
《ニュルンベルクのマイスタージンガー》ティンパニの一打の真相を求めて・・・[その2ー2]
《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第三幕第五場の聞きどころのひとつ、民衆の合唱“Wach auf”のティンパニがトレモロ(tr.)有りか無しかのお話しの第二回の補足
第一回[その1]はこちら↓
第二回[その2ー1]はこちら↓
Facebookの第二回のコメント欄に、岡田安樹浩先生がコメントしてくださり、調査不足だった初版の情報などを詳細に教えてくださいました♪
岡田先生が所持されている初版の続版でもティンパニのトレモロは無いとのことです!
初版の校正作業をしたビューロー先生、リヒター先生、トレモロ追加しちゃったんじゃないか疑惑を持って疑ってしまいって申し訳ありませんでしたm(_ _)m
謹んでお詫び申しあげます。
ということなので、自筆譜と初版にはトレモロが無いとなると「いつ・誰の手によってトレモロが加えられたのか」を調査する必要が出てきました。
また岡田先生から《ニュルンベルクのマイスタージンガー》の自筆譜が公開されているという情報も教えていただきました。
こちらのサイト↓で自筆譜が見られます
http://dlib.gnm.de/item/Hs102655/html
岡田先生、貴重な資料による情報などコメントありがとうございました!
岡田先生のお名前はワーグナー関係の本でお見かけしていましたが面識はなかったのですが、今回この一連の投稿をしたことによって岡田先生の目に留まり、(こちらの調査不足の危うい情報だったことあると思いますがσ(^_^;))調べきらなかった情報を教えていただけて、改めて投稿して良かったなと思いました。
この先どこまで調べられるかわかりませんが、引き続き継続調査してまた投稿しますので、どうぞお付き合いくださいませ。
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《ニュルンベルクのマイスタージンガー》
第三幕第五番『目覚めよ(Wach auf!)』
ティンパニトレモロ(tr.)有無の一覧
【トレモロ(tr.)無し】
〈楽譜〉
自筆譜、初版(1868年)、ショット新版(1979年)とそのリプリントのオイレンブルク新版(2000年)
〈音源・映像資料〉
◎ウェールズ・ナショナル・オペラ
・2010年:ローター・ケーニヒ指揮(プロムス)
◎グラインドボーン音楽祭
・2011年:ウラディーミル・ユロフスキー指揮(ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団)
◎シカゴ交響楽団
・1995年:サー・ゲオルグ・ショルティ指揮
◎ゼンパーオーパー(ドレスデン国立歌劇場)
・1970年:ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
・1988年:シルヴィオ・ヴァルヴィーゾ指揮(ライプツィヒ放送合唱団との合唱曲集録音)
・2020年:クリスティアン・ティーレマン指揮
◎ネーデルラント・オペラ
・2013年:マルク・アルブレヒト指揮
(ネーデルラント・フィルハーモニー管弦楽団)
◎バイエルン放送交響楽団
・1967年:ラファエル・クーベリック指揮
◎バイロイト音楽祭
・2017年:フィリップ・ジョルダン指揮
◎ベルリン国立歌劇場
・1955年:フランツ・コンヴィチュニー指揮
・1981年:オトマール・スウィトナー指揮
・1987年:オトマール・スウィトナー指揮(来日公演)
◎ベルリン・ドイツ・オペラ
・1976年:オイゲン・ヨッフム指揮
◎ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
・1956年:ルドルフ・ケンペ指揮
◎ロイヤル・オペラ・ハウス(コヴェント・ガーデン)
・1997年:ベルナルド・ハイティンク指揮
〜〜〜
【トレモロ(tr.)有り】
〈楽譜〉
ショット旧版(1903年)、オイレンブルク旧版、ペータース(1910年)とそのリプリントのドーヴァー(1976年)
〈音源・映像資料〉
◎ウィーン国立歌劇場
・1937年:アルトゥーロ・トスカニーニ指揮(ザルツブルク音楽祭)
・1944年:カール・ベーム指揮
・1950年:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
・1955年:フリッツ・ライナー指揮
・1975年:サー・ゲオルグ・ショルティ指揮
・2005年:クリスティアン・ティーレマン指揮(再建50周年ガラ)
・2008年:クリスティアン・ティーレマン指揮
・2013年:ダニエレ・ガッティ指揮(ザルツブルク音楽祭)
◎サドラーズ・ウェルズ・オペラ
(現イングリッシュ・ナショナル・オペラ)
1968年:サー・レジナルド・グッドオール指揮
