数日前

 

仕事がようやく終わった。

もう、ほかのみんなは帰っている。

今日も疲れたなあとシャッターをおろし、歩道へ出ると、

黒猫が私が歩く先にちょこんと座ってこっちを見つめている。

 

あいつだ!

 

そう、いつも会社横の車庫をうろうろして、時にベントレーという高級車のボンネットに足跡を残し、時に会社のゴミ集積所になんとも言えないネコ臭を残し、我がもの顔にうろついている小さい黒いネコ。

 

私は、ひそかにこいつと戦ってきた。嫌がる超音波を発する機械を置いたり、寄り付かない臭いを発する薬剤を撒いてみたり。

 

しかしこいつは”そんなこと何でもないよ~”とばかりに、まわりをうろついていた。

毎日、毎日。

 

私は疲れていた。周りを見回すと、人影はない。

と思った瞬間、目を見開いて駆け足でねこに突進していった。

「おまえなー。いいかげんにせいよ!!」

もちろん言っていない。心で叫んだ。

私は、仕事で疲れていた。

 

当然、ネコは素早く横に飛びのいて逃げていった。

ちっ!!!

 

 

翌日、今日も私は最後だった。

昨日と同じように肩の重さを感じながら、車庫のシャッターを降ろして外へ出る。

 

すると、また、あいつだ。

同じように私を見上げている。

私は疲れていた。

だから、同じようにネコに突進していった。

あいつはすばやく逃げる。

何やってんだ私。

 

 

3日目、やはりあいつは私を待っていた。

しかし、今日の私は冷静だった。

あいつが私を見上げていても、無視することにした。

あいつは私を見上げ、

 

「ニャー」

 

と鳴いた。

 

無視、無視。

静かにあいつの横を通り過ぎた。

 

 

あれから、

あいつをみかけなくなった。

どうしたんだろう。

 

 

 

あの黒い小さな生き物の身を案じている私がいた。