昨年、常用漢字の見直しが行われて話題になった。新たに追加になったのが「柿」「岡」「錦」「串」「爪」「麺」「匂」「旦」など196字。逆に「勺」「錘」など5文字が削除になった。

追加された字を見ると、何故にこれだけ身近な字が今まで常用漢字ではなかったんだろう・・・と不思議に思うものも多い。ただ、社会通念や常識というものは常に変化し続けるもので、前回改定時の30年前においてはそれが妥当と判断されたのであろう。

ところで、この「常用漢字」だが、30年ほど前まで「当用漢字」といった。「常用」はなんとなく分かるが、「当用」ってなんだろう・・・ということで、ちょっと調べてみた。

すると、驚くことがわかった。「当用」は「面は使してかまわない」の略。国民が共通して積極的に学ぶべきものとして定められたと思っていた「当用漢字」が、実は「漢字の全廃」を前提として暫定的に示したものだというのだ。

戦前から日本では、「漢字は数が多く、学習が困難だから平仮名に統一すべき」という、いわゆる「漢字制限主義者」なる人たちがいたそうである。この頃の日本は、今の中国のように、いろんな漢字が飛び交って、少なからず混乱していたのかもしれない。

戦後、GHQはこうした議論に決着を付けないまま「当面は使ってよい」という漢字の一覧表を示した。これが「当用漢字」。すなわち、現在の「常用漢字」である。

「表音文字」である仮名と「表意文字」である漢字が入り交じった日本語は、情報伝達の効率性という面でも、外来語への対応という面でも、実に優れている。今から思えば、もし戦後すぐに漢字の全廃なんてことが起きていたら、きっとその後の日本社会は今よりはるかに不便で、経済的発展すら妨げられていたかもしれない。

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