◎シカゴ・リリック・オペラ
・1999年:クリスティアン・ティーレマン指揮
◎スウェーデン王立歌劇場
・1956年:シクステン・エールリンク指揮(スウェーデン語歌唱)
◎ゼンパーオーパー(ドレスデン国立歌劇場)
・1938年:カール・ベーム指揮
・1951年:ルドルフ・ケンペ指揮
◎チューリッヒ歌劇場
・2004年:フランツ・ウェルザー=メスト指揮
◎バイエルン国立歌劇場
・1949年:オイゲン・ヨッフム指揮
・1955年:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
・1963年:ヨーゼフ・カイルベルト指揮
・1993年:ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮
◎バイロイト音楽祭
・1943年:ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
・1943年:ヘルマン・アーベントロート指揮
・1951年:ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
・1952年:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
・1956年:アンドレ・クリュイタンス指揮
・1959年:エーリッヒ・ラインスドルフ指揮
・1960年:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
・1968年:カール・ベーム指揮
・1974年:シルヴィオ・ヴァルヴィーゾ指揮
・1984年:ホルスト・シュタイン指揮
・1999年:ダニエル・バレンボイム指揮
・2001年:クリスティアン・ティーレマン指揮
・2008年:セバスティアン・ヴァイグレ指揮
◎ハンブルク国立歌劇場
・1971年:レオポルト ・ルートヴィッヒ指揮
◎ベルリン・ドイツ・オペラ
・1995年:ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス指揮
・2012年:アラン・アルティノグリュ指揮(ガラコンサート?)
◎ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
・1974年:ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮(ザルツブルク復活祭音楽祭)
◎ベルリン放送交響楽団
・2011年:マレク・ヤノフスキ指揮
◎メトロポリタン歌劇場
・1953年:フリッツ・ライナー指揮
・1972年:トーマス・シッパーズ指揮
・1995年:ジェームズ・レヴァイン指揮
・2001年:ジェームズ・レヴァイン指揮
・2014年:ジェームズ・レヴァイン指揮
◎ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
・1988年:クルト・マズア指揮
◎リセウ大劇場(バルセロナ)
・1989年:ウーヴェ・ムント指揮
・2008年:セバスティアン・ヴァイグレ指揮
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《ニュルンベルクのマイスタージンガー》ティンパニの一打の真相を求めて・・・[その2ー1]
《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第三幕第五場“Wach auf”の合唱部分のティンパニがトレモロ(tr.)有りか無しかのお話しの第二回
第一回[その1]はこちら↓
前回、楽譜と音源・映像資料のトレモロの有無を調べて、この先は1868年にショットから出版された初版がどうなっているか、またもし自筆譜があるのならそれがどうなっているのかを調べようというところまで来ました。
そこでまず初版・・・
こちらはなかなか難航していて所在がつかめずの状態。
そこで、自筆譜の調査を進めたところなんと我が母校国立音楽大学の図書館に自筆譜ファクシミリがあることが判明♪
しかし現在コロナ対策のために図書館の卒業生利用は停止されていて、学生と教職員のみ利用できるという状態。
そこでお師匠様こと新田ユリさんにご相談したところ、現在一緒に山崎太郎先生の《ニュルンベルクのマイスタージンガー》講座を受講していることもあり、自筆譜ファクシミリがあるのならせっかくの機会だから見てみたいと仰ってくださり図書館から借りてくださいました。
チーバくんの喉あたりにあるお師匠様の御宅への道中は総武快速線に乗れてちょっとした旅行気分で楽しいのですが、国立音大図書館から届いたワーグナーの自筆譜を拝見しに伺う道中はいつにも増して期待膨らむワクワクの道中でした♪
そして神々しいワーグナー先生の自筆譜とご対面!
