1988年、ソウル・オリンピック開催直前。

ユ・アイン、コ・ギョンピョ、Wanna One出身オン・ソンウ、
パク・ジュヒョン、イ・キュヒョン、
ムン・ソリ、キム・ソンギュン、オ・ジョンセ、チョン・ウンイン出演
ムン・ヒョンソン監督
Netflix映画『서울대작전 ソウル・バイブス Seoul Vibe』。

Seoul vibes main.jpg

(以下、映画の核心に触れる部分もございます)

「88オリンピック」の影と闇、
打倒전두환をポップに描いたブラック・コメディ & カーアクション映画だが
1980年代レトロな画面には意外と情報量が多く。
映画の中に韓国現代史の引き出しが嵌め込まれているよう。
引き出しがちょこちょこ開いていく感じ、あるいは
ドンウク(ユ・アイン)のドライビングで1988年のソウルを
縦横にめぐりながら、窓の外に韓国現代史も風景のように映し出される趣も。

映画全体の流れを止めるような引き出しではないが、
韓国現代史を知る人なら、おっ?と一瞬立ち止まる感じ。
そんな風に引き出しが開いて現代史が車窓に
ちらっと走馬灯のようにめぐり、
あるいは、カーブを曲がる時のように
現代史の断片が一瞬顔をのぞかせる。
ただし、社会派映画でもなく、悲劇的でもなく
エンタメの中であくまでちらっと観客に現代史を喚起する引き出し。

まず冒頭のサウジアラビアは
主人公の職業とは相違もするが
当時「漢江の奇跡」で建設会社中心に
韓国企業が中東に進出し建設作業に携わる人たち(や駐在員)も
増えていた時代を想起させる。

そして帰国してみるとドンウクらのふるさとの上渓洞は
再開発で家々が撤去されている。
(韓国最初のインディ系ドキュメンタリーと評される)ドキュメンタリー映画
キム・ドンウォン 김동원監督の『上渓洞オリンピック 상계동 올림픽』もすぐ思い浮かぶ。
タルトンネと呼ばれていた上渓洞の住民たちは
オリンピック開催を前に美観などを理由に
「撤去民」となって住む場所を追われていた。
お祭り騒ぎを前にしたソウルで
故郷を失ったドンウクらのアウトサイダー感がひしひしと。
(2021年の東京オリンピック開催前、国立競技場近く
都営霞ヶ丘アパートの約200世帯も立ち退きを迫られ住居を失った)

もちろん、エンタメ映画なので「岩に卵を投げつける」ような
戦い方はしないのがドンウク。
전두환とその金庫番のようなカン会長らを
成り行き上(~取引をして)、検察と共同で追い詰める
秘密資金捜査作戦に加わることに。

まだまだドンウクの車窓には韓国現代史が流れていくように、映る。
ソウル大学と推測されるキャンパス内では
警察が(民主化運動に関わったと推測される)学生らを締め上げる頭上に
「先輩が帰って来ないです(=行方不明)」の悲痛な垂れ幕が。
前年の1987年はチャン・ジュナン監督『1987 ある闘いの真実』でも描かれた通り、
延世大学などソウルの学生街で民主化運動が熾烈だった史実とリンクもする。

タクシー運転手のボクナム(イ・ギュヒョン)も
1980年の光州の『タクシー運転手』の後継者に見えなくもないし...

ただ、大学生でもなくインテリ層でもないふつうの庶民、
庇護してくれる親もいない(母親はアメリカに移民)
どちらかといえば社会の周縁にいる疎外された若者で、
ちょっと不良っぽい子どもたちが独裁者の金脈を断とうと
巻き込まれつつ戦う姿は古典の「ホン・ギルドン(伝)」も想起させる。
ホン・ギルドンも庶子ということで孤独で疎外されたアウトサイダーだった。
アウトサイダーが巨悪に立ち向かう大筋、構図は
朝鮮半島の古典とも共通するよう。

Seoul vibe retro rainbow.jpg

しかし、あくまでブラック・コメディ的に話は進む。
白い鳩が羽を焦がして飛んでいる姿も若干グロテスクに思えるが
聖火台に点火した際、近くで黒焦げになった平和の象徴、白い鳩の
エピソードを盛り込んで、オリンピックに批判的な視点も
(1988年当時から同様の批判的言説はあった)。
80年代、1988年のレトロな雰囲気の中で
ぴりっと当時の為政者や、
所謂「3S政策」に対する批判も当時の文脈もろとも召喚して興味深い。

エンディングで鳥の大群が江原道の寺の上空を飛び
XXXの頭上に糞を落とすシーンも
再開発で家を追われた上渓洞の住民になり代わって
鳥たちが時間差でリベンジしたようにも見えた。
野鳥の群れの多さは上渓洞の住民の数と同じくらいだったかもしれない。

