なんでこうなってしまったのか。
いきなり知り合ったばかりのユノの家にくることになってしまった。
しかも教会だ。
何も言えずにいる僕に、遠慮しているのかと勘違いしたらしく、
「ああ、大丈夫。父さんは今夜は隣町に行ってるからいないんだ」
「お父さんは神父様なの?」
「うん。なんか隣町でヴァンパイアが出たって話でさ。頼まれて行ったよ」
「え?大丈夫なの?」
「大丈夫だろ?神父だもん」
なんでもないことのようにさらっと言うけれど、ヴァンパイアというのは人間の命を奪って、
それを自分の糧にするようなやつらなんだから危険じゃないのかな、
そんな不安が顔に出てしまっていたのか、ユノに肩を抱かれた。
「そんな顔するなって。大丈夫だから。それより俺の部屋に行こう」
優しく背中をポンポンと叩くと、僕の手を引いて2階の奥の部屋に連れて行った。
ゆのの部屋は思ったよりも広い部屋だったが、中央に置かれたグランドピアノと、
壁際の作りつけの棚、窓際のキングサイズのベッドと家具は大きいものばかりで、
その上、そこらじゅうに散乱する譜面ですっかり狭くなってしまっていた。
僕の半分呆れた顔に、照れたように笑うとユノは僕をピアノの前の幅広椅子に座らせた。
「ごめん、うちに来てもらうってわかってたら、もうちょっと片付けたんだけど、
俺何もない日は1日中ピアノ弾いてるからさ」
「別にいいけど…片付けるなら手伝おうか?」
「いいよ。それより何か飲むだろ?ちょっと待ってて。たしかいいワインがあったと思うから」
店でピアノを弾いている姿とはあまりに違う、ぱたぱたと落ち着きなく走り回る姿に
ちょっと緊張していた肩の力がぬけて、思わず笑ってしまう。
大きな手にグラスやらちょっとしたつまみやら、手当たり次第につかんできたユノは
声を殺して笑っている僕を見つけると、顔を赤らめて拗ねたような顔をした。
「なに、笑ってるの」
「いや、だってさ。ユノって店でピアノ弾いてるときとイメージが違うから」
「よく言われるけど、大きなお世話。いいんだよ、俺はこれで」
すっかりすねてしまったみたいなので慌てて笑いをひっこめる。
「ごめんごめん。でも、親しみやすくていいんじゃない?」
「そりゃどーも。ほら、ワイン開けようぜ」
部屋を見渡してもテーブルというものが見当たらない。
そうするのかと思ったら、ユノは楽譜をマットがわりにピアノの上にグラスやワインを置いた。
そして尻ポケットからソムリエナイフを取り出すと、器用にワインを開けた。
「ほら、グラス2つとも持ってて」
2つのグラスに注がれるワイン、ボルドーの深い赤はまるで血のようだ。
「まずは乾杯」
そう言って軽くグラスをあわせると、軽く口に含み、その味と香りを堪能するように目を閉じた。
まつげが思ったより長く、整った鼻梁、少しぽってりと厚みのある下唇、キレイだと思った。
思わずユノの顔をじっと見つめてしまって、目を開けたユノに慌てて目をそらす。
ユノは何も言わずにふっと微笑むと、グラスを置いて僕の横に腰掛けた。
いくらピアノの椅子が幅があるって言っても男2人が座るにはかなり狭い。
くっつかないように少し腰を浮かせて、端にずれようとしたら、ユノの腕が僕の腰を抱き寄せた。
「大丈夫だから。もっとこっちこいよ」
「でも弾くのに邪魔になっちゃう」
「大丈夫。見てて」
そう言うと、僕を背中から包むように長い腕を広げて鍵盤に指をおろした。
何の曲だろう。
今まで聞いたことのない曲、何よりもさっき店で聞いた時のユノが奏でる音とも違う、
透き通った音やきらきら光るような音、そして甘く囁くような音。
鍵盤の上で踊るユノの長くてキレイな指から目を離せなくなってしまった。
ときに力強く、ときに優しく撫でるように鍵盤をすべる指、
あの指で触れられたらどうなってしまうのかちょっと怖い。
「何考えてるの?」
いつの間にか曲が終わり、ユノが僕の右肩に顎を載せていた。
「うん?聞いたことがない曲だなって思ってた。いい曲だね」
「聞いたこと…あるわけないよ。今思いついたまま弾いただけだから」
「今?すごいね。こんなステキな曲すぐに思いつくんだ。僕、好きだなこの曲」
「本当?それならうれしいな。この曲はね…」
そう言ってユノは僕を見つめる。
こんな至近距離で、そんな目で見られたらどうしていいかわからない。
僕は男で、ユノだってそうなのに、なんでこんなに顔が熱くなっちゃうんだろう。
「この曲はさっきチャンミンに逢った時のことを思い出しながら弾いたんだよ。
店に入ってきたチャンミンを初めて見たとき、楽しそうにピアノを聞いてくれたとき、
ちょっと目を離したらいなくなってあせったとき、ソファで眠ってる姿を見たとき」
そう言いながらユノの両手に頬を優しく包まれて、もうどうにでもしてほしいと思った。
「チャンミン、こんな気持ち初めてだ」
「僕も…ユノ。こんなの初めて…」
「俺のこと好きなの?」
「わかんない。でもこうしてるとすごくドキドキする。これって好きってことかな」
「俺は好きだよ、チャンミン。初めて見たとき、好きになったよ」
そう囁くと、ユノの顔が近づいてきた。
思わず目を閉じると、優しく唇が触れ、離れていった。
「どう?まだドキドキしてる?イヤじゃない?」
「うん。イヤじゃない。それよりもっとちゃ…」
ちゃんとキスしたいと言おうと思った唇はふさがれ、僕の体はすっぽりユノの腕に包まれた。
男とキスなんて、考えたこともなかったけれど、なんと今夜は2回もしてしまったことになる。
一体僕の人生はどうなってしまうんだ。
キスに集中しない僕を咎めるように、唇を離すと、ユノは軽く耳朶に歯を立てる。
「あ…、ユノどうしたの?」
耳に電流が走ったような感覚で思わず声が漏れてしまい、恥ずかしくてユノを見られない。
「今、何を考えてたの?途中から他のこと考えてたろ」
「ううん、そうじゃなくて…」
「ずいぶん余裕なんだな。それならこっちにおいで」
そういうとユノは僕を立たせると、ピアノに押しつけるようにして強く唇を求めてきた。
先ほどの優しい甘やかすようなキスと違って、僕のすべてを奪おうとするかのような、
激しいキスの雨を顔中に降らせ、キレイな指は鍵盤の上を踊るように僕の肌をさぐる。
最初はアンダンテ、ゆっくりとシャツの隙間から滑り込んだ指は、その奥に隠れた実を探り当て、
次第に大胆にテンポを早くして僕の熱を高めていく。
耳を刺激していた舌が首筋を滑り、ある場所に来た時、僕はビクビクッと痙攣し、達してしまった。
to be continued ...
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ここ数日PCの調子が悪く、更新できずにいました。
今回も時間切れでちょっと中途半端なところで終わってしましましたが、
とりあえず、ユノとチャミが出来あがった感じまでで、時間あるときに修正します。
次は久しぶりに頑張ってアメ限書いてみようかなぁ。
3回で終わりのはずなんですけど。(^^ゞ
さて、ゆのみん企画第17回「ヴァンパイア」参加のみなさまは こちら