このまま演奏できてしまうのではと思うほど綺麗に書き込まれた音符たち♪
書き直したり楽器を変更しているフレーズや書き込んだけど削った音符などが第一幕前奏曲にも幾つかあるなどとても興味深い資料です。
出だしからこんなペースで見ていってしまったら第三幕第五場へはいつたどり着くやらと気を取り直して、さっそく当該箇所へ。
結果は・・・
トレモロ(tr.)無し!
ワーグナー自身は作曲した当初はトレモロではなく単発の一打を想定していたことがわかりました。
上から五段目がティンパニ
それではなぜ出版譜はトレモロ有りになったのか、そして初版はどうなっているのか。
この疑問を解く鍵は、山崎太郎先生からお借りした資料にヒントがありました。
その資料は《マイスタージンガー》のテンポについて書いた投稿の時にも登場した、ショット社(マインツ)の《リヒャルト・ワーグナー:全作品集》の編集者Egon Voss氏が書いたコラム《Was uns die Partituren lehren. Wagners Klangvorstellungen von den Meistersingern von Nürnberg》
このコラムに、ワーグナーは《マイスタージンガー》の初版作成のための作業を、ハンス・フォン・ビューローと(特に)ハンス・リヒターに任せてしまってほとんどチェックしなかったと書いてありました。
ビューローもリヒターも素晴らしい音楽家であり、ワーグナーの音楽にも慣れ親しんでいたのですが、Egon Voss氏によると喜劇である《マイスタージンガー》ためにワーグナーが慎重に配慮したバランス(ダイナミクス)や響きの軽やかさの追求(スタッカート)などが均されてしまい、自筆譜とは異なる形として初版が出てしまったとのことです。
具体的に第三幕第五場のティンパニのトレモロに関する記述はEgon Voss氏のコラムにはありませんが、その後出版されたそれぞれの楽譜はその初版を底本として出版されたと記述されているので、おそらく初版でも当該箇所にトレモロが追加されてしまった可能性はおおいに考えられます。
《マイスタージンガー》で自筆譜を精査して新たな版を作成したのはショット社の新版が初めてとのことなので、《マイスタージンガー》に関してはこのショットの新版(とそのリプリントのオイレンブルク新版)を参照するのがいいと思われます(ショット社の新全集の編集者でもあるEgon Voss氏が書いたコラムだということを考慮しても、この新全集が現在では信頼に足る楽譜ということに間違いはないと思われます)
ということで、
・自筆譜はトレモロ無し
・初版は現物を確認できなかったもののワーグナー本人が初版出版のための校訂作業に関与せず、ビューローとリヒターに任せてしまって自筆譜とは異なるものが初版として出回ってしまった
というのが調査の結果となりました。
この結果を受けて考察すること、新たな疑問点、そしてこの調査の過程で久保さんが発見された新たな謎とその解明については次回[その3]に書きます。
(追記)
追加情報があったので次回は[その2ー2]
こちら↓
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《ニュルンベルクのマイスタージンガー》
第三幕第五番『目覚めよ(Wach auf!)』
ティンパニトレモロ(tr.)有無の一覧
【トレモロ(tr.)無し】
〈楽譜〉
ショット新版(1979年)とそのリプリントのオイレンブルク新版(2000年)
〈音源・映像資料〉
◎ウェールズ・ナショナル・オペラ
・2010年:ローター・ケーニヒ指揮(プロムス)
◎グラインドボーン音楽祭
・2011年:ウラディーミル・ユロフスキー指揮(ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団)
◎シカゴ交響楽団
・1995年:サー・ゲオルグ・ショルティ指揮
◎ゼンパーオーパー(ドレスデン国立歌劇場)
・1970年:ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
