氷室 400回記念より

「私の一句自註」をご紹介しています。

 

悲しびの青葉潮なり紫雲丸   竹中教子

 紫雲丸が沈んだのは、私たちが高知から京都へ帰ってきた数年後のことであった。犠牲者の多くは南海中学校の生徒だった。

 

娘いま親となりゐて雛の夜   田崎セイ子

 娘の雛人形を毎年飾っていましたが嫁いで孫が生まれてから我が家では時折出して見るだけ。長生きすれば曾孫の人形が見れるかも。

 

堀の藻に鳴くわれからに鳥の来て   西五辻芳子

 彦根城の堀を屋形船で巡り琵琶湖に通ずる水の豊かさに藻の「われから」が鳴きつつきに来た景を古今集よりの季語で詠みました。

 

一途とふ思ひは秘して鷹放つ   羽鳥正子

 「あ・うん」の呼吸に育つ迄の苦労がいま花開く。浜離宮の張り詰めた空気の中、鷹匠の腕が振られた。緊張の一瞬。

 

ブロンズのうさぎ向き合ふ日の盛   真下章子

 箱根で、ひょろ長い脚の彫刻が、強い光を浴びて不思議さを際立たせていた。兎だと気付いた時、別世界にいるような感覚を覚えた。

 

幕引きのくやし涙よ運動会   益子桂子

 この句の「の」と「よ」は、原句で「は」と「の」でした。句意がよりはっきりとしました。一文字の大切さを実感しました。

 

先付のうるかに父を偲びゐて   南田美惠子

 久しぶりにうるかを食べ、父を思い出した。釣ってきた鮎で自らうるかを作り、酒の肴にしていた父が亡くなって、六年になる。

 

熱帯夜天地の間縮みをり   屋嘉比順子

 南にある沖縄は夏が長い。今でこそ冷房があるが幼い頃は両親が団扇で寝付くまで扇いでくれたことを懐かしく思い出す。

 

産土の土踏み締めて初御空   吉田恭子

 東の空が白み始め社が夜明を迎える。引き締まった空気の中で感じる荘厳さと緊張感。新年を迎える喜びが満ちて来るのである。

 

立ち寄りし湖北の味の鮒なます   吉田多々詩

 愛好家の仲間で長浜慶雲館の盆梅展に出かけました。立ち寄った料理店でいただいた鮒なますは、早春の清しさそのものでした。

 

氷室 2026年3月号 400回記念号より

「私の一句自註」を転載しました。

 

まだまだ続きますよ・・・