初めてあなたに会った時のことはよく覚えている。

愛想のない薄情な人に見えた。


僕は子どもだったから、年上でもイヤなものはイヤだった。

同じグループとしてやっていかないといけない、

しかも実家を出て共同生活をしないといけないなんて、

僕の未来はどうなってしまうのか、暗澹たる気分だった。


もちろん、一緒に暮らして少しずつあなたの印象は変わっていった。

長所も短所もたくさんあるけれど、情はわく。


実家では長男で妹が2人もいる僕はしっかり者だと言われている方だ。

学校でも、目立たないけれど他人の迷惑にもならない物静かな優等生、

誰に聞いても僕の印象と言ったらそう答えたはずだ。

それがグループの末っ子ということで、大した歳の差もないのに

こんなに子ども扱いを受けるなんて笑ってしまう。


特にあなたは僕を甘やかした。

もちろんレッスンではすごく厳しくて、一切の妥協は許さないから

年下だろうが勘弁してもらえなかったけど、

宿舎に帰って2人きりになると、優しく慰めてくれた。


兄がいたらこんな感じなのかな?と思った。

最悪の初対面の印象は180度変わって、頼れる優しい兄になっていた。


あなたはA型だっていうけど、僕よりもずっと大雑把だ。

あなたと同じ部屋のときは部屋中散らかるし、

忘れ物も多くて本当に手のかかる困った兄だけど、

誰も気づかないことを気づいてくれる細やかさもあった。


誰にも言わなかったけど、僕は雷が怖かった。

小さいころにテレビで雷に打たれて亡くなった人のニュースを見て

それ以来、雷が鳴ると怖くて怖くていられないのだ。

そんなことは誰にも知られたくないからいつも必死で我慢して隠してた。


でもあなたはきっとどこかでそれに気づいていたんだね。



ある日、野外の撮影のとき、急に天候が変わり雷雨になったことがあった。

兄たちは面白がって雨に打たれてふざけていたけれど、

僕は生きた心地がしなかった。

稲光がだんだん間隔が短くなり、雷が近づいてきたのがわかる。

僕は恐怖で一歩も動けなかった。

体が冷たくなり、背筋を汗が流れおちる。

声を出したくても喉が渇いて何も言えない。

息をしているのか感覚がない。



「チャンミナー」


そのとき、ふわっと背中に温かいものが触れ、あなたに後ろから抱きしめられた。

僕の体は一瞬であなたの体温に包まれ、呼吸をすることができた。


「ヒョン?」



背中にへばりつくようにして僕を抱きしめるあなたに声をかけると、

あなたは優しい声で耳元で囁く。


「大丈夫だよ。こうしてれば大丈夫」


「ヒョン、雷が怖いの?」


「お前、そんなの当たり前だろ。雷が怖くない奴なんてこの世にいるわけないだろ」


「だってヒョンたち遊んでますけど…」


「あいつら、寝てなくて頭がおかしくなったんだろ」



軽く笑い飛ばしてくれるから、僕もなんだかおかしくなって笑ってしまった。



「お前そんな笑ってるけどな、雷に打たれたら死んじゃうんだぞ。前にテレビでやってた」


「僕も見ました。でもこの辺は高い建物があるから大丈夫ですよ」


