初めてお前にあった時のことは覚えている。

可愛らしい顔はしているが人見知りでこの世界で生きていく覚悟が見えなかった。



やる気がないならすぐ家に帰れば?


今思えば可哀想なことをしたかもしれない。

いじめたわけじゃない。

頼りな気に見えたお前に投げかけた言葉は、お前への忠告、

挫折を味わって傷ついて去るよりは自分で選べるうちに選べと思った。


お前は青い顔をして黙ってうつむいていた。

これで耐えられないならこの先続くわけがない。

お前だけじゃない。みんなに言ってきた。

お前はこれからどうする?

ここにとどまるか、それとも…。


ほどなく新しいグループがキャスティングされ、お前との日々が始まった。


最初はぎこちなかったけれど、寝食を共にするうちに

だんだんお前との距離が縮まっていくのを感じた。

性格は正反対だけど、お前なら信頼して一緒にやっていける。

お前もいつしか俺に懐いて弟のように甘えてくるようになった。


人が一生懸命努力する姿は美しい。

お前の必死に頑張る姿を時々振り返りながら、俺もまた前に進む。

どこまでもストイックに、厳格に。


部屋に帰ると、仲の良い兄弟のようにふざけあったり、いろいろな話をする。

落ち込んだり寂しい時甘えてくるのが可愛くてしかたない。


お前は決して弱みを見せまいと頑張っているけれど、

時々俺だけに見せる顔が可愛くてしかたない。


雷が怖いお前の、震える背中が可哀想で抱きしめた時も

お前は精一杯強がって見せるから、そんなことしなくていいよと教えてやる。

気づかないふりで笑ってやると、強張っていた体の力がぬけ、

うれしそうに抱きついてきた。

お前の笑顔を守れるなら何でもしてやりたいと思うようになった。


別の仕事でスケジュールが違うことが続くと寂しいとメールが来ることもあった。

そんなメールを見たらすぐに帰りたくなるので、

仕事中はあまりメールを見ないようにしなければならなかった。


いつも隣で無邪気に笑うお前、

隣のベッドでコアラのように丸まって眠るお前、

甘えたい時は上目遣いで見上げてくるお前、

構ってほしくて拗ねるお前も、

お腹が空いたと騒ぐお前も、

俺が落ち込んでいるとさり気なく気を配るお前も、

そのすべてが俺を癒す存在になった。


帰りが遅いとなかなか眠れなくているのを悟らせないように寝た振りをしているのも知っている。

起さないようにそっと部屋に入ると、お前がベッドの中で微笑む気配がするからだ。

寝たふりをするお前のベッドに腰掛けてやさしく髪を撫でてやる。


起きている時は嫌がるけれど、本当はこうされるが好きだろ?

