鬱憤をぶつけるように彼女を乱暴に扱って、余計に気分が落ち込んだ。


何をされても受け入れる体だが、あちこち痣ができていた。

これでは暴力じゃないか。

自分がイヤになった。


乱れた衣服を整えると、彼女は何も言わず部屋を出ていった。

こんなことくらいで傷つく女ではないけれど、情がないなら抱くべきじゃなかった。

家に戻る度、彼女を抱くたび、俺の魂が汚れていくようだ。

おれはこんな汚泥の中で生きていくしかないのだろうか。


その夜、本宅からの呼び出しを受けて父の書斎に行くと、大きめの封筒を渡された。

A社に関する資料と書かれたそれは、競合するある会社についての調査資料で、

そこには最近成長著しいA社の研究部門についての報告と、

その部署に所属する全員の家族にまでわたる調査報告があった。


A社の研究部門といえば、うちの学校からわりと近くにある。

研究員の子息が通っていてもおかしくはない。

そして、父は俺に処理するようにと命じたのだ。


何も言われなくてもこの資料だけで父の意図を正確に汲み取って的確な判断をしなければ

俺は後継者はおろか、利用価値のないものとして切り捨てられる。

俺だけならまだいいが、病気がちの母も追い出されるだろう。


企業倫理がどうとか青臭いことを言うつもりはないが、気がすすむことではない。

それでも、やらなければ、ただ俺が生きていくために。


自室に戻ってから資料に目を通していると、秘書が部屋に入ってきた。

シャワーを浴びて髪が濡れたままで素肌にガウンをはおっただけの姿で

俺の横に座りしなだれかかってくる。

資料をめくる手を取ると、ガウンの上から胸に導く。

「やめろよ」


「あら、さっきはずいぶんと楽しんだのに、冷たいのね」


「楽しんだつもりはないけど?何もしないのも無作法だと思ってね」


「生意気な口をきくのね。全部私が教えてあげたのに」


「頼んだ覚えはない」


「あんなに夢中だったのに忘れてしまったなんて残念ね」


「ガキの頃の話をされてもな。いつまでもあんたの思い通りにはならないさ」


「それはどうかしらね。どうせあなたはお父様には逆らえない。

 あの方のご意思は私が一番わかっているもの」


「親父の愛人だって隠しもしないんだな。大した玉だよ」


「A社の件もうまくいくように教えてあげましょうか。

表だって仕掛ければうちにも傷がつくから他から攻めるの。

そこに家族構成まで書いてある資料があるでしょ?」


「子供に手を出すなんて外道のやることだろ」


「あら、それくらいどこでもやってることよ。

手を出さなくてもスキャンダルの種になるだけでいいもの。

あなたの学校の生徒も何人かいるはず」


「男ばっかりの学校で何をしろっていうんだよ」


「あら、男だからいいんでしょ?傷がつくわけじゃないし、女より外聞が悪いもの」


「あんた、まさか俺に…」


「そうよ。その中から誰かたらしこんで写真でも撮ってしまいなさい」


「ふざけるな」


「あら、真面目に言ってるのに。最近異動してきたらしいこの人の息子なんてどうかしら」


資料に目をやると、そこにはチャンミンの写真が貼られていた。


「このシム研究員はソウルからわざわざ引き抜かれた優秀な人材だから

つぶすならこういう主要な人物が効果的でしょ。

こいつさえ潰せば研究部門は縮小するしかなくなるはずよ。

ご子息を丁重におもてなししてソウルにお帰り願うべきね」


チャンミン、お前に手を下さなければいけないというのか。

あの無垢な笑顔、可愛らしい仕草、そして甘い唇を俺が汚すことになるのか。

あれから何度も逢いたいと夢見たお前の瞳や唇がどんなに恋しいか。

今すぐにでも戻ってお前を探しだして抱きしめたいのに。

俺とお前の運命はこんなにも酷いものなのか。


「男相手にするなってゾッとするね」


俺はそう言い捨てると、彼女のガウンの襟に手をかけてはだけると

その奥で男の手を欲しがる浅ましい塊を揉みしだいた。

彼女は妖しく微笑んで何かを言おうとしたが、その唇を塞ぎ、ベッドに押し倒した。


チャンミン、今度逢ったらもっとたくさん話をして

もっとたくさんお前の笑顔が見たかった。

もっとお前の唇に俺の唇も舌も教えたかった。

その肌に触れたらどんな声をあげるだろう。

激しく拒まれるか、それとも可愛く喘いで俺の腕の中に堕ちてくるか。

そんなことをずっと夢見ていたのに。


チャンミン、今すぐお前に逢いたい。

お前を抱きしめてたくさんキスをしたい。

それ以上ももっと…お前を俺だけのものにしたい。


でも…逢えない。


チャンミン…お前に逢えない。




to be continued ...




(画像はお借りしています)

月の明るい夜は君と手をつないで歩こう