16世紀のシェークスピア「ロミオとジュリエット Romeo and Juliet」が
20世紀には『ウエストサイド物語 West Side Story』になり、
COVID-19pandemic下、アジア系への差別やヘイトクライムが激化した
2020年以降からの時間を経て今年公開されたピクサーPixarアニメーションは
韓国系ピーター・ソーン Peter Sohn監督の『マイ・エレメント Elemental』。

elemental duo.jpg

(以下、映画の核心に触れる部分もございます)

(アジア系)移民1世の父母世代の苦労を背負って
移民2世のヒロイン、エンバー世代が
アイデンティティを模索しつつ葛藤する中で
異文化、自分とは違う他者との出会い、コミュニケーションを通して
世界を広げる新しい一歩を踏み出すビルドゥングスロマン。
その新しい一歩のきっかけになったのは
火のような女性が正反対の元素的、
水のような男性に出会ってしまった化学反応。
ふたりの恋愛は、互いを消してしまう可能性もある
リスクの高い「化学反応」。
近づけない、近づきすぎると相手を互いに消してしまう
元素の性質と化学反応がふたりの距離を遠いままにしている。
ソーン監督の「ある元素は互いに混ざり合い、
またある元素は混ざり合いません」が重い。
四元素をモチーフにした登場人物たち。
確かに、空気と水、水と土、土と空気は
混ざり合うけれど...
火と水の関係は、エンバーが鉱物との化学反応で
鉱物色を反映してキラキラ七色に光ったり、
ウェイドが水と光で虹を作ったりするのとは違う。

さらに、エンバーが子どもの時に遭遇した酷い差別、排除の記憶も。
Vivisteriaの花を見にガーデンを訪れたエンバーと父は
入口の係員(水の元素)に火は危険だから入れない、
「(故郷の)FIRE LANDへ帰れ」とヘイトスピーチで追い返されていた。
「セサミストリート」に加わったアジア系のキャラクターも
周囲に「帰れ」と言われ傷ついていたこと

新型コロナウィルス・パンデミック禍でのアジア系へのヘイトとも重なる。
「ウエストサイドストーリー」の時より
差別や分断、対立は激化している現代、現実の世界も反映しているよう。
苦労してこの地にたどり着いたあげく疎外されてきた火の元素が
水の元素と会ったり付き合うことは
極右排外主義者・白人至上主義者、
日本で言ったら外国人らを排斥する極右歴史修正主義者や
右でも左でもないと自称!するふつう()の「ネトウヨ」と会うようなもの。
そんな背景、障害もある火のエンバーと水のウェイドのラブストーリーだが...

音楽はインド風や中国風の部分もあり、
「HOT」な食べ物を好むが、特定の国や文化ではなく
(HOTは熱いと辛いのダブルミーニングで前者は火の元素と絡み、
後者は唐辛子、アジア系とリンク)
広い意味でのアジア系を髣髴とさせる火の元素の人々。
しかし、ラブストーリーはどこか韓流ドラマを髣髴とさせる感も。
エンバーの父が営む食料品店「FIRE PLACE」で
火の元素の顧客たちがケーブルテレビ?で視ているのは
どうみても韓流ロマンス、ラブストーリー。
世界のコリアタウンで、
そして現在のように新大久保が「若者の街」として10代20代であふれる前は
東京でも韓国料理店などの店内のCATVで
韓国のニュースやドラマが流れ、それを見つめていた客たちの光景と重なる。

ウェイドと出かけるエンバーがエレベーターに乗った時、
「火」がほかの客に影響しないように、
水の腕がぐつぐつ沸騰して犠牲になりながらエンバーを守るように
エンバーの盾になって立つウェイドの姿も韓流ドラマあるあるな姿。
そして、エンバーの父バーニーが暴風雨や水害に見舞われた(水との悪縁が...)
故郷FIRE LANDから新天地へ旅立つ時
両親に対して跪いて礼をする姿はまさに朝鮮半島の「큰절」。
残念ながらバーニーの父は息子の「큰절」に返礼はしてくれなかったが...

