今夜は満月だって、電話で友達から聞いた。
冬の満月は、そこだけが白く温かい光に満ちていて、まるでお前のようだ。
そして、きっとお前もこの月を見上げているんだろう。
今夜はなんだかお前に会いたい。
何日も離れていたわけではないけれど、月のきれいな夜は一人でいたくない。
きっともうお前は一人で大丈夫だろう。
どの仕事も立派にこなしていくお前が本当に誇らしいけれど、
常に俺の傍にいたお前がここにいないことだけが寂しい。
俺たちはもう取り残された子どもじゃない。
どんなに困難があっても、2人なら乗り越えられると信じている。
もうすぐやってくる大きな問題もきっと乗り越えてみせよう。
お前を残して行っても大丈夫だ。
俺が選んだお前、お前が選んだ俺、俺たちだからできる。
お前さえいればいい。
俺だけに見せる甘えた上目遣い、拗ねる背中、触れればすぐに反応する体、
そのすべてが何よりも愛おしい。
命をかけて守りたい、この世でただ一つの奇跡の存在。
神様は何でお前を女にして与えてくれなかったのだろうと思ったこともあるけれど、
それは、一生隣を共に歩いていける存在として俺に与え給うたのだろう。
何度体を繋げても、その体内に何度愛を注ぎ込んでも、何も生みだせないけれど、
2人でしか作れない世界が確かにここにある。
お前を思いながら車を走らせ、ふと以前2人で行った場所を思い出す。
もしかしたら…逸る気持ちを抑えながらお前を探す。
果たして、お前はそこに一人たたずんでいた。
美しい後ろ姿は、月の光を浴びて一層清らかなオーラを放っていた。
やっぱりお前なんだ。
俺のただひとつの愛。
すぐに駆け寄って抱きしめたい衝動をぐっと堪える。
誰にもお前を汚すことなんかできやしない。
あまりにも美しくて手を伸ばすのが躊躇われる。
数メートル手前でお前を見つめることしかできない。
切なくお前を見つめることしかできない。
「ヒョン?なんで…」
不意にお前が振り返り、泣きそうな顔で俺を見つめる。
俺はたまらずお前に駆け寄りそっとその体を抱きしめる。
その表情ですべてがわかるから、ただお前を抱きしめる。
俺だって、お前に会いたかったよ。
こうしてお前をこの腕に抱きしめたら、もう帰したくなくなる。
唇を重ねればもう止められなくなってしまうから、
幼い頃のようにお前の手を引いて、俺のポケットに入れる。
唇をほしがる拗ねた横顔が可愛いけれど、家まではだめだ。
何も言わずに車の助手席に座らせ、不満そうに見つめるお前に気づかないふりで
シートベルトをしてやると、焦れたお前は俺を引き寄せ唇を重ねてくる。
吐息だけで俺の名前を呼び、舌を絡ませながら自らシートを倒す。
「こら、こんなところで誘うなよ」
「ヒョン、家まで我慢できない」
「いいのか?こんなに月が明るいのに」
「こんな夜中に誰もいませんよ」
「月が見てるだろ?」
「月が見ていても…今すぐ欲しい。来て、ユノ…」
「チャンミナ…」
そのまま愛しい体に覆いかぶさり、ドアを閉める。
狭い車の中で、誰に見られるかもわからない場所で俺を求めるなんて
こんなお前は初めてだ。
もう止められない。
お前の中で冷えた体を温めてくれ。
お前の中で熱く滾る俺を鎮めてくれ。
白い月明かりの下で、何度も愛し合う。
ひとつに溶け合う悦びが迸り、お前のいるここだけがこの世の楽園なのだと知る。
月だけが知る、2人だけの楽園がここにある。
fin.