皇族数の減少により、今後の皇族・皇位継承者の確保の方策について様々な献策がなされている。
色々な考え方が提示されており、百花繚乱の様相を呈してきたが、一度整理を試みた上で、将来の皇統の永続の観点からどの策を採用すべきか検討していきたい。
1 女系天皇を容認するか否か
まず、最も大きな視点で対立があるのは、皇位の「男系」継承を断念するか否か、いわゆる「女系天皇」を容認するか否かだろう。
皇室典範第1条は、「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。」と規定している。
現行法では、皇位は「男系」であり、かつ「男子」でなければ継承できないルールとなっている。
「男系」や「女系」の意義については以下の別稿を参照。
皇位継承のルール
この点について、皇族・皇位継承者を増やす観点から、「男系」の限定を外し、「女系」の天皇を容認した上で、現天皇の直系長子が優先して継承するという考え方がある。この考え方によれば、今上天皇の皇女である敬宮(愛子内親王)殿下が次代の天皇として即位することになり、その後も殿下の直系長子が優先的に皇位を継承していくことになる(女系天皇を認める以上、必然的に女性天皇も認めることになる)。
しかし、歴史上皇位は一つの例外もなく「男系」で継承されてきていること、「男系」継承が維持されてきた理由(民間男子による皇位簒奪防止)を考えれば、この見解は採用することができない。詳細は以下の別稿に譲るほか、「直系優先」の考え方の問題については後述する。
歴史上皇位の女系継承があった?
2 男系継承を維持するとして、どうするか?
(1) 悠仁親王に皇子が生まれることをひたすら祈る
一つの可能性として、次世代で唯一の男系男子である悠仁親王殿下に将来皇子が生まれれば、今後も当面は男系継承を維持することは可能である。そのため、「何もしない」という策も論理的にはあり得ることになる。
しかし、皇子が生まれるとは限らないことは、今上陛下に現在(令和元年12月1日)までに皇子が生まれていないことからも明らかであり、大変に心許ない話である。また、現在の女性皇族が全員民間の男子と結婚すれば全員が皇室を離れることになるから(皇室典範第12条)、最終的に悠仁親王の一家だけで皇室が構成されることになりかねない点でも、不安感は拭えない。
〔皇室典範〕
第12条 皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。
(2) 男系を維持しつつ女性天皇だけ容認する
男系継承を維持するという考え方の中にも、過去に女性天皇が10代・8方いたことを理由に、女性天皇に限って認めてよいのではないかという見解がある。女性天皇を認めるというのは、具体的には敬宮(愛子)内親王殿下に天皇として即位していただくことを想定している。
しかし、男系を維持するという目的からすると、これでは何の解決にもならず、(1)の悠仁親王に皇子が生まれるよう祈ることと何ら変わりない。
つまり、「女系」を容認しないのであれば、仮に敬宮(愛子)内親王殿下が即位したとして、その次は唯一の男系男子である悠仁親王殿下の皇統に継がせるほかはないのであり(敬宮(愛子)内親王殿下が民間の男子と婚姻し、その子が皇位を継げば「女系」天皇となってしまう)、男系継承を維持するという目的からすると、女性天皇を認めることは何も意味がないのである。
(3) 女性宮家を創設する
皇室典範第12条を改正し、現在いる女性皇族が結婚後も皇室に残り、その女性皇族を当主とする「女性宮家」を創設するという考え方もある。
しかし、これも(2)の女性天皇を認める考え方と同じ理由で、男系を維持するという目的からすると何の解決にもならない。
何かしら意味があるとすれば、当面の皇族数の減少を防ぐことくらいであろうか。しかし、「女系」を認めないのであれば女性皇族と民間男子との間の子を皇族とすること(女系の皇族となる)を認めるわけにはいかないから、当該女性皇族の一代限定の宮家とならざるを得ない。要するに、期間限定で皇族数の減少を防ぐ単なる「先延ばし策」であり、何も根本的な解決とならないのである。
また、女性皇族と結婚する民間男子の処遇(皇族とするか否か)も問題になる。男系男子以外の民間男子が皇族になった例は一度もなく、「民間男子の皇室への婿入り」を認めることは、女系天皇・女系皇族を排除してきた皇位の男系継承ルールの肝の部分に抵触する点で、極めて重大な禍根を残しかねない。女性宮家の創設は、単に意味がないばかりでなく、極めて有害な方策といわなければならない。
参考 歴史上皇位の女系継承があった?