elemental letter 2 parents.jpg

映画の公式SNSにはソーン監督がこの作品を両親へのラブレターだ、
と語るメッセージが載っている。
そこにはアメリカ育ちの2世が1世の苦労に敬意を払う気持ちも
含まれているだろう。
そして、(監督の両親の実際のストーリーがどうだったかはわからないが)
監督が大人になって両親を「人」として見るようになったという視点は
映画の中でバーニーの父は息子の「큰절」に返礼しなかったが
バーニーはエンバーの「큰절」に返礼をする、
という対比にも込められているかもしれない。
返礼も、相手を理解して受け入れる
インタラクティブなコミュニケーションだから。
両親も親である前に、子として人として
家父長制的古い価値観に傷つき、断絶した過去があったかもしれない。
しかし、店を継ぎたくないとついに本心を吐露したエンバーに
父は、「店が私の夢ではない、娘のお前こそが私の本当の夢、
それは一生変わらない(拙訳大意)」とありのままの娘を受け入れる広い愛、包容力を伝える。
古い価値観なら、絶対に家業を継ぎなさい、家業が大事、
対立する水の元素との恋愛は許さない、となってしまうが
個人としても子を尊重する父バーニーの姿、その描写も
監督の両親の姿とオーバーラップしているかもしれない。
そこへの敬意も含んだ、両親へのラブレターにもなっているのだろう。
古い価値観などとの葛藤と、その押しつけや連鎖をしない、は
アジア系が主人公の過去の作品とも共通する。

両親、移民1世へのラブレターと
異質で正反対なもの同士のラブストーリーが縦横に重なる
愛にあふれた余韻を残す。

監督は主人公二人の声優を声で選んだそうだが
声優たちの多様なルーツに驚いた。
エンバー役リア・ルイスのルーツは中国、
ウェイド役はモーリタニアにルーツがあるママドゥ・アティエ。
父バーニー役はアニメ制作者でもある、
フィリピン系のロニー・デル・カルメン。
『インサイド・ヘッド Inside Outの共同監督も務めていた。
母シンディ役はイランがルーツのシーラ・オンミ。
実写と相違して、アニメーションは声だけだから
肌の色など先入観で人種や民族を見てしまわないのがいい。
作品自体もボーダーを越える、
アジア系移民のrepresentationにも寄与するテーマだが
製作のバックグラウンドも多様性を備えていて感慨深い。

共生、共存してこその多様性と
声優キャスティングからも伝わってくる。

音楽は『1917』などのThomas Newman。
また、OSTシングル曲「Steal the Scene」はBTS 방탄소년단と親しく
BTSの「Make It RightでフューチャリングもされたLauvが
Thomas Newmanらと制作。
Lauvの音楽含め、Z世代に訴求しそう。

elemental by sohn.jpg

最後に、FIRE TOWNが水害に見舞われる設定は

都市の歪んだ再開発、不均衡で未達なインフラ整備の弊害の可能性のほか、

ポン・ジュノ監督『パラサイト 기생충 Parasiteも想起する
水が流れ込むのは周縁者、疎外された者たちの居住地域で...
ジェントリフィケーション(gentrification)や
ゲーテッドコミュニティ(gated community)とまでは言わないが
地域間格差や、フランスで移民が多く住むバンリュー(郊外、Banlieue)の問題を
想起もさせる。フランスで非武装のアフリカ系少年を警察が銃撃した事件に
怒り、バンリュー関連の映画を観て今も考え続けている
が...

また、SNSなどで昨年も書いていた通り
気候変動地球温暖化のしわ寄せとして酷い洪水が
パキスタンを襲った問題等、地球規模で気候変動の影響が
脆弱な地域に、より甚大な被害をもたらす問題とも通じ普遍的。
今年もあちこちで気候変動の影響による水害や山火事が頻発している。
移民の物語としてだけでなく、
地球規模で環境の問題やグローバル・サウスの問題としても考えさせられた。

STOP ASIAN HATE

to be continued...!?

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