「そうか?チャンミンは頭いいな。お前が言うなら大丈夫だな」


あなたがそうやって僕を認めてくれるから、僕は僕でいられる。

怖くてしかたなかった雷だってあなたの腕の中にいればへっちゃらな気がしてきた。

うれしくて、僕はあなたの腕の中でくるりと向きを変え、自分からあなたに抱きついた。



「ヒョン、こうしてれば怖くない?」


「ああ、チャンミンがいれば大丈夫」



いつだってあなたはこうして僕に力をくれる。

それは大人になった今でも…。

あなたの言葉がひとつひとつ僕の体に浸みこんで

僕の心があなたにどんどん近付いていく。


最初は同じ部屋でもそれぞれのベッドで眠っていた。

隣のベッドで眠るあなたの寝息を聞きながら眠り、あなたに優しく起される毎日、

たまに別の仕事であなたがいない夜はなかなか寝付けなかった。


玄関のドアが開く音が聞こえて、僕は慌てて寝た振りをする。

あなたは僕を起こさないように気をつけながらそっと部屋に入ってくるけれど、

動きが大雑把だから思った以上に物音がするんだ。

そんなところもすごく好きだ。

笑いをこらえて寝た振りをしていると、あなたが僕のベッドに腰掛け、優しく僕の髪をなでる。

吐息でふっと笑うと自分のベッドにもぐりこみ、すぐに寝息を立て始めた。

あなたに撫でられた髪がくすぐったくて、でもうれしくて、

僕は幸せな気持ちでやっと眠りにつくことができるんだ。


あなたが帰ってこない日は寂しくて眠れないからこっそりあなたのベッドで

あなたの体温を思い出しながら眠った。

うっかりあなたが帰る日もあなたのベッドで寝てたときも、あなたは僕を起こすことなく、

いつもより狭くなったベッドで僕を抱きしめて眠った。

翌朝、あなたの腕の中で目が覚めてひどく驚いたけれど、あなたが何も言わないから、

それからあなたのベッドで一緒に眠るようになった。

僕の方が帰りが遅い日も、ちゃんと僕が入れるようにベッドが半分あいていて、

そっともぐりこむと、眠っているのにあなたは僕を抱えて満足そうなため息をついた。


あなたに甘えて抱きつくのも、同じベッドで眠るのも、特別な意味なんてなかった。

この部屋にいるときだけは僕だけのヒョンだったから。


でも、あの日、すべてが変わってしまった。


その日もあなたの方が先に眠っていた。

僕がリビングでゲームをしているうちに眠ってしまったみたいだった。

あなたは眠ってるときよく口があいたままになることがある。


僕はベッドにもぐりこむと、そっと口を閉じようとした。

僕の指があなたの柔らかい唇を少しだけかすめてしまったとき、

あなたの手が僕の指をとらえ、唇で軽く食んだ。

指先をちゅっと吸ったあと、人差し指を咥えると舌を絡めてきた。

人差し指に電流が流れたようにピリッと衝撃が走り、

それを舌で宥められて背中が甘く痺れた。

いつの間にか片手で腰を引き寄せ、妖しい手つきで腰を撫でまわされた。


目の前にいるのはいつものヒョンなのに、僕の知らないヒョンだった。

寝ぼけているんだと思うけれど、それじゃあ誰としているつもり?

僕だけがあなたの特別だと思っていたのに、そうじゃなかったの?

