あらすじ

父子家庭の父ヨング(リュ・スンリョン)は知的年齢が6歳。
娘のイェスン(カル・ソウォン)は小学校入学を控えたしっかりもの。
娘ダイスキ!なパパ、ヨングがある日殺人犯として収監される。
娘がいないとダメ...なヨングのために7番房の人々は
イェスンを「塀の中」に入れてヨングに会わせてあげようとするが...
オ・ダルス、チョン・ジニョン、パク・シネ、パク・ウォンサン
キム・ジョンテ、チョン・マンシクら共演。

イ・ファンギョン監督『7番房の奇跡/7번방의 선물/Miracle in Cell No.7』

cell7.jpg

(以下、映画の核心に触れる部分もございます)

人間が捜査し
人間が判断し裁く限り
冤罪はいつの時代どこの国にもある普遍性を備えるが、
韓国の場合は
その波瀾万丈な歴史(特に近現代史。植民地時代に第五共和国等)の中で
民主主義の浮沈に
抑圧された庶民の恨などから来る
伝統的なお上への批判精神も包含する。
ハンディキャップのある人への差別や偏見、
警察・検察批判も込められている、と社会的な側面も感じさせるが...

パンソリで有名な古典「沈清伝」 の父娘の絆に
90年代韓国でも人気を博したアニメ「美少女戦士セーラームーン」の正義の執行を
混淆した印象も。愛と正義。
LOVEとJUSTICEに包まれた映画。

もちろんその奥底には
韓国の庶民が抱える恨(ハン)とその浄化作用も流れている。

精神年齢が6歳の父親と
実年齢7歳の娘のやりとりは幼く、童話のよう。
お互いを思う気持ち、その純粋な思いの描写は
心をほんわかさせる優しさと
ふたりの運命に潜む奈落のような悲しみを陰翳深く秘めており
そのアンビバレント/ambivalentに気付いてしまうと涙が乾く暇がないほど。
純粋なふたりと
ふたりを取り巻く心の温かい人々、
警察と検察と冤罪と刑務所が登場するのに
いい人ばかりな設定はファンタジー過ぎると観る向きもあるかもしれない。

脱走、脱獄を描いた韓国映画
チャン・ジン監督『偉大なる系譜』
キム・サンジン監督『ジェイル・ブレーカー(光復節特赦)』
等と比べると...
脱走の方法もカラフルな気球を使って
夢のように非現実的、ファンタジックで
おとぎ話、童話のよう。
一方で
その非現実的さ儚さが
庶民の弱さ、潰える夢を象徴もする。1990年代後半の。
そしてそれは庶民の恨とも地続きだった。

韓国では刑務所のことを以前から
隠語で学校と呼ぶが、
刑務所が象徴する学校性をうまく使ってもいる。
その「学校」を舞台にして
7番房のメンバーはじめ
犯罪者でも悪い人とは限らないとおしえる。
セリフでもイェスンの前で
「悪い人」「いい人」の概念が何度も入れ替わって
笑いを誘うが、
私たちの日常の潜在意識・無意識の
刑務所に入っている人は悪い人
刑務所長も刑務官も血も涙もない人
前科のある人は悪い人
元ヤクザは生まれ変わらない限り悪い人といった先入観や偏見を
サブリミナルに覆すEnlightenmentな、「学校」のような側面も。

ヨングとイェスンの別れのシーンでは
ロベルト・ベニーニ監督・主演『ライフ・イズ・ビューティフル/La vita è bella』の
父親が消えて行く場面も想起したが...
幼いイェスンの心に焼き付いた最後のシーンは
やはり気球に乗った自分と父親の姿だろう。
どこまでも自由に
地上的な悩みや心配からは離れて飛んで行く。
冒頭の黄色い風船が空を舞うシーンとつながり円環をなす構造が
その印象を強める。

ヨングとイェスンの別れのシーンでもう一つ。
ふだんは6歳児の表情に発想、言動だけのヨングが
ふと見せる父としての姿、心情が胸に刺さる。
特に別れのシーンで叫ぶ「助けてください(살려 주세요)」。悲痛な叫び。
法廷での「(イェスンを)助けてください(도와 주세요)」も
日本語訳は「助けてください」なので
真意や切実さが伝わりにくいかもしれないが...
살려 주세요に込められた切実な父としての思い、真情
究極の願いが響き渡り、いつまでも余韻を残す。

音楽も象徴的。
「セーラームーン」はイェスンが好きなただのアニメとしてだけでなく
そのキャラクターと歌詞から
正しい判断がなされること
正義の裁きが起こること
即ちイェスンが司法修習生として隠された真実を明らかにし
法的に冤罪を晴らすその後を暗示。

イェスンたち小学生の合唱で歌われる
「Angel's Song(原曲はOh holy night、
クリスマス・ミサによく歌われる讃美歌)」の歌詞は
天使の来訪(救い)を告げる一方で
空の片隅にも歌声が届くだろうかと
後日のイェスンの気持ちを先取りするような歌詞もある。
映画の中の現在と未来がひとつの曲の中で交差。
歌詞が暗示することごとを考えるだけでも
涙がこぼれてしまうような演出だった。
讃美歌の歌詞には
「新しき朝は来たり」の一節もあり
いつか善人が報われる、真実が明らかになる
魂の救済や
恨が解き放たれるようなサルプリ/살풀이(人間の不幸を除去し幸運を希求する)等
韓国的な価値観、韓国らしい情緒にキリスト教的な世界観も入り混じって
つくづく象徴的と感じ入らせる。

そしてそれは
イェスンにとってだけでなく、
韓国の庶民が
近現代史で遭遇した数々の「オグルハダ/억울하다」や恨に地続きで
連なり繋がったのちに
カタルシス・浄化をもたらすような
正義や天使の来訪の示唆にも広がる共感性、普遍性がある。
やはり韓国人はこんなカタルシス、魂の浄化のある映画が好きなのだなぁと
実感させられた。

억울하다とカタルシス、代理満足のある韓国映画

 

リュ・スンニョン出演、最近のヒット作。
2011年興行第1位『神弓/최종병기 활/Arrow, The Ultimate Weapon』
2012年興行第6位『僕の妻のすべて/내 아내의 모든 것/All About My Wife』
2012年興行第1位(2位)『王になった男/광해,왕이 된 남자』
2013年興行第1位『7番房の奇跡』
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