私の眼前を川が流れている。夜の暗闇の中、ずっと遠くにある向こう岸のマンションやビル、なんだかよくわからない建物が発する光を背景として、ただ照らされたさざ波が川の存在を明らかにしている。あたりは人がなく地表の露出した何もない川岸だ。土手の向こうまで高い建築物が所狭しと並んでいるのに、ここは人間の気配が薄い。
随分と遠くからきて果てしない場所へ去っていく。人が時の流れを川に例えるのもわかる。川辺に人が住み着き、村を作り、町を作り、世界を形作っていく。しかし今目の前にあるものが永遠に続くとは限らない。向こう岸の街も、背中の向こうにある街も、500年後には森に変えるのかもしれない。未来人はこの土地に町があったか尋ねられれば笑って答えるだろう、「馬鹿言いなさんな、ここは500年前、いや1000年前の昔からずっと森だったよ。」
有形のものは形を変化させるが、それもなにか大いなる抗いがたい力により指向させられるのかもしれない。川は風にかすめられて細かい波の連なりを生み出し下流へと運んでいく。いかに強い力で水面をたたきつけようとも、すぐに中和されて消え、元に戻る。だが、そのような大いなるものも長い年月をかけてその本性を変化させていく。科学者のいうところには、川は時間をかけて形を変えていくそうである。この大自然には不活性で絶対に変わらないように見えるものも、少しずつその様相を変化させていくらしい。
なんとも壮大なことだ。さしずめ私が見ていることなど川にとっては路傍の石となんら変わらないのだろう。だが、まあいい。思わず笑みがこぼれた。