夜中に携帯が鳴る。

誰とも話す気になれず無視していたけれど、何度もかけ直してくるので

しかたなく応答すると、マネージャーの慌てた声が耳に飛び込んでくる。


「チャンミン、すぐに病院に来てくれ。ユンホが大変なんだ」


「すぐに行きます」


車のキーを手に取ったものの、冷静に運転などできない気がして、

タクシーで病院に向かった。


走り続けて息も整わないまま病室に飛びこむと、

ベッドのまわりの機器類は倒され、コードや点滴のチューブが散乱し、

無理やり引き抜いたのか、シーツには点々と血の痕が散っていた。

そして、ベッドの上に鎮静剤で眠らされたあなたが横たわっていた。


「何があったんですか?」


「検査が終わって戻ってきてからずっとチャンミンさんを探してまして、

お帰りになったことや、少し独りで静養された方がいいとお話しましたら暴れられて…」


疲労の色が見える医師の説明だけでは状況がわからず、付き添っていたマネージャーにも

僕が帰ってからの様子を細かく説明してもらう。


「ユンホはお前を独りで帰したことを知って激こうしたんだよ。

どうも記憶があの頃まで戻ってしまっているらしくてな」


「そうでしたか…。とりあえずヒョンが目を覚ますまで僕がつきそいます」


「そうだな。お前の言うことなら聞くかもしれん」



看護師やマネージャーは病室を片付けると、僕だけを残し出て行った。


大袈裟な機械がなくなり、がらんとした薄暗い部屋であなたと2人きり、

眠っているあなたの乱れた髪をそっと手ですいて直す。


「ヒョン、どうして僕を探したの?僕は、僕たちはもう大丈夫なのに、

どうしてヒョンの心はあの頃に…まさか、ヒョン。僕とのことを後悔してるの?」


あなたが記憶の海の中を彷徨うなら、

僕は何度でもその海に飛び込んであなたを連れ戻しに行くよ。

でも、あなたがこの道を後悔するなら、僕に出来ることは何もない。


僕の瞳からこぼれおちた涙があなたの頬を濡らす。


「ヒョン、ぼくはどうしたらいい?」


そのときあなたの腕が僕を引き寄せ、その温かい腕の中に閉じ込める。


「チャンミナ、どうした?また怖い夢を見たの?」


あなたの腕の中で何も考えないで眠りたい。

あなたは優しく抱きしめてくれるけれど、その指は僕を求めない。

僕はいつだってあなたのすべてがほしいのに。


何も言わずにあなたの胸にもたれる僕の髪を優しく撫でる手を取って

あなたをじっと見つめる。

思い出して、僕はあなたのものだってことを。

僕の瞳からあふれる涙を吸って、その唇ですべてを奪って…。


「ダメだよ、そんな目をしちゃ」


あなたは少し困った顔で微笑む。


「勘違いするだろ?まるでお前が…」


あなたの言葉を遮るように、唇を重ねた。



to be continued ...