子どもの頃家族で宿泊したソウル新羅ホテルの庭園に
三星(삼성 Samsung)グループ創業者李秉喆 이병철の銅像があったことを覚えている。

その創業者を髣髴とさせる
陳会長(イ・ソンミン)と「末息子(孫)」の財閥家をめぐる
熾烈なM&A、受注をめぐる競争や
スニャン・グループ後継者争いに
主人公の「タイムスリップ」的転生ファンタジーを装置に
1980年代から2000年代の激動の韓国経済史をも振り返って歴史もの風で
ビルドゥングスロマンの趣もある韓国ドラマ。

原作は산경による同名のウェブ小説「재벌집 막내아들(財閥家の末息子)」。
イ・ソンミン、ソン・ジュンギほか主演。

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(以下、ドラマの核心に触れる部分もございます)

チェ・グッキ監督『国家が破産する日 국가부도의 날』で描かれた
アジア金融危機も挟んで
熾烈なM&Aや新都市計画受注に後継者争いも絡んで
財閥から見た韓国の経済発展史(あるいは浮沈史)の趣は
当時を記憶している韓国民にとっては単なるレトロではなく
心の痛みも伴うが...ドラマ「シグナル 시그널」のように
「過去」は黄色味がかかった映像で
撮られていた。

約10年前、韓国ドラマは時代劇(史劇)のフレームでも
現代社会の問題や政治批判を描く、と書いていた

SFやファンタジーも米ハリウッド映画等に顕著だが
現在の批判をしのばせている

過去や未来、SFファンタジックな設定、フレームの中で
批判精神を発揮し過去を再検証する歴史性ある
タイムスリップものの趣も。

「王子と乞食 The Prince and The Pauper」的な
韓国映画『王になった男 광해, 왕이 된 남자』
のように運命が入れ替わったかのように
転生して2度目の人生を送る機会を得た主人公の
当初の目的は復讐。誰が自分を殺したのか?
そして誰が自分の家族を追いつめ死に至らしめたのか、
という復讐心に満ちていた。
しかし、その復讐は変転、変質していくよう。
パーソナルな復讐はやがて
新自由主義経済、財閥偏重資本主義に雁字搦めになっている
社会のヒエラルキーと格差をひっくり返すような、
社会変革的大義にも接続するスケール感、普遍性への広がりも。
貧困や機会不均等の連鎖を食い止めるため
非正規雇用をなくそうとし、IMFが進める方針には抗う方向性。
人生やり直しならぬ、
アジア金融危機前後の韓国経済再生仕切り直し的視点もあり、
新自由主義経済への批判が込められている。

さらに、「ハーバード白熱教室」などで
マイケル・サンデル教授が最近テーマにしていた
「メリトクラシー(能力主義)」の問題についても
(当時はメリトクラシーという言葉は使われていなかったので別の表現で)
触れられているのが2022年のドラマならでは。
持てる者と持たざる者の間の断絶や衝突を
人生が入れ替わった「王子と乞食」的転生ファンタジーな設定でくるみながら
財閥という上からの視線と庶民という下からの視線をぶつけ
交差させて歴史や現代社会を捉えなおしている批判性も。

運命が入れ替わった『王になった男』「乞食と王子」のような
ファンタジー設定もありながら問題はもっと複雑。
現代社会で国家を動かせるほどの、
王家王族のように君臨する巨大財閥の手足として
新自由主義経済のひとつの歯車として
末端で生き、生かされているジレンマも。
但しその歯車にも共犯者としての自覚や懺悔が必要だった、
と2度目の人生の果てに、ついには悟らされもする。
それゆえ、捨てられた犬のようなサラリーマンが
復讐を着々と進める一方で
自身のアイデンティティ、財閥と一体化した共犯者側でもあると
一種覚醒し悟らされるような
大人のビルドゥングスロマンの趣も。

韓国ドラマ「椿の花が咲く頃」のようなミステリー仕立ても孕んで
ジャンルを横断し、「転生もの」にとどまらない側面も。
復讐に絡む「誰が私を(彼を)殺したのか」という問い、
その問題の核心に迫ることは一方で自分の(アイデンティティの)深淵を覗き、
自身の闇の部分に触れることにもなり、
そういった意味でも大人のビルドゥングスロマン感も。
社会構造の歪みが、使い捨てされる個人に理不尽に押し付けられたがゆえの
共犯者であるとしても、懺悔に行きつくには
罪を自覚する葛藤あるプロセスとしての二度目の人生が
必要だったのかもしれない。

16話にざっくりまとめられてしまったドラマ版は
竜頭蛇尾、という批判もあったもよう。
一方で、人間の力ではコントロール出来ない、
抗うことが出来ない運命や死も描かれ、
ファンタジーに現実的な痛みも残している。
転生して財閥末息子になっても、
IMFや財閥の方針に必死に抗うように奔走しても
愛する家族の死を食い止めることが出来ない絶望感は
ファンタジックな物語を現実的地面に引きずりおろす。
無力感や絶望感も残るカタルシスは
新自由主義経済の歯車として流されて思考停止してしまっている
市民ひとりひとりにもピリッと問いかけられ
ボールが投げられた余韻を残す。
家父長制的、君主制的財閥という王国の
長子承継を阻むことは出来たものの。

ノスタルジックな映像からは
主人公ヒョヌのように、アジア金融危機で
大学進学の機会も失うなど奈落の底に突き落とされた人生も
想起され苦い思いにもなるかもしれない。
やはり韓国の近現代史は21世紀初頭までは
まだまだ浮沈激しい激動の時代で、
苦労もした経験が喚起されてしまうことも多そう。
ただ、その苦しかった時代には思いもよらなかったようなプレゼントが
後からついてくる。
やり直そうとしてやり直し出来なかったこと、阻止できなかったこと
その現実的な無力感や絶望感を和らげるように
心にしみてくるのは...
金九の言葉「ただひたすらに手に入れたいのは
高い文化の力。
文化の力は私たちを幸せにもするし
さらに他者にも幸福を与えるから(拙訳意訳)」。
本ドラマにも登場した金九の言葉は
結局苦しみの果てに実現した。
夢のような願いが現実になった。
それは自分のためだけではなく
他者にも幸福を与える。
財閥末息子に転生した二度目の人生では
財閥という王者に挑みつつ復讐が念頭にありながら
他者にも幸福を与えようとしていて重なる。
正義を通して他者にも幸福を与えようとしていたから。
そこは何度でも想起しかみしめたくなる。

2022年2月、SAG(全米映画俳優組合賞)テレビドラマ部門で
イ・ジョンジェとチョン・ホヨンが主演男優賞・女優賞を
それぞれ受賞した際、文大統領のお祝いのメッセージにも
金九の言葉が引用されていた


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余談:最近韓国や日本のマンガに「転生もの」
「転生したら〇〇でした」が多いようだが
今読み途中の韓国のマンガにも
転生して財閥になり非正規職員を全員正社員にするなど
新自由主義経済とは相違する「構造改革」を進める
ストーリーもあり、転生してラッキー!では終わらない。
勇者ホン・ギルドンや義賊のように、
あるいはノーブレス・オブリージュの精神で
格差問題や不正腐敗などに真摯に取り組んでいる。
韓国らしい発想という気もする。

*第一話の配信は4月、最終話の配信日は6月1日だったので、最近ドラマ4~6月。

『王になった男 광해, 왕이 된 남자』
韓国で字幕なし、一回目


to be continued...!?

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