永遠の秘め事は甘美な毒となって僕を蝕む。
それは偶然だった。
あなたへの思いに苦しむ僕への神の気まぐれだったのか、
悪魔の甘い罠だったのか、わからない。
あなたの家にいつものようにミナを迎えに行くと
ミナは少しだけ居間で待つように告げ、近所に出かけて行った。
あなたはユリと会っているのだろうか。
幼いころから馴染みのあなたの部屋を覗くと、あなたはソファでうたた寝をしていた。
今なら家に誰もいない。
少しだけ、ほんの少しだけ、その寝顔を見たいと思った。
足音をたてないようにあなたの部屋に入り、そっとソファに近づく。
あなたは目を覚ます気配もなく、安らかな寝息をたてていた。
いつもは吸い込まれそうな大きな瞳が閉じられ、
男にしては長い睫だったのだと初めて知る。
こんなにあなたをじっと見つめられることはない。
あなたはユリと一緒にいる時間が増え、
僕もあなたから離れるようにミナと付き合うことを選んだ。
薄く開いた唇からかすかな吐息がもれる。
あなたはもうこの唇でユリに触れたのだろうか。
それとも、もっと先まで…。
考えるだけで胸が苦しくなる。
外で手を繋いでいるだけで不良といわれた時代だけれど、
若い恋人たちは人目を忍んで思いを伝え合う。
僕もミナにねだられたけれど、髪に口づけるのが精いっぱいだった。
目覚めないあなたの唇にそっと親指で触れる。
思ったよりも柔らかいその感触に体が熱くなる。
直接触れることは許されないならせめて指だけでもと
あなたの唇に触れた指に口づけ、軽く吸い上げる。
これ以上はダメだ。
ここにいたらきっと触れたくなってしまう。
すべてを壊してでもただ一度だけ、欲してしまう。
そっとあなたの部屋を出て、逃げるように家を出ようとすると
ちょうどミナが入ってきた。いつの間にか帰っていたらしい。
「オッパ、どこにいくの?待っていてって言ったじゃない」
「急用を思い出したんだ。ごめん、また明日会おう」
「今日がよかったの。昨日から楽しみにしていたのよ?」
「ごめん。この埋め合わせはちゃんとするから、今日は勘弁してくれ」
「いいわ。その代り、今度は私の言うことをなんでも聞いてね、約束よ」
なかなか納得しないミナを説得してなんとかそのまま家を辞して
走って家に帰った。
とてもじゃないがどこかに出かける気分になれないし、
一人で部屋にこもりたかった。
ほんの出来心からの小さな過ちだけど、
たった一度の夢のようなこの感触を忘れたくなかった。
あなたの寝顔と唇の感触を。
部屋に戻ると鍵をかけ、ベッドに入って頭から布団に潜り込む。
外界と完全に自分を遮断し、先ほどの出来事を反芻する。
ただ一度、親指で触れたあなたの唇の感触が忘れられなくて
その指で自分の唇に触れ、舌で舐り、
何度も夢の中であなたの唇を奪いあなたを汚した。
朝目覚めると自分の吐き出した白い欲望の残滓がけがらわしくて
酒に逃げた。
飲んでも飲んでも酔えなくて、どんどん酒量が増え、
やっとのことで眠ればまたあなたを汚す悪夢に苛まれる。
眠ることすら恐ろしくなる。
ずっと隠しておかなくてはいけない秘密。
あなたに知られたらきっともうそばにいられない。
だけど、なんて甘美な罪なのだろう。
どうせ思いが通じることはないのだ。
もし通じたとしてもこの閉鎖的な時代、
家族も友達もすべてを捨て命がけでも成就できない思いだ。
それならば誰にも知られずこの甘美な罪を背負っていこう。
何もないふりであなたの隣で弟の顔をしていこう。
すっかり酔いが醒めてしまった頭で
僕は一生をかけてこの思いを隠していく決意をした。
あなたのためなら喜んで堕天使にだってなれる。