・1988年:シルヴィオ・ヴァルヴィーゾ指揮(ライプツィヒ放送合唱団との合唱曲集録音)
・2020年:クリスティアン・ティーレマン指揮
◎ネーデルラント・オペラ
・2013年:マルク・アルブレヒト指揮
(ネーデルラント・フィルハーモニー管弦楽団)
◎バイエルン放送交響楽団
・1967年:ラファエル・クーベリック指揮
◎バイロイト音楽祭
・2017年:フィリップ・ジョルダン指揮
◎ベルリン国立歌劇場
・1955年:フランツ・コンヴィチュニー指揮
・1981年:オトマール・スウィトナー指揮
・1987年:オトマール・スウィトナー指揮(来日公演)
◎ベルリン・ドイツ・オペラ
・1976年:オイゲン・ヨッフム指揮
◎ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
・1956年:ルドルフ・ケンペ指揮
◎ロイヤル・オペラ・ハウス(コヴェント・ガーデン)
・1997年:ベルナルド・ハイティンク指揮
〜〜〜
【トレモロ(tr.)有り】
〈楽譜〉
ショット旧版(1903年)、オイレンブルク旧版、ペータース(1910年)とそのリプリントのドーヴァー(1976年)
〈音源・映像資料〉
◎ウィーン国立歌劇場
・1937年:アルトゥーロ・トスカニーニ指揮(ザルツブルク音楽祭)
・1944年:カール・ベーム指揮
・1950年:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
・1955年:フリッツ・ライナー指揮
・1975年:サー・ゲオルグ・ショルティ指揮
・2005年:クリスティアン・ティーレマン指揮(再建50周年ガラ)
・2008年:クリスティアン・ティーレマン指揮
・2013年:ダニエレ・ガッティ指揮(ザルツブルク音楽祭)
◎サドラーズ・ウェルズ・オペラ
(現イングリッシュ・ナショナル・オペラ)
1968年:サー・レジナルド・グッドオール指揮
◎シカゴ・リリック・オペラ
・1999年:クリスティアン・ティーレマン指揮
◎スウェーデン王立歌劇場
・1956年:シクステン・エールリンク指揮(スウェーデン語歌唱)
◎ゼンパーオーパー(ドレスデン国立歌劇場)
・1938年:カール・ベーム指揮
・1951年:ルドルフ・ケンペ指揮
◎チューリッヒ歌劇場
・2004年:フランツ・ウェルザー=メスト指揮
◎バイエルン国立歌劇場
・1949年:オイゲン・ヨッフム指揮
・1955年:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
・1963年:ヨーゼフ・カイルベルト指揮
・1993年:ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮
◎バイロイト音楽祭
・1943年:ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
・1943年:ヘルマン・アーベントロート指揮
・1951年:ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
・1952年:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
・1956年:アンドレ・クリュイタンス指揮
・1959年:エーリッヒ・ラインスドルフ指揮
・1960年:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
・1968年:カール・ベーム指揮
・1974年:シルヴィオ・ヴァルヴィーゾ指揮
・1984年:ホルスト・シュタイン指揮
・1999年:ダニエル・バレンボイム指揮
・2001年:クリスティアン・ティーレマン指揮
・2008年:セバスティアン・ヴァイグレ指揮
◎ハンブルク国立歌劇場
・1971年:レオポルト ・ルートヴィッヒ指揮
◎ベルリン・ドイツ・オペラ
・1995年:ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス指揮
・2012年:アラン・アルティノグリュ指揮(ガラコンサート?)
