400回記念号の特集

「私の一句自註」をご紹介しています。

 

色失せし戦禍の街に夏の月   遠藤長代

 地球上では今も戦争の火花の絶える事がない。歴史的建造物も破壊され瓦礫の山と化す。宇宙の果てから月も復興を願っている。

 

塀のなき村の学校秋の空   大野邦夫

 母校の小学校はまさに野の中にあって、どこからでも構内に入ることができます。そんな田舎の大らかな感じを詠んでみました。

 

劇場を出づれば月の街ロシア   河村純子

 2019年ウラジオストクのマリンスキー劇場でオペラ鑑賞後の句。その後コロナ禍、ウクライナ侵攻。月は世界を私たちを見ている。

 

神殿の廃墟や猫も恋すなる   木村静子

 何年か前にギリシャを旅した時の句で、その時はこんな所でと想いましたが、猫の恋に場所は関係ないとつくづく感じて詠んだ句です。

 

幼名の墓にたんぽぽ返り花   鴻坂佳子

 水戸のお寺の墓地に、歴代藩主にまじって、幼名を記した墓石が、たんぽぽの返り花に埋もれるように、ひっそりと傾いていました。

 

恐ろしきもの何時も不意なり秋の空   酒井富子

 秋遅く、出ないと思っていた蛇が足音に突然現れ恐ろしかった。幼い頃蝮に嚙まれると死ぬと聞き蛇イコール死の恐怖が今もある。

 

庭に来る鳥へ幼ナの御慶かな   佐藤美智子

 子供も孫もよく鳥に話しかけていた。まちがえて雀にネズミさんと呼びかけたりしておかしかった。正月はあいさつで忙しそうだった。

 

白味噌の雑煮に母の遠くなり   重富國宏

 大学入学以来の京都住いも長くなりました。正月の白味噌の雑煮にもすっかり馴染みました。母の味が懐かしくも遠くなりました。

 

ロボットがツカレタと言ふ残暑かな   渋谷啓子

 ホテルのロビーでロボットとの対話の順を待ち、やっと自分の番になったとたんこの言葉。心情を伝えたことに人間味を感じました。

 

翡翠の朝の声あり伊豆の宿   城島千鶴

 2018年氷室のジオパーク吟行に行きました。翌朝二人で水辺を散歩散歩したときの光景と宮澤淑子様を忘れることはありません。

玫瑰や岩間に光る潮だまり   髙橋千画子

 車でオホーツクの海岸沿いを走った時、岩間に光る小さな潮溜り辺の砂地咲く玫瑰、積丹ブルーの海は忘れ得ぬ旅の景色でした。

 

「氷室」2026年3月号 400号記念号より

「私の一句自註」より