とある夏の日のこと
いかにも面倒ですというような顔で彼女は境内の掃除をしていた。
「はぁ……」
およそ巫女にあるまじき表情(?)をしながら境内を掃除する彼女は、参拝客のほとんど来ない博麗神社の巫女・博麗 霊夢である。
「今日もお茶のんで昼寝して、お団子でも食べながらゆっくりできると思ったのに……」
誰にとでも無くダメ発言を呟いた霊夢の深い溜息と愚痴の理由は簡単。彼女のいるこの幻想郷に”異変”が起きているからである。
ここ最近は大きな事件もなくのんびりとした毎日だった。
だというのにこの日は朝起きて外にでた瞬間から、いやそれよりも前が目が覚める直前からいつもと様子が違う。ということがなんとなくではあるが霊夢には理解できていた。
掃除をしながら霊夢は考える。
……誰がこんなことを?
……何のために?
……あぁ……面倒だわ……
……お賽銭も入らないし……
……昼寝もしたいし……
……ちょっとおなかもすいてきたわね……
まったくもって途中から異変とは関係のない事も含め考えながら彼女は空を見上げた。
とは言っても夏に見合った『青い空』と『輝く太陽』ではなく明らかに妖気を纏った霧で少なくとも辺りを覆われた空なのだけれども。
そしてもう一つ溜息の後、
「……これはさくっと解決、という訳にはやっぱりいかなそうねぇ」
また誰に向かった訳でもない呟く彼女。どうにも緊張感の無い巫女である。
「まぁでも、起こってしまっていることはどうしようもないし仕事だしやるしかないわよね……」
などと言いつつも現時点ではこの霧が人里へ大きく影響を与える程になるまでのものではない。そう既に考えはまとまっているようであり、やはり博麗の巫女は博麗の巫女なのであった。
「ま、みんな活発になる夜になったら原因究明といきましょうk……」
と、その瞬間である。全てを言い終わらないうちに何かが勢いよく飛来してきた。
目の前を高速で通り過ぎた後に急停止。その何か、は霊夢の十数歩程の場所に着地した。
折角掃除をしてまとまった木の葉や砂などが吹き飛ばされて辺りに散乱する様子をまるでスローモーション映像のように認識しつつ即座に驚きを呆れと怒りに変えた霊夢の目線の先にいたのは、
「よっ! 霊夢! 異変と聞いて飛んできたぜ!? この霧何だと思う!? 今回はあの湖のほうが怪しいと思うんだけどお前はどう思う!? なんならこれから一緒にいむぐっ!!」
とりあえず喋らせることを許可した覚えはない霊夢はやはり予想通りの来客、彼女の…普通の魔法使い・霧雨 魔理沙の口を片手で塞ぎこう言い放った。
「覚悟は出来てるわね魔理沙? 折角ほうきも持ってることだし今日はまずほうきの正しい使い方から教えてあげるわ。ありがたく思いなさい。」
「ぷっはぁっ!! 何いってるんだ霊夢? このほうきは由緒正しい魔女のほうk……ひぃっ!!」
後日、機嫌の悪い博麗神社の巫女の前で粗相をしてしまうのは命取りである。という一つ噂がなぜか人里にまで流れ、魔女が巫女に退治されかかるというのはまた別のお話である。
その日、博麗神社では般若の形相で魔女に掃除をさせる巫女の姿が目撃された。
勿論狙ったのかのごとくそんな日に限って珍しく参拝客がいたが、魔女と巫女の状況を目撃し境内に入る前に何も見なかったことにして来た道を帰っていってしまった。
それに霊夢は気づくこともも無いまま夜を迎える。
今日も博麗神社の賽銭箱はいつもとかわらず空っぽなのであった。