力尽きた私はごろんと転がっていた。

頬をくすぐる肌触りのいいカーペットは、新しくきたときに私が一緒に敷いたもの。それからこのカーペットの上には、何人の女の子が転がったんだろうか。そんなこと考えるのももう最後だなと自分の思考を嘲笑した。

 

 

欲張りだった頃の、もっとご主人様に愛されたいと思っていた頃の私だったら、次は彼を気持ちよく ’しないと’ と思って咥えにいっていたに違いない。

だけど、一番最後に一番好きな緊縛をしてもらった。「これが最後」と思いながら全身で感じにいった。だからだろうか、すっきりした気持ちだった。もう ’しないと’ という思考はなかった。

 

 

私はスマホに手を伸ばして、転がった自分が見上げている天井の景色の写真を撮った。それから起き上がって太ももに綺麗についた縄痕の写真を撮った。記念撮影的な。

 


時間は、夜遊びならこれからの時間。

もう少しぐずぐずと居座ってもいさせてくれると思うし、もしかしたらもう一プレイくらいしてくれるかもしれない。あるとすれば次は鞭だろうなと予想する。



私は服を着て帰ることにした。



ご主人様は、顔には出さなかったけれど、私がもう帰ろうとすることに少し驚いている感じがした。

もっと一緒にいたいと泣きじゃくったこともある奴が、まだ終電でもないのにあっさり帰ろうとするんだからそれは驚くかもしれない。



ご主人様が明日早いから、ご主人様が疲れているから、ご主人様がこのあと予定あるから…

そういう理由じゃなく「私が満足したから」という理由で帰宅するのは何て清々しいんだろう。



ご主人様は、私が「これが最後かもしれない」と思っていることは知らない。主従関係なら全て打ち明けた方がいいのだろうけれど。でもどうなるか分からない表の世界の私の不妊治療の話なんて私がしたくなかった。ここは裏の別世界。いつもとは違う私をさらけ出せる場所。



上手くいかなくったらそっと帰ってきたい。

そういう魂胆もある。



「ありがとうございました。」



「うん、気をつけてね。またね。」



玄関先でぎゅっと抱擁しあう。

「また」という言葉には返さなかった。



笑顔で手を振ってエレベーターに乗り込んだ。