◎ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
・1974年:ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮(ザルツブルク復活祭音楽祭)
◎ベルリン放送交響楽団
・2011年:マレク・ヤノフスキ指揮
◎メトロポリタン歌劇場
・1953年:フリッツ・ライナー指揮
・1972年:トーマス・シッパーズ指揮
・1995年:ジェームズ・レヴァイン指揮
・2001年:ジェームズ・レヴァイン指揮
・2014年:ジェームズ・レヴァイン指揮
◎ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
・1988年:クルト・マズア指揮
◎リセウ大劇場(バルセロナ)
・1989年:ウーヴェ・ムント指揮
・2008年:セバスティアン・ヴァイグレ指揮
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《ニュルンベルクのマイスタージンガー》ティンパニの一打の真相を求めて・・・[その1]
昨日のテンポについての投稿に引き続き、またまた《ニュルンベルクのマイスタージンガー》についての投稿です・・・σ(^_^;)笑
この真相を求める旅のきっかけは、今年1月〜2月にかけて、ドレスデンのゼンパーオーパー(ドレスデン国立歌劇場)でティーレマン指揮の《ニュルンベルクのマイスタージンガー》を聴きに行ったことが始まります。
第三幕の聞きどころの一つ、民衆たちの合唱による『目覚めよ!(Wach auf!)』の冒頭部分のティンパニ、アスフタクトとなる“Wach”の伸ばしの後、小節の頭にくる“auf”のフェルマータのところで、ソロ・ティンパニ奏者のケップラーさん(Thomas Käppler)が、見事なfで合唱のフルボイスの発音の瞬間に単発の一撃を加えていました。
この時は《マイスタージンガー》を四回鑑賞したのですが(笑)、毎回その箇所に来るとティンパニに注目して、硬質でとてもクリアなケップラーさんの見事な一撃を堪能していました♪
しかし自分の所持しているドーヴァー(ペータースのリプリント)のスコアはその箇所はtr.(トレモロ)になっていて、単発の一撃ではありませんでした。
またimslpで確認できるショットの旧版(1903年)もtr.(トレモロ)有り。
そしていくつか所持している録音や映像を聴くとtr.有りの演奏ばかり。
なのでその時は「ドレスデンの伝統でそのようにしているのかな」程度にしか考えていませんでした。
その後、今月に入って山崎太郎先生の《ニュルンベルクのマイスタージンガー》講座を受けるにあたり、久しぶりにカラヤン指揮ドレスデン・シュターツカペレの組み合わせによる《マイスタージンガー》のCD(1970年録音)を聞きました。
そうしたらこの録音もやはり『Wach auf!』のところをtr.(トレモロ)有りではなく、単発の一撃(tr.無し)で叩いていました。
この録音はケップラーさんの前任者であるゾンダーマン先生がティンパニを叩いているので、これはやはりこの叩き方はドレスデンの伝統なんだ!と部屋で一人ヘッドホンをしながら小躍りしてしまいました(>_<)笑
この録音のちょっとしたミスがあることをNHK交響楽団首席ティンパニ奏者の久保さんから教えてもらっていたので、その箇所が聞き取れたことも含めてこの『Wach auf!』の一撃のことも久保さんにメッセージしました。
しかし久保さんからのご返信はなんだか話が噛み合わない感じ・・・
何度かやりとりしてるうちに、久保さんが複数所持されているスコアのうち、頻繁に目を通されていたのがショット社が出版している《リヒャルト・ワーグナー:全作品集》(以降「ショット新版」とします)のリプリントでオイレンブルクから出ているスコア(オイレンブルク新版)で、それはtr.無しの単発(付点二分音符)で、久保さんの持っていらっしゃるパート譜もtr.無しの単発になっていました。
また久保さんがよく聞かれていた、カラヤン指揮ドレスデン・シュターツカペレ(1970年)、オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・ドイツ・オペラ(1976年)の録音はtr.無しの単発、また2013年に東京・春・音楽祭で《マイスタージンガー》を演奏した時もtr.無しの単発で叩かれたそうで(指揮はセバスティアン・ヴァイグレ氏)、久保さんはtr.無しが普通だと思われていたことがわかりました。
ドーヴァー(ペータース)のスコアや、バイロイトやウィーンの録音がtr.有りということをお話ししたところとても興味を持ってくださり、お忙しいなか所持されているスコア、録音をチェックしてくださってはどっちだったかと連絡してくださり、しばらく二人で様々な録音・映像を確認するというやりとりが続きました。
そして楽譜もいろいろ調べてみて、
【トレモロ(tr.)無し】
ショット新版(1979年)とそのリプリントのオイレンブルク新版(2000年)
【トレモロ(tr.)有り】
ショット旧版(1903年)、オイレンブルク旧版、ペータース(1910年)とそのリプリントのドーヴァー(1976年)
ということが判明。
確認した録音・映像の分類は下記に一覧にして載せます。
並行して出版の経緯を調べたところ、初版はショットが1868年に出版している。