(4) 旧宮家の男系男子に皇室へ復帰していただく
以上のとおり、(1)から(3)までの方策は男系継承を今後も維持することに役立つ方策とは言えないばかりか、中には有害な方策もある。
そのため、男系継承を維持するための方策としては、皇室の外にいる男系男子、具体的には終戦直後に皇籍を離脱した「旧宮家」の男系男子に、皇室へ復帰していただく案を採用せざるを得なくなる。
問題はどのような形で復帰していただくかであるが、近時、自民党の有志から以下のような提言がなされている(以下「護る会提言」という)。
①旧宮家の男子が、現皇族の養子となられるか、女性皇族の婿養子となられる案。
②政府機関の非公式な調べによると10代5人、20代前半2人の皇位継承者たり得る男子、すなわち男系・父系で皇統につながる男子が旧宮家にいらっしゃるという現況に鑑み、国民的理解に基づく立法措置を経たのちに、そのなかから了承の意思を持たれる方々に皇籍に復帰いただく案。
※なお、①と②は併用も可としている
日本の尊厳と国益を護る会「皇位継承の安定への提言」
https://www.sankei.com/politics/news/191023/plt1910230005-n1.html
この提言は、令和元年11月19日に安倍内閣総理大臣へ提出された。
旧宮家の復帰については、従来から民間では強く主張されていたのだが、今回、国会議員が具体的に取り上げたこと、それを内閣総理大臣に提出したことは、まずは大きな前進であり意義深いものがある。
本稿では、①を「養子・婿養子案」、②を「単純復帰案」と呼ぶこととして、その内容について検討したい。
ア 養子・婿養子案
旧宮家の男系男子が、
ⅰ年長皇族(例えば秋篠宮皇嗣殿下)の養子に入る、
または
ⅱ年長皇族(例えば秋篠宮皇嗣殿下)の養子に入った上で、その娘の女性皇族(例えば佳子内親王殿下)の婿となる
ことによって、皇族として復帰いただくというものである。
ⅰとⅱは女性皇族との婚姻を伴うか否かの違いはあるが、いずれも年長皇族との養子縁組を介して皇室へ入る案と整理できるだろう。
なお、旧宮家の男系男子が、養子縁組を介することなく、単に女性皇族に婿入りすることにより皇室へ戻る案も考えられるが、護る会提言がその案を採用していないのは、おそらく女性皇族との婚姻を媒介にすると、その子孫が「女系」とみなされかねないという懸念を考慮したためと思われる。
また、護る会提言は、旧宮家の男系男子が、年長皇族と養子縁組をした上で自ら当主として宮家を興すことを想定している。
護る会提言は、養子・婿養子案を採用する場合、皇室典範について、皇族の養子縁組を禁止した第9条、女子が皇后となる場合又は皇族男子と婚姻する場合を除き民間人は皇族になれないとする第15条の改正か、特例法の制定が必要であるとしている。
〔皇室典範〕
第9条 天皇及び皇族は、養子をすることができない。
第15条 皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族となることがない。
イ 単純復帰案
これは至ってシンプルであり、旧宮家の男系男子に「皇族」として復帰いただくという案である。
旧宮家の男系男子は終戦後までれっきとした「皇族」であり、もし終戦後に臣籍降下が行われていなければ、現在の旧宮家の男系男子は(降下後に生まれた方を含め)「皇族」であったはずである。つまり、終戦後の臣籍降下をなかったことにする、いわば原状回復案と言えよう。当然、復帰後は然るべき方を当主として、宮家を興していただくことになろう。
護る会提言は、上記の皇室典範第15条の改正か、特例法の制定が必要であるとしている。
ウ 検討
以上の「養子・婿養子案」と「単純復帰案」について、歴史上の皇位継承の流れを踏まえれば、単純復帰案が妥当と考える。
単純復帰案が極めてシンプルで分かりやすく、手続も比較的簡素で済むにもかかわらず、なぜ養子・婿養子なる案が出てくるのだろうか。その背景として、養子を介することによって現在の今上陛下に至る皇統から「直系」で継承すべきであるという、女系容認論も採用する「直系優先」の思想が見て取れるのである。
しかしながら、歴史上、皇位は必ずしも直系で継承されてきたわけではない。例えば第26代継体天皇は第15代応神天皇の5世孫であり、第16代~第25代の皇統に連ならない傍系の天皇である。つまり、直系という選択肢しかなければ、第25代武烈天皇で皇統は断絶してしまっていた。また、継体天皇に限らず、大規模な傍系継承としては奈良時代の称徳天皇から光仁天皇、平安時代の陽成天皇から光孝天皇、南北朝合一による後亀山天皇から後小松天皇、江戸時代の後桃園天皇から光格天皇などがあり、他の比較的小規模なものを含め、歴史上皇位の傍系継承は何度も繰り返されてきた。
このように、現在進行形の皇統には、神武天皇に一系で連なる傍系が何本も並走しており、万が一現皇統が断絶したとしても、その時々の情勢に従い、傍系にある適当な方が皇位を継承する。この「傍系によるバックアップ」があってこそ、今日まで皇統を断絶させずに男系継承を持続させることができたのである。
女系容認論からは、よく「男系継承は側室が認められていたから可能だった」との意見が出されるが、これも「直系」しか見ていない論である。「直系」でなければならないのなら、側室がなければ、否、側室があっても、たとえ女系を容認したとしても、常に断絶のリスクと隣り合わせである。子が生まれなければ断絶するし、疫病・災害・テロなどで現皇統の家系が全滅するようなことがあればもちろん断絶確定である。
しかし、このような極限状況でも、傍系継承を是とすれば、傍系さえ生き残っていれば皇位を継承することが可能になる。現在においても、旧宮家や、江戸時代に分かれた皇別摂家も合わせると、百名を超える男系男子がいるという。「傍系のバックアップ」は、皇位継承者を無数に生み出すシステムである。現在の皇統は奇跡的に生き残ってきたのではなく、生き残るべくして生き残ってきたのであり、「傍系のバックアップ」が機能している限り、断絶させる方が難しいとさえいえるのである。
今日まで皇統を維持できたのは「傍系のバックアップ」に拠るものである。この意義を十分に再確認の上、傍系継承を正面から是とし、肯定することが重要である。その点で、あくまで「直系優先」の養子・婿養子案は採用すべきではない。旧宮家の復帰は、間違いなく歴史の先例として残り、数百年、千年後も参照されるだろう。ここで無理に直系継承に引きつけるような策を採用すれば、将来その直系が再び皇統断絶の危機に見舞われたときにも、同じように不毛な議論が生じることになろう。傍系継承を正面から肯定し、旧宮家の男系男子に御身一つで堂々と復帰いただくこと。これにより、「傍系のバックアップ」という皇統維持の要が再確認され、遠い将来においても、暗闇を照らし出す一筋の光となるような先例として記憶され続けることになるのである。
令和元年12月1日記




