イ・ヨンエ14年ぶりのスクリーン復帰作
『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人 나를 찾아줘』(2019年)
キム・スンウ初監督作品
イ・ヨンエ、ユ・ジェミョン、パク・ヘジュン
イ・ウォングン、イ・シウ出演。

あらすじ

行方不明の我が子ユンスを探して6年、
ついに手がかりを得たジョンヨン(イ・ヨンエ)は
海釣りの観光客が訪れる島に向かったが...

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(以下、映画の核心に触れる部分もございます)

ジョンヨンが意を決して薄暗い闇の中で
髪をひとつにまとめるシーンは
『親切なクムジャさん』で復讐の女神と化した
母性の表出の延長のような気もした。
その後、縄を外させるために
풀어줘 죽여줄게」と表情ひとつ変えず挑発するイ・ヨンエ。
憤りを抑えた冷静な顔とはうらはらに
内面には復讐の炎が滾り、
怒りのギアがさらに一段階上がっているのが
見て取れ、その凄みに目が釘付けになってしまった。

一方、行方不明の子どもが
親を探すことも助けを求めることもままならず、
強制的に労働させられている社会問題の根底には
他者への無関心が問題の解決を阻害していることが
示唆もされている。
海釣りに島を訪れる人々は
小さな子どもたちが働かされていることに
何年もの間誰も関心を持たなかったのだ。
ハンナ・アーレントは
「世界最大の悪は、平凡な人間が行う悪である」と
悪の凡庸さを喝破したが、
当時思考や判断を停止し
ユダヤ人迫害に関わった人々の「思考の限界」は
他者に対する関心や配慮を一切持たない
思考停止、他者認識の欠如でもあっただろう。
その意味で、
日本も世界も他人事ではない、
普遍的な問題提起を映画は孕んでいる。

徐京植氏の以下の文を読めば
映画の中の加害者は
拉致され日本軍性奴隷にされた日本軍慰安所の女性や
強制労働を強いられ逃げることもままならず
搾取され虐待もされた徴用工らに対して
思考を停止している日本人と重なり、
今なお凡庸な悪の沼にどっぷり浸かったままなのでは、
という懸念も強まる。

「しかし、その声は「安楽全体主義」によって孤立させられ、
「精根込めた他者の認識」は成し遂げられなかった。
近代日本においては「他者」は自己認識を更新するための
批判的参照軸としてではなく、対抗的な自己肯定や自己賛美のための
素材としての役割を負わされてきた。
そのもっとも醜悪な到達点が、現在の反中・嫌韓論の横行である」

(ハンギョレ新聞 徐京植「他者認識の欠落―安保法制をめぐる動きに触れて」より)

干潟近くで「再会」したミンスの足の小指の爪は、
母親ゆずりの二枚爪(며느리발톱)ではなかったので
ミンスはユンスではなかった、ということになるが...
エンディングで、2年後に訪れた施設で
ジョンヨンに会おうとこちらにふり向く子どもは
あまりに幼かった。
ユンスは15歳になっているはずでは...

2年後も「ユンス」を探し続けているジョンヨンにとって
亡くなった「ミンス」は半分ユンスで半分ミンスだったのかもしれない。
だから、まだどこかで父母を待つ第2、第3のユンス
あるいは第2、第3のミンスを探すことは、
親としての切実な思い、愛と責任に加え、
社会の一員として子どもを守る大人、としての責任意識も伺え
他者への関心や配慮を失った社会、
ミンスやジホのような子どもたちを救えなかった社会の
凡庸な悪に対し、平凡な母が出来るちいさな抵抗かもしれない
という余韻を残した。

韓国映画らしい、容赦ないノワール感の復讐劇にとどまらない、
社会問題へ向かう姿勢の余韻が感じられるエンディングだった。
だからこそ、母になったイ・ヨンエが
『親切なクムジャさん』の時以上に
親としての責任感の増した役者として
この作品を選んだのだろうと思わせた。
やはり、2014年のセウォル号事故以降
子どもを守るべき社会の一員としての
大人のコミットメントがこのように映画に描かれてきている感も。
(本来は、子を失った親ジョンヨンや
かつて行方不明だったスンヒョン=イ・ウォングンという
当事者以外も広く関心を持ってほしい社会問題ではあるが...)

ジホを引き取って我が子のように育てている
ラストからは『グエムル』の結末も想起。

『悪人伝』のようなノワール的悪のグラデーションを描く映画もあれば
今作のような、他者認識のない自己中心的で凡庸な悪を社会的に描く作品もあり
韓国映画は悪の描き方が深く多様、
即ち、抉るように深い人間理解や省察があるということ。

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『親切なクムジャさん 친절한 금자씨』10年ぶり2回目

2005年、パク・チャヌク監督
『親切なクムジャさん 친절한 금자씨』1回目


to be continued...!?

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