「氷室」誌 2026年3月号より

400回記念 「私の一句自註」

 

短日や長き休符のやうに闇   昌山瑠美子

 冬の闇と静寂を音楽の休符の様に感じて、朝が来ると鳥や動物が再び音を奏でる様子や時間とリズムの流れを想像して詠みました。

 

鈴なりの柿柿柿と撓みけり   杉浦康子

 転居してきて10年がたちました。庭木のなかった我が家で柿が豊作となりました。とても甘くおいしくおすそ分けもできました。

 

津波の碑訪ねし浜に桜散る   杉本伸一

 二百年前の大災害、島原大変の流死供養碑とあります。肥後も肥前も一緒に葬ってあり、感激しました。

 

捕虫網倉庫の隅に出満待ち   鈴木奈緒子

 亡父を思い出し少し感傷的になった句。少し暗いと指導を受け、下句「埋もれをり」を改めたことで句も気持ちも晴れました。

 

あたしここ韮の蕾の自己主張   鈴木六美

 庭の雑草の仲間入りした韮ですが、夕方、長い中国のお線香のような茎の上に、真っ白なドロップスかと見紛う蕾をつけていました。

 

明の月迦陵頻伽の啼きごゑか   住田祥子

 町内のこども園の鶏声が幽かに聴こえる朝、群青の空に赤みがさし、半月は異界の門のよう。その声いつしか鳥となり月より降る。

 

夜の底へ落つる音する桐一葉   瀬﨑るみ子

 眠れぬ夜、桐の枯葉の落ちるカサリと微かな音が果てしない闇の底へと誘います。「桐の一葉の落つる音」の初句を添削していただき、語調の大切さを知りました。

 

夕立と言うには強き雨の中   高志 蘭

 五山送火の日の京都、夕方に友との約束に急ぐ私の足を止めたのは、夕立ならぬ線状降水帯の強い雨。点灯直前に雨は止みました。

 

左に杖右手に筆や年の酒   玉元庄弘

 膝の骨折で手術六回、曲らぬ脚を支える杖を左に、右手では筆を執り文字を揮毫する老の生きざまを年の酒の季語で詠む。

 

雷神の坐すかと見ゆる雲の峰   寺川貴也

 夏の昼過ぎに丘を通る道から海上に沸き立つ入道雲を見つけた。句会に参加した頃の句で添削で俳句らしさを学んだ思い出の一句だ。

 

アイロンの湯気に冬立つ仕上げ馬   土居郁雄

 洋服を仕立てる父の後ろ姿を見て育ちました。亡くなって一年余り。在りし日の冬を回顧してみました。

 

山凍つや駆除とふ文字の獣道   鳥居裕子

 投稿句は、下五が「目を逸らす」でした。「獣道」と添削して頂いたことにより、「共生」が私の永遠の課題と気づきました。

 

欠席日数正の字以下ぞ冬終はる   二宮悠太

 大学の学期終わりのこの時期は、怠け者の自分を悔いつつ欠席数を数えるのですが、体感より少なかったことに安堵しました。

 

雲流れ行く日やいまは春を待つ   野村幸江

 昨年一月足首を骨折、しばらく杖ついて歩いていた。杖つかず歩けるようになりたい気持ちと春を待つ思いを詠みました。

 

大寒や工事の音の乾きたる   羽尾芳樹

 大寒は一番寒い頃であり、故郷新潟では大雪が降る。関東では青空が冴え寒風が吹くも、町には工事の乾いた音が響き人々が働く。

 

雪道の向う初舞の子の行く手   萩原恵美

 雪の静けさと初舞へ向かう緊張と希望が子の背中に重なり心に残った。

 

虫の音や汝の待つ家の窓明り   林 剛

 芥川龍之介の「汝と住むべくは下町の・・・」という詩がとても好きで右の句を作りました。汝の語を使いましたが甘くて反省です。

 

花水木百年後へはばたけと   原田久仁一

 静岡県立大学を最後に県を退職した記念に詠んだ句です。校章であるはばたく若鳥が、百年後も続くことを願っています。

 

午後二時に帰宅なればと柿捥ぎに   坂 利美

 柿捥ぐに好天と神社総代家の願い。年一度の町会有志食事会を余韻なく帰途へ。登らねば取れぬ柿を捥ぐ作業なり。神、見て御座す。

 

閏年の除夜や除夜香十三種   平井彰子

 はじめての句ではじめて投句し、はじめて掲載されました記念すべき句なのです。

 

星座図になき星を知り穴惑   福田将矢

 奄美大島で夜の生物調査中に作った句です。林道で威嚇してくる「アカマタ」を捕まえた際の頭上に広がる満天の星を詠みました。

 

紅葉の八幡平へひたすらに   藤木千惠美

 初めての八幡平は、山頂にはまだ雪が残り、二度目は紅葉に、すっかり八幡平に魅せられてしまいました。

 

「氷室」創刊400号記念特集も、終盤です。

次回につづきます。

乞うご期待!