沈む夕陽を背中にバリトンサックスを吹く人、それがあなただった。


僕の仲間にバリサクを持ってる人はいなかったから、

初めて目の前で生の音を聴いた。


何の曲かわからないけれど、目を閉じて体を揺らしながら奏でる音は

驚くほど柔らかかった。


僕も目を閉じて彼の音に身を任せる。

羽毛のようにふんわりと温かく包まれていたと思ったら、

急に攻撃的なエッジの効いた低音が体を突き抜ける。


この人の音、好きだ。

すごく艶っぽいんだ。

同じ楽器だったとしてもきっと僕にはこんな音は出せない。


「いいな…」


そう思ったら思わず声に出していたみたいで、

あなたが吹くのをやめて僕の方を見た。


「だれ?」


「あ、僕…邪魔するつもりじゃなくて」


「そうじゃない。名前聞いてる」


「ごめんなさい」


「見かけない顔だけど、うちの学生じゃないよな」


「はい。今度のジョイントコンサートのことでお邪魔してます」


「ああ、あれね。君出るの?」


「はい、そうなると思います」


「ふうん。それ君の楽器だよね。見せてもらっていいかな」


彼が僕の持っていたケースに目をやる。


「はい、どうぞ」


僕はケースを開いて中の楽器を見せた。


「ずいぶん古い楽器だな」


「ええ、祖父が遺したものなんです」


「いいな」


「え?」


「いい楽器だ。おじいさん、大事にしてただろ」


「そうみたいです。祖父が亡くなってからは誰も使ってなかったんですけど」


「楽器は吹いてやらないと可哀想だ。大事にしたらいい」


「楽器屋のおじさんにも似たようなことを言われました」


「…それ、たぶんうちのじいさんじゃないかな


「え?チョンおじさんですか?」


「やっぱりな。俺のじいさんだ。君のおじいさんってシムのじいさん?」


「はい。祖父を知ってるんですか?」


「あー、たまにうちのじいさんと楽器吹いてたから。俺はガキの頃に何回か会っただけだけど」


「チョンおじさんにはこの楽器がお世話になって」


「思い出したよ。数年前にじいさんがすごくうれしそうにしてたから。

久しぶりにダチに会えたって喜んでたよ。ありがとな」


「そんな…僕のほうこそ」


「たまにはじいさんに楽器見せてやってよ。最近はすっかり老けこんじゃったからさ」


「はい、ありがとうございます」


「そんなかしこまらないでいいよ。じいさん同士がダチなら俺たちもダチみたいなもんだろ」


「はい…え、と」


「ユノ」


「ユノ…ヒョン?」


「お前は?」


「チャンミンです」


「そっか。じゃあチャンミナ、これから家に来いよ」



それから僕たちは親しくなって、僕はおじいさんの楽器店にもよく遊びに行くようになった。

おじいさんは僕が楽器を続けていることをとても喜んでくれて、

暇な時は自分の楽器を持ってきて一緒に演奏を楽しんだ。


おじいさんがいない時も、ヒョンと2人で楽器を吹いたり、ピアノを弾いたりして過ごした。

ピアノは自己流らしいけど、ヒョンは子どもの頃から楽器に囲まれて育ったから

いろんな楽器を友達と戯れるように演奏する。

その姿を見てると僕まで子どもに戻ったような楽しい気持ちになった。


ヒョンと出会って僕は本当にうれしかった。




to be continued ...




さすがにサックス吹いてる画像はないので、ギタリストホミンちゃんで許してください。


(画像はお借りしています)