少し前のこと、飯田橋を歩いている時に、向こうから見たことのある初老の男性が歩いてきた。「見たことがある」のは確かだが、どうにも誰だか思い出せない。どこかで名刺交換をした人なのか・・・、はたまた誰かに似ているだけなのか・・・あれこれと思案したものの、その時は結局、思い出せなかった。

それから数時間後。薬局に立ち寄ってから、取引先へ向かおうとしてふと思い出した。

そうだ!あの男性は、薬局の店員さんだ!

それにしても、しょっちゅう立ち寄っているのに、なぜに思い出せなかったのだろうか。

自己分析するに、おそらく脳や意識には「構え」があるんだと思う。出会うはずのない場所で、その人と出会うと、一瞬誰だか分からない・・・という経験をした人はいないだろうか。

私の場合、その男性は「薬局のカウンターにいる人」と思い込んでいて、「街を歩いている」ことを脳が想定していなかったんだと思う。すなわち、道端という所で「仕事仲間」や「友人」を受け入れる「構え」はできていても、「店の人」を受け入れる構えができていなかったのだろう。

そういえば、人間はそこに「段差」を認識していないと、たかが5センチの段差でも転んで大怪我をしてしまうことがあるらしい。脳の「構え」がいかに大事かが分かる。

そういえば、ずっと前に、こんなことがあった。翌日に控えた忘年会の幹事を任されていた私は、その二次会のカラオケの場所をどうしようか、あれこれと思案していた。そして、頭の構えが「カラオケ」でいっぱいのままコンビニへ。商品をカゴに入れて、レジへ行ったところで・・・

「カラオケ君ください。」

言わずもがな、正しくは「カラアゲくん」である。
店員さんは目を丸くして、しばらく私と見つめ合ってしまった。