初版は確認できなかったものの、それ以後出版されたものはtr.有りばかりだったのに、1979年に出版されたショット新版が突然tr.無しで出版された。
ここから先は、初版がtr.有り無しどちらになっているのか、そしてもしワーグナーの自筆譜があるのならそれがどうなっているのか、なぜショット新版が突如tr.無しになったのか、を調べてみようということになりました。
長くなってしまったので、各楽譜を検証する話は[その2](別投稿)で書きますm(_ _)m
[その2ー1]はこちら↓
https://ameblo.jp/condmasa/entry-12627680013.html
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《ニュルンベルクのマイスタージンガー》
第三幕第五番『目覚めよ(Wach auf!)』のティンパニ
【トレモロ(tr.)無し】
◎ウェールズ・ナショナル・オペラ
・2010年:ローター・ケーニヒ指揮(プロムス)
◎グラインドボーン音楽祭
・2011年:ウラディーミル・ユロフスキー指揮(ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団)
◎シカゴ交響楽団
・1995年:サー・ゲオルグ・ショルティ指揮
◎ゼンパーオーパー(ドレスデン国立歌劇場)
・1970年:ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
・1988年:シルヴィオ・ヴァルヴィーゾ指揮(ライプツィヒ放送合唱団との合唱曲集録音)
・2020年:クリスティアン・ティーレマン指揮
◎ネーデルラント・オペラ
・2013年:マルク・アルブレヒト指揮
(ネーデルラント・フィルハーモニー管弦楽団)
◎バイエルン放送交響楽団
・1967年:ラファエル・クーベリック指揮
◎バイロイト音楽祭
・2017年:フィリップ・ジョルダン指揮
◎ベルリン国立歌劇場
・1955年:フランツ・コンヴィチュニー指揮
・1981年:オトマール・スウィトナー指揮
・1987年:オトマール・スウィトナー指揮(来日公演)
◎ベルリン・ドイツ・オペラ
・1976年:オイゲン・ヨッフム指揮
◎ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
・1956年:ルドルフ・ケンペ指揮
◎ロイヤル・オペラ・ハウス(コヴェント・ガーデン)
・1997年:ベルナルド・ハイティンク指揮
【トレモロ(tr.)有り】
◎ウィーン国立歌劇場
・1937年:アルトゥーロ・トスカニーニ指揮(ザルツブルク音楽祭)
・1944年:カール・ベーム指揮
・1950年:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
・1955年:フリッツ・ライナー指揮
・1975年:サー・ゲオルグ・ショルティ指揮
・2005年:クリスティアン・ティーレマン指揮(再建50周年ガラ)
・2008年:クリスティアン・ティーレマン指揮
・2013年:ダニエレ・ガッティ指揮(ザルツブルク音楽祭)
◎サドラーズ・ウェルズ・オペラ
(現イングリッシュ・ナショナル・オペラ)
1968年:サー・レジナルド・グッドオール指揮
◎シカゴ・リリック・オペラ
・1999年:クリスティアン・ティーレマン指揮
◎スウェーデン王立歌劇場
・1956年:シクステン・エールリンク指揮(スウェーデン語歌唱)
◎ゼンパーオーパー(ドレスデン国立歌劇場)
・1938年:カール・ベーム指揮
・1951年:ルドルフ・ケンペ指揮
◎チューリッヒ歌劇場
・2004年:フランツ・ウェルザー=メスト指揮
◎バイエルン国立歌劇場
・1949年:オイゲン・ヨッフム指揮
・1955年:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
・1963年:ヨーゼフ・カイルベルト指揮
・1993年:ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮
◎バイロイト音楽祭
・1943年:ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮
・1943年:ヘルマン・アーベントロート指揮
・1951年:ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
・1952年:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
・1956年:アンドレ・クリュイタンス指揮
・1959年:エーリッヒ・ラインスドルフ指揮
・1960年:ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
・1968年:カール・ベーム指揮
・1974年:シルヴィオ・ヴァルヴィーゾ指揮
・1984年:ホルスト・シュタイン指揮
・1999年:ダニエル・バレンボイム指揮
・2001年:クリスティアン・ティーレマン指揮
・2008年:セバスティアン・ヴァイグレ指揮
◎ハンブルク国立歌劇場
・1971年:レオポルト ・ルートヴィッヒ指揮
◎ベルリン・ドイツ・オペラ
・1995年:ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス指揮
・2012年:アラン・アルティノグリュ指揮(ガラコンサート?)
