釜山国際映画祭名誉執行委員長キム・ドンホ氏の日常を見つめた
イランのモフセン・マフマルバフ/Mohsen Makhmalbaf監督によるドキュメンタリー
『微笑み絶やさず/Ongoing Smile/그의 미소』

マフマルバフ監督によると
「キムさんは自分の師の一人で、人生のモデル」
とのこと。
はたして映画の内容は...

釜山国際映画祭を1996年に立ち上げ15年間執行委員長を務めたキム・ドンホ氏。
映画監督に転身したキム氏が初監督作品『JURY』 撮影の際
韓国を訪れていたマフマルバフ監督(『JURY』にも出演)は
映画を監督するキム氏の現場を撮り始めた。
昨年フィルメックスで上映された『庭師』同様
子息のメイサムがカメラを担当、
プロデューザーは『子供の情景』監督の末娘のハナ・マフマルバフ

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ちょうど11月に邂逅した映画や展覧会では冷戦時代など
かつて映画に関する検閲や制限が時と場所を越えて偏在していたという事実を
思い起こさせた。

クリス・マルケルの映画では
「検閲」との鬩ぎ合い。

チェコの映画ポスター展では
共産党政権時代
西側資本主義国映画のスチールをポスターや宣伝にいっさい使用できなかったという制限を知る。
それゆえ独自の絵やデザインでアーティスティックなポスターが発展したチェコ。
アメリカの西部劇も一時期までチェコでは上映できなかったそう。

韓国もブレヒトなど共産圏の演劇は長い間上演できなかった
キム・ドンホ氏が釜山国際映画祭を立ち上げる前、
政府機関で映画の検閲官になった時のエピソードが印象的。
キム・ドンホ氏はあたらしい職場の自分の机に着くと
まず引き出しを開けた。
その中には韓国で上映できない映画のリストが入っていた。
キム・ドンホ氏はリストを見ながら
(どうしてこの映画が上映できないんだ?)と考え
映画タイトルに横線を引いていった。
上映できない映画リストから
たくさんの映画を自由にしていったのだ。
『戦艦ポチョムキン』などもリストにあって、
当時は上映できなかったという。

大胆な、しかしつよい意志と
実務的機械的作業で映画をすくい上げる、解き放つ、自由にする。
それを知ったマフマルバフ監督の驚きや尊敬...
イランでの政治活動で逮捕・投獄された
マフマルバフ監督の心に響くものがあったことだろう。
このドキュメンタリーにも驚きと尊敬、自由の輝かしさが表れていた。

表現者がぶつかる検閲や制限の中で
ある者は闘い
ある者はウィットと知恵で切り抜け乗り越え...
キム氏のように政府側にも
かろやかにしかし信念をもって検閲を外す行動をする人がいた。
映画を自由にした人がいた。
おだやかなキム氏に秘められた映画への情熱と行動力。
マフマルバフ監督同様、
非常に心を動かされた。

キム・ドンホ氏の初監督作品『JURY』 では
映画祭の観客として一家で出演していたマフマルバフ監督。
撮る撮られる関係から
ふたりの友情、信頼関係も浮かび上がる。

映画の冒頭
テレビの画面隅の時刻表示は確か5時頃だった。
漢江の見えるマンションの窓外の風景は暗い。
映画の最後も同じような画が繰り返された。
テレビの前に立ち軽く運動するキム・ドンホ氏。
漢江の見える窓外の風景はおなじく暗い。
テレビに映る時刻表示は4:30となっているようだった。

あれ?
東京より緯度の高いソウルは日暮れが東京より遅いはず、
4時台で暗いということはあり得ない...
キム・ドンホ氏は毎日4時台に目覚め
朝食前に室内で運動をし
野外ではウォーキングやジョギングをする規則正しい生活を送る。
映画の冒頭とラストの同じ光景がつながった。
冒頭も夕方5時ではなく、早朝だったのだ。
早朝に始まり早朝に終わる
キム・ドンホ氏の生活、24時間。
時計がぐるっと回って
また冒頭にもどった円環構造の編集で、それは早朝だったのだと知る。
最後にあらためて
キム・ドンホ氏のエネルギッシュな生活に圧倒された(*^-^*)
マフマルバフ監督も朝4時からの撮影で
7時ころにすでにへとへとだったとか。

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石の人がある、「昔の石」博物館 かしら。

キム・ドンホ氏が海外の映画のスチールを見て回るシーンがあった。
スチールのひとつが
好きなグルジアの映画監督のものだった。
(おおっ!)と思っていたら...
マフマルバフ監督の次回作はグルジアが舞台とか。
昨年フィルメックスで『庭師』を観ていたが
監督自身がフィルメックスに来るのは今回が初めて。
『庭師』は韓国でポスト・プロダクションをしていたり、
キム・ドンホ氏を通じた
キム・ドンホ氏を中心にして広がった、
イラン映画界と韓国映画界の交流の深化も目の当たりに。

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