「氷室」誌 2026年3月号より

400回記念 「私の一句自註」

 

 

山荘を手放すたより羽蟻の夜   細見昌代

 山荘には特別な思いがある。友人が山荘を手放すと聞いたとき、彼女の気持ちが痛い程分かっており、ただ黙って聞くばかりであった。

 

良き日差し風がもちこむ夜寒かな   松村滋子

 春らしい日差しにほっとしていると強い風が吹いてきてまだまだ地上には寒さがいっぱい残っていると実感したのを句にしました。

 

腹膨るるもぐらの骸蠅ひとつ   美崎昌子

 排水溝に腐敗した土竜の死骸が転がっている。牽制するように一匹の大きな蠅がいる。汚れの中の美しさ、命の繋がりを見た。

 

空澄むや能楽堂を出でてより   宮坂千種

 日々の暮らしを詠みたいと俳句を始めましたが、思うようには出来なくて中休みとなっていた時期に浮かんだ句です。

 

多喜二の知らぬミモザを仰ぎ志賀旧居   宮坂美緒

 奈良の志賀旧居での体験を詠みとめることができた手応えから、もっと俳句に挑戦したいと、氷室入会に至った思い出の一句です。

 

車椅子押したる日々よ桐の花   望月有子

 母の通院先の近くに桐の木がありました。花の時期になると、車椅子を押しながら見上げていた記憶が蘇ります。

 

こたつにて父の遺せし本を読む  森 裕子

 父の遺した書籍は生き方を学ぶ古典。父は多くの愛を実行。その原点が多くの書籍の中によみとれた。歳を重ねた今語りあいたい。

 

次回は、「私の一句自註」最終回です。