耳が赤くなるからわかるんだよ。

お前に言ったらきっと違うと言って暴れるに違いない。

その姿も可愛いから見たい気もするけれど、

やっぱりもったいないから教えないことにしてる。


俺が自分のベッドにもぐりこむと、お前は安心したように寝息を立て始める。

ゆっくりおやすみ、俺のチャンミン。

そして俺もまた安心して眠りに落ちていく。


俺が何日か帰らない日は、どうやら俺のベッドに眠っているようだった。

お前が知らん顔しているから俺も何も言わない。

それでもベッドにもぐりこんだ瞬間に、ふわっと鼻孔をくすぐるお前の匂い、

お前がこのベッドで体を丸めて寝ている姿を思うとなんだか愛しくなってくる。

お前を抱きしめて眠る日が来るとは思えないけれど、

ずっと大事にするよ、チャンミン。

お前が俺の隣にいる限り。


ところが、そんな日は案外すんなりとやってきた。


俺のスケジュールが予定より早く終わり、1日早く帰宅することができた。

とはいえ、帰ったのは深夜、みんな眠っている時間だ。

いつものようにそっと部屋に入ると珍しくもう寝息が聞こえてきた。

ベッドサイドのスタンドをつけようと近づくと、俺のベッドにお前が寝ていた。

気持ち良さそうに眠っているお前を起こすのは可哀想で、

かと言ってお前のベッドで眠ったら、朝起きたときにお前が気にするはずだ。

お前の眠る横にもぐりこんでも十分眠れそうなスペースはあるし、

何よりも数日お前がいなかったから、俺がくっついて眠りたかったのだ。


お前を起こさないようにそっと横にもぐりこむ。

お前を抱きしめてもいいかな。

お前に手を伸ばしたけれど、ちょっと迷って髪をなでるだけにした。

ゆっくりお休み、チャンミン。

朝起きたらびっくりするだろうな。

大きな目をまんまるに見開いて、耳を赤くして、慌てるに違いない。

その姿を想像してニヤニヤしていたら、お前がこちらに寝がえりをうった。

こんなに至近距離で向かいあって眠ることなんてないからちょっとドキドキするけれど、

俺の体温を求めて胸に顔をすりつけるお前が可愛くて、

お前を腕の中に抱きしめた。

もう俺よりも身長が高くなってしまったけれど、

俺の中ではいつでも可愛くて愛しい存在なのだ。

お前の頭のてっぺんに唇を落とすと、久しぶりに安らかに眠りについた。


翌朝チャンミンは思った通りの顔で驚き慌てて、でも俺を起こさないようにそっと体を離した。

失われた体温が寂しいと思っていたら、お前はまた俺の腕の中に戻ってきた。

俺の胸に顔をうずめると、


「ヒョン、おかえりなさい」


吐息だけで囁いてまた目を閉じた。

その後俺が起きたときはもうお前は腕の中にはいなかった。

何事もなかったようにお互いにそのことには触れず、

その夜から、お前は普通に俺のベッドで一緒に眠るようになった。

たまにお前の方が遅くなった夜も、お前の分をあけて先に眠っていると、

必ずお前は俺の腕の中にもぐりこんで眠った。


お前を抱きしめて眠る夜、お前を愛しい気持ちをどうしようかと思っても

どうすることもできない。

そんな日々がずっと続くと思っていた。

あの夜、お前の唇を知るまでは…。


それは偶然触れてしまった。


お前の唇は思ったより柔らかく、ほんの一瞬の接触だったけれど、

唇に電気が走ったように痺れた。

お前は起きる気配もなく熟睡しているから、もう一度そっと唇を落としてみた。

やっぱりお前の唇は柔らかくて、そして甘かった。

1度、2度と重ねた唇から甘い痺れが広がり、腰に熱が集まってくる。

これ以上はヤバいと思うのに、その甘さに酔ったように何度も求めてしまう。

何度も重ねるうちにお前が寝がえりをうって、やっと俺は呪縛から解き放たれた。

この熱を冷まさなければいけなくて、そっとベッドを抜け出す。

お前が俺の体温を探す前に何とかして戻らなくては。


マズイことになったと思った。

自覚があったわけではないけれど、こうしてお前の唇を知ってしまっては

ただ一緒に眠るのは男として非常に辛いことだ。

かと言って、お前を泣かせるようなことはできない。

いろいろ悩んだ挙句、俺は自分が先に寝てしまうことにした。

あまり強くない酒を飲んでしまえば簡単なことだ。


数日は酒の力を借りて平穏な夜が続いた。

お前も何も言わないから、大丈夫だろう。


それでも1週間もたたずに平穏は破られた。


夢の中にお前が出てきて、その甘い唇で俺を誘うのだ。

両腕を俺の首に絡め、そっと目を閉じて唇をねだるお前、

あと数ミリというところで唇に吐息を吹きかけると、すっと身を引いて逃げる。

どこでそんな手管を覚えたのだろう。

俺はお前の手を取り、そっと人差し指の先を食む。

それからゆっくりとそのまま指を咥え、舌を絡める。

お前が俺をほしがるように、お前の目を見つめながら。


「ヒョン、イヤだ」


お前の涙交じりの声でハッと我に帰る。

俺は何をしている?

どうしてお前は泣いているんだ。


慌ててお前を抱きしめようつするが、いやいやをするように首を振って逃れようとする。

しっかりと抱きしめて、髪をなでながら耳元で囁き続けると、

やっとおとなしくなったお前は涙目で俺の不実を責める。

その目の中に嫉妬の色を見て、俺はたまらずお前を抱きしめ、

抵抗するお前を再びベッドに押し倒す。


両腕を押さえられて目に涙をいっぱいためて上目遣いで見上るお前はとても色っぽくて、

俺はもう自分を抑えることができなかった。


お前を怖がらせないようにそっと、でも確実のお前を俺のものにしていく。

最初は顔じゅうにそっと唇を落としていって、お前の顔を見つめる。

お前はちょっと不思議そうに、そして少し物足りなそうに俺を見上げるから

俺は安心してお前の唇を求める。

あの夜からずっとほしかった甘い甘いお前の唇、

重ねる俺の唇に、体に甘い痺れが広がり、俺は満たされる。

お前がもっとと唇をねだるから、そのとがらせた唇を優しく吸ってやる。

なんてうれしそうに笑うんだろう、お前は。


お前にはずっと俺の隣で笑っていてほしい。

お前が涙を流すことがないように、いつも俺の腕の中で守ってやりたい。

そう言ったらお前はきっと怒るだろうね。

お前はただ守られるだけの存在に甘んじるような男じゃない。

俺が守っているようでお前に守られている。

俺が抱きしめているようでお前に抱きしめられている。

これからはそうやって2人で歩いていけたらいいな。


俺がお前をどんなに好きか、どんなに可愛いと思ってるか、

どんなにお前が欲しくてたまらないか、

これからゆっくりと教えてあげるよ。

夜明けまでまだ時間はたっぷりある。

俺たちの時間もこれからずっと続くんだ。

触れあった唇で、肌で、今までの俺たちとは変わってしまったけれど、

何も変わらない思いがあるの、わかるだろ?


チャンミン、ずっと俺のそばにいて笑っていてくれ。

俺の未来はお前との未来しかない。

未来に連れていくのはお前だけだよ。




fin.



月の明るい夜は君と手をつないで歩こう
















画像はお借りしました。

【第20回ゆのみん企画:変化/変身】 参加者のみなさまは こちら



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えーと、予定外にヒョンサイドも書いてしまいました。

どうしてかって?

読んでいただけばわかるかと…。(笑)