僕の知らないあなたを知っている誰かがいたなんて、そんなのはイヤだ。

こんなのイヤなのに、腰に熱が集まってくる。

僕はどうしていいかわからなくて、あなたの腕から逃げようとすると、

あなたはますます強い力で僕の腰を抱きよせる。

誰かと間違われたままこんなこと、絶対イヤだ。


「ヒョン、イヤだ」


僕の涙交じりの声であなたが目を覚ます。


「チャンミン?どうして泣いてるんだ?」


「ヒョン、僕を誰と間違えてこんなこと…」


やっと状況を飲み込めたらしいあなたは慌てて僕を抱きしめ、髪をなでながら謝ってくる。


「チャンミン、ごめん。そんなつもりじゃ…」


「じゃあ、どんなつもり?僕の知らないところで誰とこんなことしてるの?」


「チャンミン…それじゃヤキモチ妬いてるみたいだろ」


「そんなんじゃない。もうヒョンとなんか寝ないから」


あなたの腕から逃げ出そうとすると、あなたは僕をもっと強く抱きしめる。

ちょっと揉み合って、結局あなたに押し倒されてしまう。

あなたが真剣な顔で見つめるからちょっと怖い。


「ちょっと、ヒョン。やだ、離してよ」


「離さないよ」


「どうして?」

「お前がいないと俺が眠れないから」


「いつも一人で寝てるじゃないか」


「お前が来るってわかってるからだよ。お前は一人で寝られるの?」


「ヒョンなんか…」


「ヒョンなんか、なに?こんな俺は嫌いか?」


「意地悪」


あなたを嫌いになれるわけがない。

あなただってそんなことわかってるはずなんだ。
泣きだした僕の涙をあなたの唇がやさしく吸いとっていく。

優しく頬を撫でられて、僕は目を閉じてあなたの首に腕をまわす。

あなたの唇が僕の顔中に触れられて、ああ、これってキスされているんだと

ぼんやりとした頭で考えた。


どうして僕はキスされているんだろう。

キスってこんなに顔中にするものかな。

あなたの顔を見上げると、あなたは優しく笑ってやっと唇にキスをしてくれた。

なんだかうれしくて僕が笑うと、あなたはもっとキスしてくれた。

唇と唇がくっついただけなのに、なんでこんなにうれしいんだろう。

なんでこんなに気持ちいいんだろう。

あなたの唇が離れるたびに、僕はもっとしてほしくて唇をとがらせる。

あなたは何度も何度も僕がほしがるだけキスをしてくれる。

くっついた唇からあなたの温かい気持ちが伝わってくるような気がする。

僕は大事にされてるんだって、やっと安心できる。


「さっき俺は寝ぼけて何をした?」


落ち着いた僕を抱きしめたまま、あなたが優しく囁く。


「指…」


「指?俺の?」


「ううん。僕の指をヒョンが…」


僕が言い淀んでいると、優しく僕の指を取るとさっきと同じように僕の指先を軽く食んだ。


「こうしたの?」


僕の目をじっと見つめながら、ゆっくりと指をくわえ、舌を絡めていく。

さっきよりももっと甘い刺激が、舐められてる指から全身に広がっていく。


「イヤ」


「イヤ?ホントにイヤ?」


あなたの瞳に今まで見たことのないような光が宿り、僕は体の力がぬけてしまう。

体の中心に熱が集まってくるこの感覚は初めてではないけれど、

どうやったら解放できるかわからない。

どうしていいかわからず、あなたを見上げると、さっきよりも強く唇を重ねてきた。
息をすることもできずにあなたに求められるままでいると、

あなたは少しだけ唇を離して囁く。


「息を止めてたら苦しいだろ。もうちょっと口を開けてごらん」


そうして僕が息を吸い込んだ隙間からあなたの舌が入ってくる。

僕の歯列をなぞって上顎をかすめその奥に隠れている舌を探しあて吸い上げる。

舌を吸われて鼻からぬけるような声が漏れてしまう。


「可愛いチャンミン、夢みたいだ」


「夢みたい?」


「お前に夢の中でこういうことしてたんだよ」


「他の人と間違えたんじゃないの?」


「バカだな。それで拗ねたのか。さっき言ったろ。俺にはお前だけだって」


「ヒョンは僕が好きなの?」


「そうだよ。チャンミンが好きだ。もう怒ってないか?」

「ヒョンが僕を好きならいい。もう怒ってないし、僕はどこにも行かないよ」


「ずっと?」


「うん。ずっとヒョンのそばにいる」


「うれしいよ」


そういうと、あなたはまた僕にキスをした。

あなたの唇は僕の体中を這い、指先から体中に広がった甘い痺れが僕を支配していった。


僕の体は変わってしまった。

あなたの唇で、指で変えられてしまった。

もう何も知らなかった夜には戻れない。

夜が来るたび僕の指は甘く痺れてあなたを求めるだろう。

あなたの指もまた僕を求めるだろう。

あなたの体温なしではもう眠れない。

それでもあなたの腕の中で僕は一番の幸せを感じるんだ。


もちろん変わらないことだってある。

あなたは僕だけで、僕にはあなただけだってこと。


fin.


月の明るい夜は君と手をつないで歩こう













画像はお借りしました。

【第20回ゆのみん企画:変化/変身】 参加者のみなさまは こちら




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最近PCの調子が悪くて時間かかっちゃいます。

でもこれで宿題をまたひとつクリアできました。

本当はもうちょっとアダルトな話を書く予定だったんですけど、気が変わりました。(笑)