それは偶然だった。
あなたへの思いに苦しむ僕への神の気まぐれだったのか、
悪魔の甘い罠だったのか、わからない。
あなたの家にいつものようにミナを迎えに行くと
ミナは少しだけ居間で待つように告げ、近所に出かけて行った。
あなたはユリと会っているのだろうか。
幼いころから馴染みのあなたの部屋を覗くと、あなたはソファでうたた寝をしていた。
今なら家に誰もいない。
少しだけ、ほんの少しだけ、その寝顔を見たいと思った。
足音をたてないようにあなたの部屋に入り、そっとソファに近づく。
あなたは目を覚ます気配もなく、安らかな寝息をたてていた。
いつもは吸い込まれそうな大きな瞳が閉じられ、
男にしては長い睫だったのだと初めて知る。
こんなにあなたをじっと見つめられることはない。
あなたはユリと一緒にいる時間が増え、
僕もあなたから離れるようにミナと付き合うことを選んだ。
薄く開いた唇からかすかな吐息がもれる。
あなたはもうこの唇でユリに触れたのだろうか。
それとも、もっと先まで…。
考えるだけで胸が苦しくなる。
外で手を繋いでいるだけで不良といわれた時代だけれど、
若い恋人たちは人目を忍んで思いを伝え合う。
僕もミナにねだられたけれど、髪に口づけるのが精いっぱいだった。
目覚めないあなたの唇にそっと親指で触れる。
思ったよりも柔らかいその感触に体が熱くなる。
直接触れることは許されないならせめて指だけでもと
あなたの唇に触れた指に口づけ、軽く吸い上げる。
これ以上はダメだ。
ここにいたらきっと触れたくなってしまう。
すべてを壊してでもただ一度だけ、欲してしまう。
そっとあなたの部屋を出て、逃げるように家を出ようとすると
ちょうどミナが入ってきた。いつの間にか帰っていたらしい。
「オッパ、どこにいくの?待っていてって言ったじゃない」
「急用を思い出したんだ。ごめん、また明日会おう」
「今日がよかったの。昨日から楽しみにしていたのよ?」
「ごめん。この埋め合わせはちゃんとするから、今日は勘弁してくれ」
「いいわ。その代り、今度は私の言うことをなんでも聞いてね、約束よ」
なかなか納得しないミナを説得してなんとかそのまま家を辞して
走って家に帰った。
とてもじゃないがどこかに出かける気分になれないし、
一人で部屋にこもりたかった。
ほんの出来心からの小さな過ちだけど、
たった一度の夢のようなこの感触を忘れたくなかった。
あなたの寝顔と唇の感触を。
部屋に戻ると鍵をかけ、ベッドに入って頭から布団に潜り込む。
外界と完全に自分を遮断し、先ほどの出来事を反芻する。
ただ一度、親指で触れたあなたの唇の感触が忘れられなくて
その指で自分の唇に触れ、舌で舐り、
何度も夢の中であなたの唇を奪いあなたを汚した。
朝目覚めると自分の吐き出した白い欲望の残滓がけがらわしくて
酒に逃げた。
飲んでも飲んでも酔えなくて、どんどん酒量が増え、
やっとのことで眠ればまたあなたを汚す悪夢に苛まれる。
眠ることすら恐ろしくなる。
ずっと隠しておかなくてはいけない秘密。
あなたに知られたらきっともうそばにいられない。
だけど、なんて甘美な罪なのだろう。
どうせ思いが通じることはないのだ。
もし通じたとしてもこの閉鎖的な時代、
家族も友達もすべてを捨て命がけでも成就できない思いだ。
それならば誰にも知られずこの甘美な罪を背負っていこう。
何もないふりであなたの隣で弟の顔をしていこう。
すっかり酔いが醒めてしまった頭で
僕は一生をかけてこの思いを隠していく決意をした。
あなたのためなら喜んで堕天使にだってなれる。
