久しぶりに読み応えのある本を読んだ。

ジョン・アーヴィングの「ひとりの身体で」

 

ジョン・アーヴィングの作品は映画化されているものも

多い。

「ガープの世界」「サイダーハウスルール」

「ホテル ニューハンプシャー」など。

 

それまでに映画は数本見た事があったが

初めてこの作家を読んだのは

「未亡人の一年」という本。

「ドア・イン・ザ・フロア」というタイトルで

前半の一部が映画化されているが

後半が良い。

 

この「未亡人の一年」という本は

5年前に股関節置き換え手術で3週間入院した時、

長めの本をと考えて、持って行った本の一つ。

 

これが本当に面白くて、ついつい引き込まれ、

ラストの場面では包帯ぐるぐるの病院のベッドの上で

思わず感涙したことだった。

 

この後「ホテルニューハンプシャー」、「また会う日まで」

「偶然の旅人」(これも映画化されていた。)

と読んでみたが、ストーリーテリングの力が半端なく

ぐいぐいアーヴィングの世界へ連れていかれる。

 

この「ひとりの身体で」では、

主人公は70代のバイセクシャルの作家で、

自身の人生を振り返るという設定になっている。

 

まだまだ偏見のある60年代に

性的少数者として、不安や葛藤をかかえながら

高校生活を送り、その後自分を受け入れていく過程

そして自己を確立していく話が描かれている。

 

その過程でのエイズでの多くの友人知人の闘病や死も

描かれる。

日本は世界の中ではエイズ禍が少なくてすんだ国らしいが

米国の大変だった様子が伝わってくる。

 

又、演劇と文学が大きなテーマになっていて

地方の街でのアマチュア劇団での公演や

高校の演劇サークルによる上演、

重要な登場人物の一人の

町の公立図書館の司書(トランスジェンダー)から

薦められた作品が、主人公に大きな影響を与える。

 

大いなる遺産 ボヴァリー夫人 ジョバンニの部屋etc.

 

又演劇については、

シェークスピアの作品やイプセン作品の上演の話が

何度か出てくる。

 

その一つの「テンペスト」の配役が肝でもあるのだが、

テンペストは読んでいなくて、映画化されたものも難解で

途中で諦めてしまったので、ちょっと理解が及ばず残念。

 

これまであまりLBGTについて知らなかったが

この本を読んで、少しだが理解が進んだかと思う。

 

今NHKのEテレなどでは、LGBT当事者たちが参加している

番組もあって、見た事もあるが

もっとLGBTが認識されて良いというか、

当たり前であるべきだと感じる。

 

作品の最終で主人公は母校で教師と演劇指導者となり、

性的少数者のために社会的働きかけをしていくことになる。

 

そのあたりは政治的というか社会的テーマの作品と言えるだろう。

 

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ここからはちょっと思い出した話。

 

今から15年位前

母が幼馴染の友人から、70歳を過ぎて打ち明けられた話。

 

その友人のご主人(故人)はゲイだったそうだ。

ご主人は以前の国鉄に勤務していたが

ずっと同性の恋人がいたそうだ。

 

結婚した後に知ったそうだが、その為に普通の夫婦生活

家庭生活ではない人生を送って来たそうだ。

 

それを50年間誰にも言わずに生きてきて

夫を見送り70歳になって初めて口にしたそうだ。

 

けれど同年配では戦争で夫を亡くした人もいる、

生涯独身だった人もいる。

夫は自分に一人息子を授けてくれたし、

生活も安定してやってこれた。

 

普通の夫婦生活はなかったけれど自分の人生は

それでも良かったと思っている。

と話したそうだ。

母もひどく驚いたらしいが、私はその話を聞いて

なんというか立派だなあと感心してしまった。

 

その時代の人ならではの潔さがあるなあと感じた。

 

いずれにせよ自分の人生を肯定的に受け止めるのは

とても大事だと思う。

 

障がいを持っている人たちも含め

もっと多様性が認められて、

もが生きやすい世の中になってほしいね!