ!!!あ、あの、あ、二田…さん…」

見ると、小意地悪そうな顔をしたたかしと同年代の男がたかしを見ていた。

高校時代の人間であり、たかしを何かとバカにしていた奴だった。

「久しぶりだな。ゴミ虫の癖にバイト探しか?」

「いや、アノッハイ、ハイ、そうです」

ククッと小馬鹿にするような含み笑いを混ぜながら喋る二田を前に当時の記憶がフラッシュバックした。

とてもつらく何もかもうまくいかなくなっていた。

期待やプレッシャーに応えることができず、少しずつ何もかも嫌になっていった。そして…

「へぇ…ってことは高校辞めた後ずっとニートってのはほんとらしいな」

「……」

「どうした、何か言いたい事でもある?」

言えるはずもなかった。全て事実だった。

ただのニートだったらまだよかっただろう。

高校をやめ、バイトもせず親を追い詰め金を浪費し、他人が自分を蔑んでいると思い込んで母を攻撃するようになっていた。

「ちっ。相変わらずムカつく奴だ。ゴミ虫はゴミ虫らしくずっとニートやっとけば良いんだよ。」

「いや、アノ、た確かにそなんスけど、あの、カー…親が病気で…入院費も稼がないと…あれで…」

「……そ、そうか…」

「…スイマセン…」

しばしの沈黙が訪れた。

目線をそらすためか下を向いた二田。

気まずい空気が流れようとした時、くくっと短い二田の笑いが沈黙を破った。

「ゴミ虫の親もゴミ虫らしいな!ニートを作るわ、そのニートに自分の世話させようとするわ。」

嘲笑と罵倒。それが自分のみならず母にまで及んだ。

我慢ならなかった。屑としか言えない自分を見捨てず育ててくれた。

その母を罵倒する声を聞き流すことはできなかった。

「…おっおれはっ俺は確かにゴミ虫だがな!カーチャンはゴミ虫なんかじゃない!!」

「…へぇ…そーんなキレちゃって…相手誰かわかって言ってるのか?」

「うるさいうるさい!!お前なんかに俺の気持ちが解るか!ゴミ虫なんかに突っかかるお前だって相当な暇人か、同じゴミ虫同然だろ!!」

「俺はお前みたいに親に寄生してる訳でもないし、金も自分で稼いでる。ゴミ虫と一緒にされたくないな。」

「ッ…お前なんかがやってる仕事なんて、どーせ人に言えない様な仕事だろ!」

「…そこまで言うなら見に来てみる?お前が思ってる様な仕事じゃないがな。」

「…い、いや…」

売り言葉に買い言葉で捲し立てて罵倒して、そのまま終わらせるつもりだった。

二田は高校時代真面目に過ごしていたような人間ではない。

自分同然の人間か、たとえ仕事をしてても人に言えないようなことだと思っていた。

見せられるわけが無い・・・。

「どうした?早く決めろ、社会人は忙しくてお前にあまり時間を割きたくないんだ。」

「…良いぜ、見に行ってやるよ…犯罪は防がなきゃいけないしな」

「…一言多いけどわかった。お前は見学って事で連れて行くから、いつ帰っても良いぜ。じゃあ明日の9時にここに集合な。」

まともな仕事のハズが無い。きっと明日来てもこいつは待ち合わせ場所に来ない。

そうに違いないんだ……。

自分に言い聞かせるように呟き、母が入院している病院へと向かった。