ヒョンと過ごした初めての夜、心も体もひとつになれた気がした。
優しく抱かれ、何度も追い詰められては甘やかされて、
僕はだんだんとその行為に慣れていく。
それから僕たちはヒョンの部屋に移って、一緒にお風呂に入った。
部屋のユニットバスは小さいので、どうしてもくっついていなくちゃいけなくて
でも、それが恥ずかしいけどうれしかった。
ぬるめのお湯につかりながら、僕の体を優しく撫でる指を感じながら、
ヒョンの胸にもたれて目を閉じる。
いろいろしてちょっと疲れた体にこの温度が心地よくて、
つい、うとうとと眠ってしまいそうになった。
「チャンミナ、眠いのか?」
「ううん、お湯が気持ちよくて…」
「気持ちいいのはお湯なの?こっちじゃなくて?」
ヒョンの指が危ない所に伸びそうになったので慌てて止める。
うんと甘えた目をしてその手を頬にあてると、ヒョンは優しく撫でてくれる。
僕の顔を振りむかせて唇に触れるだけのキスをする。
ヒョンの優しいキスが好きだ。
さっきはうんとエッチなキスだったけど、ヒョンの唇で撫でられるような
優しいキスならずっとしていたいくらいだ。
ヒョンはそれをわかっていて、わざと時々唇を離して僕を焦らすんだ。
「ヒョン…」
「どうした?」
「意地悪…」
「なんでだ?」
「わかってるくせに…」
「言わなくちゃわかんないだろ?チャンミナ、言ってごらん」
「僕がこれ好きなのわかってるくせに、どうしてやめちゃうの?」
「これって?」
「ヒョン…」
「言ってごらん。チャンミンが好きなのはどれ?」
「言わないもん」
「チャンミナ、そんな可愛い顔して睨んでもダメだよ。それとも俺を誘惑してる?」
「ヒョンの意地悪。もう知らない」
怒ってバスタブから出ようとすると、腕を強く引かれ、またヒョンの腕の中に戻される。
顎を取られて、今度はさっきよりも深いキスをされる。
ヒョンはこっちのキスの方が好きみたいで、すぐ舌を出せって言われるんだ。
「チャンミナ、舌を出してごらん」
「イヤ、ヒョンは意地悪だから聞かないもん」
「言うこときかないとこうだぞ」
ヒョンは笑って僕の鼻をつまむ。
びっくりして口を開けると、ヒョンの舌が忍び込んでくる。
「ん、ヒョン…ダメ」
「大丈夫だから、もうちょっとだけ」
「あ、そうだ!僕ヒョンに聞きたいことがあったの」
急に大声を出した僕に、ヒョンは苦笑しながら頭をくしゃっと撫でた。
そして僕の腕を取って、バスタブから出た。
風邪をひかないようにと、バスタオルで丁寧の体をふいてもらって、
持ってきたパジャマを着ようとしたらそのままヒョンのベッドに連れていかれた。
ヒョンの部屋は僕の部屋よりもずっと大きくて、
寮長もしているから、部屋にはソファとローテーブルがあった。
ベッドも普通はシングルなのに、ここのはセミダブルだった。
ヒョンのベッドに2人でもぐりこむと、ヒョンの匂いにつつまれて、
僕はなんだか眠くなってしまったけど、ちゃんと聞かなくちゃいけないんだ。
どうしてヒョンが僕に名前を教えてくれなかったのか。
どうしてヒョンは僕に会いに来てくれなかったのか。
そして、どうして僕の父はヒョンに近づいてはいけないと言ったのか。
ヒョンは優しく僕を抱きしめて、髪を撫でながらひとつひとつ答えてくれた。
ヒョンの生まれのこと、お母さんのこと、そしてお父さんのこと。
僕は普通の家庭に生まれてお父さんとお母さんに愛されて育ったから、
ヒョンの境遇はどんなに大変なものか想像もできない。
父親が子どもを自分のコマとして利用するだけなんてことがあるんだろうか。
僕には理解できない世界だった。
それでも、僕の父と、ヒョンのお父さんの会社が敵対関係にあることはわかった。
僕がヒョンに近づいてはいけない最大の理由だ。
ヒョンは僕を守るために会わなかったのだと言った。
「チャンミナ、落ち着いて聞いてほしいんだけど」
「何でも言って、ヒョンの言う通りにするから」
「学校内ではお互い知らないふりをしよう。俺とお前の仲が知れるとお前が危険だ」
「ヒョンに会いに行ったらダメなの?」
「廊下で会っても知らん顔をするんだ」
「偶然でもダメなの?」
「ああ」
ヒョンと思いが通じあって、普通の恋人同士みたくっていうのはもちろん内緒だけど、
先輩後輩としてなら一緒にいられると思ったのに、それがダメなんて。
悲しくなって泣きたくないのに涙がじわっと浮かんでくる。
「チャンミナ、泣かないで。昼間会えなくても夜はここでずっと一緒にいよう」
ヒョンが優しく抱きしめて、涙を吸ってくれる。
余計に悲しくなってヒョンの首にすがりつくと、ヒョンが僕の体を下にして抱きしめる。
裸のままの肌を触れ合せて、唇を重ねる。
「夜はずっと一緒にいてくれるの?」
「ああ。消灯時間になったら部屋に鍵をかけてこっちにおいで。毎日一緒にいよう」
「毎日来てもいいの?」
「いいよ。ここでいっぱい話をして一緒にベッドに眠ろう。朝までいていいから」
「僕、本当に毎日来るよ?」
「お前が来てくれないなら俺が毎日お前の部屋に行くつもりだった」
「本当に?」
「もう、お前がいないと眠れないよ」
「僕も。ヒョンがいないとイヤだ。ヒョンと寝たい…」
「こら、誘うなよ」
「え?誘ってなんか…あっ」
なんだか2人してまたヘンな気分になりそうで、お互い照れ臭かったけど、
僕たちはそのまま抱き合って眠ることにした。
ヒョンの匂いに包まれて、ヒョンにあちこちキスされて、
なんだかくすぐったくて幸せだった。
ここにいるときだけは僕は安心していられる。
だってヒョンが僕を一番大事にしてくれるから。
だってヒョンが僕には一番大事だから。
ヒョンが好きで、ヒョンなしなんて考えられなくて。
昼も夜もずっと2人でいたい。
だけど、それはダメなんだってヒョンが言うなら、
僕はヒョンの言う通りにしよう。
上手く他人の振りができるかちょっと心配だけど、ヒョンの言葉を信じて。
「チャンミナ、誰も知らなくても俺の恋人はお前だけだよ」
to be continued ...
(画像はお借りしています)