心理学のお勉強(社会心理学)No16 :帰属過程のバイアスNo3
心理学のお勉強(社会心理学)No16 :帰属過程のバイアスNo3
今回は帰属過程:Attribution theoryの第4回目です。人間は日常の出来事に対して、なぜ起こったかという原因の究明(帰属)を行います。その原因究明(帰属)の仕方に関する理論が帰属過程の理論(Attribution theory)です。しかし、原因の帰属にはバイアスがかかりやすいことが知られています。帰属過程のバイアスNo3では利己的帰属(Self-serving bias)というバイアスを取り上げます。
1.利己的帰属(Self-serving bias)
(1)概要
人間には成功の原因を内的要因(例、ハードワーク、自分の能力)に帰属させ、失敗の原因を外的要因(例、競合の調子が良かった、資金が足りなかった)に帰属させる傾向があります(Scherer, 2001)。ここには2つのバイアスがあると言われます。(1)自己の持ち上げる(Self-enhancing)バイアスと(2)自己を守る(Self-protecting)バイアスです。具体的には、失敗したケースに自分の努力(内的要因)は充分だったが、競合の会社が値下げした(外的要因)ので受注できなかったという主張するようなことです。
(2)理由
(a)認知的要因
自己の持ち上げる(Self-enhancing)バイアスに関しては、人間は成功を期待して努力をしているため(失敗の期待はしていない)、成功と内的要因(努力)の関係をより受け入れやすいと思われます(Miller, Ross, 1975, sited in Scherer, 2001)。
(b)モチベーション
人間は自尊心を満たす・守るために、成功は内的要因に失敗は外的要因に帰属させやすくなると思われます(Zuckerman, 1979, sited in Scherer, 2001)。
(3)自己ハンディキャップ(Self-handicapping)
利己的帰属(Self-serving bias)に関連する行為として、自己ハンディキャップ(Self-handicapping)があげられます。自己ハンディキャップ(Self-handicapping)とは、失敗が事前に予想される場合に、パフォーマンスの評価を曖昧にするために課題遂行の障害を自ら作り出す行為です(Scherer, 2001)。その場合、失敗したケースでは障害があったためと言い訳もできるし、予想に反して成功したケースでは障害があったのに成功できたと主張できます。A(ハイリスク・ハイリターン)とB(適度なリスク・適度なリターン)という選択肢がある中、わざわざ困難なAを選択するようなケースはこの例です。
《応用》 いくつか質問をしますので皆さんも考えて下さい!!
(1)私の上司はいつも成功を独り占めにし、失敗は部下の責任にします。彼は本当に性格が悪いのですか?
本人はこのような傾向があることに気が付いていない可能性があります。本当に成功した場合は自分の能力・努力のおかげで、失敗した場合は(自分の能力・努力は充分だが)周りのサポート・能力不足と感じているのでしょう。部下を持っている方は胸に手を当ててこのようなバイアスのかかった評価をしていないか考えてみた方がよいと思います。自分で思っている以上に部下はこのように感じるものです。
(2)プロ野球の巨人は、今期の成績の悪い理由として主力(小久保、高橋など)の相次ぐ故障を原因に挙げ、挙句の果てに東京ドーム(球場)の人工芝は疲労が溜まり怪我をしやすいと言っています。この心理は?
利己的帰属(Self-serving bias)だと思います。原監督や球団首脳部は自尊心を維持したいために(無意識に)選手補強の失敗・采配のまずさがという内的要因が原因ではなく、人工芝と主力の怪我という外的な要因に原因を求めていると思います(中には責任回避のために意識的にしている人もいると思います)。ほとんどの球場が人工芝を使っている現状を考えると、巨人に主力の怪我が重なるのは人工芝だけの問題ではないと思います。フリーエージェントで年齢の高い選手を補強する施策、キャンプの練習量が少ないと言われる練習方法など内部的要因にも問題があると思います。
(3)プロスポーツの試合に前に体調が悪い・悪かったことを選手の方から記者に言ってくることがあります。この心理は?
自己ハンディキャップ(Self-handicapping)だと思います。つまり、あまり自信がない(体調が悪いからかもしれないが)ので、事前にパフォーマンスが悪い場合に対する予防線を張っています。仮に体調が悪くても自信があれば、わざわざ試合前に対戦相手にアドバンテージを与えるような情報を漏らしません。
(4)部下に新規事業の開発を任せたところ、ハイリスク・ハイリターンの事業を提案して来ました。部下の心理をどのように解釈したら良いですか?
基本的に新規事業を成功させるのは困難なことです。よって失敗する可能性もそれなりにあります。ただし、あまりに困難な理由を挙げてハイリスク・ハイリターンの事業をわざわざ選択した場合は、自己ハンディキャップ(Self-handicapping)に陥っている可能性があります。つまり、ハイリスク・ハイリターンの事業は失敗して当たり前なので失敗しても自分の責任には成りにくく、成功したら大手柄になります。
更新は、心理学のお勉強(帰属過程:Attribution theory No5)を明日の午前中に行う予定、本編(時間の切迫下での消費行動N03)を明日の夕方に行う予定
時間的切迫感がある状況下での消費行動No3の紹介
時間的制約と選択の繰り延べ(Choice deferral)の関係を取り上げます。選択の繰り延べ(Choice deferral)とは商品を(買うかどうか悩んで)買わないで帰る事です。
心理学のお勉強(帰属過程:Attribution theory No5)の紹介
帰属過程のバイアスNo4を取り上げます。
《お願い》
皆さんの実例があると、わかりやすく内容も発展しますので、皆さんの実例やコメントをどんどんお待ちしています!!下記コメント欄からお気軽に書き込んでください。
参考文献
Scherer.K.R. (2001). Emotion, in Introduction to social psychology: A European Perspective Third edition, (ed) Hewstone,M. & Stroebe,W.