コロナウイルスは、現代の人類史に歴史的転回点をもたらした。すなわち、我々の世界は今までの延長線上にありながらもその様相を大きく変化させた。ある人はコロナウイルスがこれまでの人間社会の変化を加速させる働きをしていると言い、ある人は政治の強権化を促していると言う。リモートワークの普及は人間の生活の中における仕事の形態、すなわち朝起きて身支度をし、ある一定の時間をかけて移動して仕事場へ向かい、仕事をこなして日が暮れたら仕事を終えてまた一定の時間をかけて移動して家に帰るという昔ながらの生活から移動時間を取り去った。緊急時に迅速な対応を行うためとして政府が自らの持つ権限を拡大する傾向は各国にみられ、強権化の傾向は非民主主義的国家での強権的政策の(議論の余地があるだろうが)成功も相まってコロナが収束し平常時に戻っても続く可能性が高い。感染症の危機はほぼすべての業種に悪影響をもたらしたであろうが、悪影響の比較的大きい業種とそうでない業種で明暗が分かれ、解雇された人間の職種には偏りがあるように見える。特に、もともと職を失いやすい立場にあった人々が経済の停滞により職を失い、次の就職先を得ることすらままならなくなった。
コロナウイルスがもたらした影響のうち、特に日本で大きかったのは、政治の国民の生活に及ぼす作用の急速化である。コロナウイルスは、政府の行った政策が今までとは比較にならないほど迅速かつ広範囲の国民に影響を与えた。首相の決断一つで即座に人々は家に閉じこもることを求められ、周りの目が罰則の役割を代替的に果たした。給付金や貸し付けが一週間遅れるだけで倒産・廃業の憂き目を見る事業者が続出し、政府の給付金の迅速さが日単位で求められることは平常時にはありえなかったことである。
コロナウイルスという危機は人間の生活が政府の行動に即座に影響を受ける状況を作り出し、今まで政治に興味の薄かった層でさえ政府の行動を評価することを否応なしに求められた。その評価は決して自らの生活の実態に基づくものでないことはアメリカを見れば一目瞭然である。危機に直面した政府が実行したある政策が失敗した場合、政府のとりうる行為は大きく分けて三つある。一つ目は政策の失敗を真摯に認めて謝罪し、その原因を究明すること、二つ目はディスコミュニケーション等の何らかの手法を用いてその政策が成功したと主張すること、三つ目はその政策自体なかったことにすることである。政策はしばしばある面で成功し、ある面で失敗するが、失敗した側面のみ取り上げれば上記の分類が成り立つ。一つ目の行為は民主主義国家が本来行うべき手法であるが、実際には多くの民主主義国家で二つ目ないし三つ目の手法が用いられている。三つ目の行為は問題として取り上げられることが前の二つよりも珍しいが、主に独裁国家でよく使われ、民主主義国家でも記者や議員の質問に答えず国民の忘却を促すというやり方で使われる。政府の行う意図的な誤った情報の発信の影響は侮れず、場合によっては選挙結果に影響する規模の国民が嘘を真と信じ込むことがつい先日アメリカで実証されたばかりである。
先進国は少なくとも大国間での全面戦争が数十年起こらないほどには安定してきている。これは民主主義世界に長きにわたる平和をもたらした半面、民主主義は常にそれを脅かすものとの闘いの中で保守され続けなければならないという歴史的教訓の忘却を促した。コロナウイルスの影響で急速に民主主義の価値の承認が失われつつある今の世界で、我々は今一度民主主義の意義は何か、それはどうして守られなければならないのかを考えていかなければならない。
※2021年1月10日 第二段落「閉じこもるを」を「閉じこもることを」に変更