2年前の7月
夫を喪い空っぽの私は
四十九日が過ぎた頃から
ますます辛さが増し
心療内科に行ったり
肌がピリピリと痛くて
皮膚科行ったり
挙げ句大きな口内炎ができ
口腔癌かもしれないと言われ
紹介状を持って
夫が通った医療センターに
行かざるおえなくなったり
なんとも散々な
日々を過ごしていた
そして夫から3ヶ月休んだら
仕事を再開して欲しいと
言われていた期限が
刻一刻と迫っていた
そして10月
規模を半分以下にして
仕事を再開する事にした
人に会いたくないのに
人が来なきゃ始まらない仕事
来られるお客様が
私を見た瞬間
悲しい顔になるので
当然私は泣く
毎日毎日その繰り返し
規模を半分以下にしたことで
たいして忙しくはないのだが
それでも身体より
心が疲弊して
夜になると夫のお骨を
膝に抱え
なんでいないの
と
毎日泣いた
家から一步も
出ることもせず
食事も作らず
この母から目を離すと
父の元へ逝くのではないかと
心配する娘は
毎日見張り番として
夜は泊まってくれていた
そんなある日
営業日であるにも関わらず
朝から無性に
ある公園に行きたいと
駆り立てられ
娘に連れて行ってほしいと
お願いをした
夫亡き後
用事以外
外に出ようとしなかった私の
急な申し出に
娘は
行こう 行こうと
嬉しそうに言ってくれた
そして私は
再開したばかりの仕事を
ズル休みした
夫の通う病院の
途中にある公園
溺愛していた孫娘(当時2歳)を
遊ばせるため
夫は病院の帰りに
その公園に
寄り道することを
楽しみにしていた
三ヶ月ぶりの公園までの
30分程のドライブ
夫と隔週ごとに
病院に通う為に見た風景
運転しているのが夫ではなく
娘であることに涙がこぼれる
公園に着いて
久しぶりに見上げた空は
抜けるような秋の色
娘が孫を遊ばせてる間
東屋にしばらく座っていたけれど
何となく公園周りを
歩いてみようと思った
丘の上まで上がろうと
歩を進める
一瞬立ち止まってしまった
見間違いかと思ったけれど
一本の木だけ
桜が咲いていた
私が今朝
駆り立てられるように
ここに来たかったのは
夫がこの狂い咲きの桜を
見たかったのだと 思った
まばらに咲いた桜を見上げ
Kさん
貴方が一番好きな3月の桜は
緊急入院して
見れなかったもんね
10月の桜だよ
これが見たかったんだね
綺麗だねぇ
と
溢れる涙を拭くことも忘れ
夫に語りかけた
十月桜もあるけれど
ソメイヨシノは春に咲く桜
間違いなく狂い咲き
しばらく夫と話した後
歩を進めて階段を登ると
懐かしい香り
金木犀の木が一本
2人でウォーキングを
してる頃に
この季節になると
夫は金木犀の香りを
癒しだねーと
喜ぶ人だった
この香りは一瞬にして
幸せなあの頃を
思い出させ
夫の笑顔が重なった
見上げた空の青と
狂い咲きの桜
そして金木犀の香り
夫は私を通して
この季節を感じたかったのか
それとも私に
ちゃんと
季節を感じて欲しかったのか
大好きな桜のように
綺麗な花を咲かせ
楽しませてくれた人
俯いてばかりの私に
たまには上を向いてごらん
ちゃんと生きてほしいんだよ
大丈夫 大丈夫
傍にいるからね
と
夫の声が聞こえてきそうだった
2年後の今日
あの時と同じように
貴方の声を聞きたくて
空に向け
そっと手を伸ばしてみた
2年前の10月の桜
狂い咲きのソメイヨシノ
今携帯の待ち受けになっている