勧善懲悪的古典を髣髴とさせる、
無名のアウトサイダーのヒーロー的ストーリーは
現実の歴史とは相違もするファンタジックなカタルシスを齎しつつ
レトロな車や音楽でエンタメ性をアップした趣。
車好きには、グレンジャー그랜저のエンジンをPONYに積んだ改造車が
狭い路地を片輪走行やドリフトで走る姿などクラシックなカーアクションが眼福かも。
現代の21世紀のカーアクション、たとえば『007』などと比べると
パワー不足で物足りないかもしれないが、
1988年という当時の技術やエンジン性能レベルにはマッチしたアクション。
手動でエンジンに冷却水を送っているのも時代を表す。

そのカーアクション(の一部?)は最新のNetflixのスタジオ(韓国内)にある
「Virtual Production」を使って撮影したそうだ。
Netflixが韓国に投資した成果、効果。
従来のブルースクリーン(やグリーンスクリーン)背景の撮影とは相違し、
LEDパネルを壁のように設置し、その「LED WALL」に風景などの
ムービーを映写しながら撮影を進めるもの。
CGによるポスト・プロダクション作業の労力がかなり減る。
今回、車窓の外に1980年代の街の風景を映しながら撮影したそう。
同様のシステムの「バーチャルスタジオ Virtual Studio」を
「CJ ENM」も今夏発表していた。
CJ ENMは5月から使っているそう。
Netflixの方は昨年頃から使用しているはず。
ドラマ「ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え」でも使用されたかもしれない。

Seoul vibes fashion.jpg

音楽は時代と、ドンウクらの好みを反映していてセンスよく
とても満足した。
ドンウクもカルチも、みんな大好きLA文化、
みんなだいすきRUN DMC、みんな大好きエア・ジョーダン。
80年代のHipHop「オールドスクール Old-school hip hop / old skool」の選曲がよき。
The Sugarhill GangにDavy DMX。
音楽監督DJ 소울스케이프のセンスがさすが。
というわけで前半のミックス・テープは「オールドスクール」中心。
アメリカにあこがれていたあの時代、
アメリカナイズされた若者の生活がよく表れていたが
実は微妙にそれぞれ違う音楽の好みが興味深かった。

DJのウサムはいち早くレゲエに目をつけてもいた。
この何年か後にも韓国にレゲエ風音楽が登場するのを予見するような設定。
妹のユンヒは元祖男性グループ・アイドル的「소방차 ソバンチャ」が好き。
ちょっとお兄さんなボクナムはイ・サンウンが好き。
ほかに韓国を代表するロックバンド송골매もミックス・テープに入っていた。
カン会長は「ジャクソン」のレコードに声を上げ、
モータウン・サウンド(モータウン・ソウル)好きなのだろうか、としばし考えさせられる。
テスト走行で運搬する映画フィルムは1987年にアメリカで公開された
『ラ・バンバ La Bamba』。
アメリカ中心ではあるものの
さまざまな音楽を聴いていた当時の若者、あるいは彼らの
バラバラなようでいてチーム、「シュプリーム・チーム」*としての
一体感ある描写が韓国らしいビビンパ風味にも思える。

Old-school / old skoolを継承したようなOST曲
WINNERのミノ MINOによる「CITY +++」もよき。
いい曲作るな~と昨年思っていた소코도모 SOKODOMOも
絶賛する다이나믹듀오 Dynamic Duoの개코 GaekoをFeaturing。
Dynamic Duo入隊前のお別れコンサートはソウルまで
観に行っていた
。めちゃ盛り上がった!

ミクテ(mix tape)ほしい。

余談だが、少し調べたところ史実的には
전두환の秘密資金の検察による捜査は
2003年になってもまだ不十分で、完全には出来ていなかったらしい。

映画館には『男たちの挽歌(英雄本色)』風
『双雄本色』の看板がかかり、
香港映画へのオマージュ的シーンもあった。

『上渓洞オリンピック』のキム・ドンウォン監督作品は
『다섯 개의 시선 If You were Me 2』の一編
『종로, 겨울(鍾路、冬)』

『송환 送還日記』なども観ていた。

ムン・ヒョンソン監督イ・ソンギュン、アン・ジェホン主演『王様の事件手帖 임금님의 사건수첩 The King's Case Note』は
推理・謎解きが物足りなかったが...
長編第一作の『ハナ 奇跡の46日間 코리아 Koreaは玄静和選手好き、
南北の女子選手がカッコよく印象的だった。

Propagandaさんデザインのレトロなポスターがカッコいい。

Seoul vibes retro poster.jpg

* 「シュプリーム・チーム」と同名!?のHipHop duo、
슈프림팀 Supreme Team大好きでカラオケでも歌っていた


to be continued...!?

buzz KOREA

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