◎ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
・1974年:ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮(ザルツブルク復活祭音楽祭)
◎ベルリン放送交響楽団
・2011年:マレク・ヤノフスキ指揮
◎メトロポリタン歌劇場
・1953年:フリッツ・ライナー指揮
・1972年:トーマス・シッパーズ指揮
・1995年:ジェームズ・レヴァイン指揮
・2001年:ジェームズ・レヴァイン指揮
・2014年:ジェームズ・レヴァイン指揮
◎ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
・1988年:クルト・マズア指揮
◎リセウ大劇場(バルセロナ)
・1989年:ウーヴェ・ムント指揮
・2008年:セバスティアン・ヴァイグレ指揮
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久保さんが所持されているオイレンブルク新版
一番下の段の3小節目が該当部分
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トレモロ有り、無しのYouTubeのリンク先をひとつづつ載せておきます。
ご興味ありましたらそちらも聴いてみてください♪
【トレモロ(tr.)有り】
メトロポリタン歌劇場
ジェールズ・レヴァイン指揮(2001年)
https://youtu.be/t_bMNYBD0I4
【トレモロ(tr.)無し】
ベルリン国立歌劇場
オトマール・スウィトナー指揮
(1981年)
https://youtu.be/xplsXD5kdT8
『ニュルンベルクのマイスタージンガー』、作曲家自身のイメージするテンポはかなり速かった!?
先日Facebookに1929年のレオ・ブレヒ指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団の演奏による『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第一幕前奏曲の映像を紹介した。
演奏時間は約8分10秒(映像の演奏時間は7分20秒。半音近く高くなっているのでそれを補正すると+約26秒。そして後半のダビデ王の動機の前半8小節が欠落しているのでその分として+約20秒で、計約8分6秒)
今の感覚でいくと、ものすごく速く感じますしちょっと滑稽な感じすらしますが、山崎太郎先生からお借りした資料を読んでビックリ!
お借りした資料は、ショット社(マインツ)の《リヒャルト・ワーグナー:全作品集》の編集者Egon Voss氏が書いたコラム《Was uns die Partituren lehren. Wagners Klangvorstellungen von den Meistersingern von Nürnberg》で、そのなかにワーグナー自身が指揮した第一幕前奏曲の演奏時間をリヒャルト・ポール(Richard Pohl:ドイツの音楽文筆家、1826〜1896)が記録していたという記述があり、そのタイムはなんと8分数秒!
先日紹介したレオ・ブレヒ指揮の演奏時間とほぼ一緒!
そしてポールは1868年6月21日にミュンヘン宮廷歌劇場でハンス・フォン・ビューローの指揮により初演された時の演奏時間も記録していて、その時のタイムは第一幕:1時間17分、第二幕:55分、第三幕:1時間51分の計4時間3分。
この時の上演では、第三幕第四場から第五場への場面転換で時間調整が必要だったようで、この場面では舞台転換に合わせてテンポを落として演奏したようなので、音楽だけでのプランではもう少し短くなったのかもしれません。
この初演の稽古にはワーグナー本人も立ち会って監督していたので、ワーグナーの意図が反映された演奏になっていたと思われるので、いま親しんでいる演奏よりワーグナーの想定していた演奏はテンポが速く軽快なものだったようです。
もちろん作曲家自身の考えだけが作品に対する正解などというつもりはなく、素晴らしい作品になればなるほど作曲家の手を離れた後は様々な可能性があると思います。
そしてEgon Voss氏がコラムのなかで書いていますが、ホールの音響条件や、舞台上のパフォーマンスの状況などによりテンポは左右されるので、上記の数字だけが(オペラ上演では特に)絶対値となるわけではありません。
しかしワーグナー(作曲家)自身がどのように考えていたのか、というのは一つの重要な参考・判断材料となるように思います。
しかし今の世の中、このレオ・ブレヒの演奏のように8分そこそこでこの曲を指揮するのはなかなか勇気がいりそうですね〜σ(^_^;)笑
レオ・ブレヒ指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団の演奏による『ニュルンベルクのマイスタージンガー』第一幕への前奏曲↓
先日Facebookに投稿した記事↓
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