僕が僕であるようで僕でない感覚 | 久遠屋EGGMAN

僕が僕であるようで僕でない感覚

第5章「遠ざかった音楽」



僕は20歳を迎えた。


仕事は順調でいつの間にかチーフクラスにまで昇進し


仕事をするのが楽しくて仕方がない時期だった。



この頃僕は音楽から遠ざかり何もしてなかった・・・。


と、いうわけでもなかったんだな、実は。



バンドが消滅してから、本格的なバンドは確かに遠ざかっていたけども


その間まったく活動してなかったわけではない。


会社の人たちと飲み会や慰安旅行のたびにメンバー編成し


バンドもどきのことはしていた。


数回あわせただけの簡易的なバンド。


飲み会のイベントというだけのもの。



正直言ってほとんどやる気はなかった。


覚える気もなし、演奏するのも適当。


やりたくなかった。



こうして僕の演奏レベルはどんどん低下していく。


以前ならフレーズなど考えなくても弾けたのに


今じゃどのフレットがどの音階かすらも瞬時に出てこなくなった。


右手と左手のバランスが悪くなり、爪弾いてもよくひっかかることも多くなる。



一時、感動も薄れ、心と体が別々になっていると感じた時期があった。


僕の中では自分という存在が二人いるような感覚。


命令に対し、体が反応しない。


20歳前後までの自分とそれ以降の自分では完全に別物と言っても


相違ないぐらい違うものになっていた。



以前の自分は想像力にあふれ、自分の意思と体の反応が一致していた。


何故だ。


まるで人が入れ替わったかのような感覚。


実は今もその不具合というか、自分が自分でない感覚に襲われるときがある。


原因は不明。


そしてこれは今はじめて告白する事実。




そこから自分の作る曲が変わった。




バンドというものはしなくなったが、そのかわり録音に夢中になった。


ちょうどHDDタイプのMTRが出始め、パソコンが一般家庭に普及し始めた頃。


僕は友人が購入した最新式のMTRを使って新曲の録音を始めた。


以前の曲とは比べ物にならない録音精度。


しかもシーケンスソフトまで導入。


画期的だった。



ここからDTMにはまりこんでいく。


曲は腐るほど出来た。


それも自信のクオリティ。


あきらかに以前の曲よりレベルアップしている。


コード進行も変化し、アレンジも時間をかけて考えるようになった。



バンドじゃないから、自分一人で作りこむから


DTMは私にぴったりな世界。


キーボードなど持ってないから全て手入力してたせいで、1曲完成させるのに


だいたい1ヶ月ぐらいはかかっていたと思う。



ただ残念なのはミキシング知識がなかった。


またそれを知る術もなかった。


でもそれはそれで楽しかった。


作りこむマスターベーションに満足していた。




つまりこの数年間、僕はバンド活動をまったくしておらず


たった一人で、誰も聞いてくれる人のいない環境で


ただコツコツと曲を作り続けていた。



セッションとか弾き語りとかはいくつかやった覚えはある。


どれも満足するものは何一つなかったけども。


バーとかスナックとか仲間内だけでしかやってなかったから


腕はどんどんにぶるだけ。


この頃になるとコード弾きしかせず、ほとんどソロを弾くことはなかった。


正直もう興味はなかった。



だけど作曲へのこだわりや情熱だけはどんどん進化していった。


メロディアスで面白みのある展開、複雑で意味深な歌詞、


ありきたりじゃない知的な曲を作り出すことだけに集中していた。


曲を作ることが果てしなく面白かったのだ。




つまり私の音楽的なポジションが、プレイヤーから作曲者へと


変化していった時期でもある。




時間にして小学生1年生が中学校へ進級するぐらいの期間


僕は潜伏したままだった。


誰も聞くことの無い曲をただ一人で作り続ける日々。


たまに飲み屋でセッションや弾き語りする程度。




でもそれは突然、何の前触れもなく自分に襲いかかる。



「バンドをしたい」



本当に突然だった。


何がきっかけだったかもう覚えてないけど、僕は何故かそう思った。



たくさん作り続けていたオリジナルをバンドでしてみたかった。


バンドという形の中で、ひとつの曲を作り上げていく過程を経験したかった。


自分とは違う感性を感じ、強烈な刺激を受けてみたかった。


そしてそれが自分の感性にどう生かされるのか、


自分の知らない新たな可能性を引き出してくれるのか、


僕は知りたかった。


感じたかった。




ある日僕はメンバーを募集する掲示板を見ていることに気付く。


そしておもむろにネットの掲示板でこう書き記した。



「ビートルズのコピーバンドを一緒にしませんか?」




次回は第6章「音楽活動への復帰」