あらすじ
轢き逃げにより昏睡状態の女子高生ヨンシン(パク・ソダム)を救うため
キム司祭(キム・ユンソク)とチェ助祭(カン・ドンウォン)は
入念な準備の末、明洞の路地に向かって行った...

キム・ウィソン、キム・ビョンオク、ナム・イルら共演
チャン・ジェヒョン監督長編第1作
『プリースト 悪魔を葬る者 검은 사제들 The Priests』(2015年)

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(以下、映画の核心に触れる部分もございます)

2014年、韓国で観ていた本作の原型
短編『12人目の助祭 12번째 보조사제 12th Assistant Deacon

設定やロケーションは概ね一致もしている。

そして、短編版レビュー時書いていた通り、
深層心理を炙り出す記憶装置、メモリ起動トリガーでトラウマ発見器のような
宗教、そして悪魔祓いの儀式としての性格は本作も。
ただ、カトリックは迷信や不合理と戦って来た、
カトリックは理性と知性、とのセリフによる言及がある通り、
悪魔祓いの過程で露わになる疑心や自身の弱さとの葛藤だけでなく
より形而上学的により広い意味で
恐れや不安、疑念と対峙し克服するプロセスとみることも出来
(無神論者にも)普遍性が感じられた。

教区の信徒でもある女子学生を虐待した、という話も
悪魔が学生の口を借りてしゃべらせた、単なる「嘘」
人間を動揺させ疑心暗鬼にさせ亀裂を深める作り話とも考えられるが
(真相は明白に提示されていない)...
暗雲のようにみるみる大きく立ち込める疑念や疑惑は
悪魔祓いの障害ともなり得るが
悪魔祓いと共に払われ一掃されていくようにプロセスが並走もする。

夢という無意識の世界が過去の記憶と結びつき
過去と現在をトンネルで繋ぐかのように
しまいこまれていた罪悪感や恐怖心、疑心などを呼び覚ますのは、
短編と同じロケーション、
明洞という繁華街の雑踏の一歩隣の路地
人々の日常と隣り合わせの路地の異空間や闇の世界とも通じ合う。
現実と夢、無意識の世界との対照が
明洞という繁華街のすぐ隣のうす暗い路地との対比のように
二つの世界が意識され浮かび上がっても来る。
隣接し背中合わせのような
闇の世界、悪魔祓いの世界と光ある世界が
互いの存在を知らせるかのように...

懸命なムーダン(巫堂)の後を継ぐように悪魔を祓い始める場面、
シャーマニズムとカトリックそれぞれの担い手が交差するシーンは
急速に近代化を遂げた韓国社会、
圧縮された近代 compressed modernityの断片のようでもあり
韓国が抱える複数の価値観を示した現在地の描写でもあり、興味深い。
悪魔祓いには、
さらに寅年生まれが良いとして、
助祭の選定に干支の価値観を持ち込むのはアジア的で韓国的
東洋と西洋を行き来し現在と過去も行き来するような
時空の歪みにフィクションとリアルのあわいがまぶされでいるかのよう。
映画はちょうど2014年の中元節頃(2014年の中元節は8月10日)が描かれているようだから、尚更
(あらすじでは「2015年」となっているが
映画の中のカレンダーは2014年だった。
また、チェ助祭が夏休みの毎日の練習から解放されたのは
ローマ教皇に聴かせるための聖歌、合唱の練習だから...やはり2014年夏の設定か)。

聖堂の近くを機動隊が走っていたシーンが一瞬あったので
記憶を辿ると...
2014年8月といえば...
ローマ教皇フランシスコが14日にソウルに到着し
15日には大田で聖母被昇天大祝日ミサの前に
旅客船セウォル号沈没事故の行方不明者の家族に手紙を伝達、
18日には旧日本軍元従軍慰安婦被害者も招待された明洞聖堂のミサという
スケジュールの約1週間前、という設定になる。
フィクションではあるものの...
ローマ法王来韓直前の悪魔との死闘と考えれば
フィクションにリアルが垂らし込まれスケール感もいや増しそうな...
2014年...そして機動隊に胸を衝かれもした。
フィクション、映画の中で
ふとリアル世界にも引きずり込まれ虚をつかれもするから。

マタイ8:32(と言っていた)に
「悪霊が豚の中に入った(大意)」とあるように、
悪魔悪霊を入れ封じ込める「容器」として豚を用意していたものの
それは可愛らしいピンクの赤ちゃん豚(ペットのような雰囲気)でおどろく。
そんな愛らしい子豚が
悪魔が入った後は真っ黒に、黒豚になってしまうカタルシスが目を惹く。
現代の悪魔祓いで豚を使うことはないそうだが...
ムーダンによる悪霊祓いでは牛の頭まで持ち出し、
牛や豚はシャーマニズムとも関わりある、韓国らしさの表出で興味深い。
(あるいは
死んだ動物を用いるより、あるいはシャーマニズムより
カトリック式悪魔祓いがこのケースでは有効だった、
という対照を示唆するストーリー上の選定でもありそう...深読みすると。
敵を知り、敵が悪魔と知るなら、手段手法対抗策はムーダンの悪霊祓いではなく
カトリック式悪魔祓いで、豚を使う、と)
豚は韓国では金運の象徴でもあるが、
韓国的な豚の意味文脈と
カトリック(キリスト教)的意味の混淆が
前述のリアルとフィクションの交差やリンク
闇と光の対比とも混然とし
短編の時よりハイブリッド感濃し。

ウンベルト・エーコ「薔薇の名前」の主人公ふたりの名が
ホームズ(バスカヴィルのウィリアム)とワトソン(アドソ)のようなコンビだったことも想起し重ね合わせ
チェ助祭の洗礼名アガトはアガサ(・クリスティ)に通じ
ホームズとワトソンに続く、真理・真実の探求者として感じたりも...
(「不死者あぎと」とのリンクとも考えられるが)

カタルシスはシンプルだが
(深読みすると)なかなかいろいろ考えてしまう...
そして悪魔祓いという極限シーンをこなした
主演3人の鬼気迫る演技は説得力があった。

製作時からCGV Screen X での上映を想定して撮影した最初の作品とのこと。
Screen X でも観たかったなぁ(怖いけれど)。
既存の作品を3D化して上映することもあったが、
既存の作品を Screen X に変換して上映することも可能なら...
Screen X で観てみたい韓国映画もいくつかある...


to be continued...!?

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