アリアに隠されたメッセージ
バジリオのアリアの最後には掛け言葉が使われています。
「恥」という言葉なのですが、「che onte」というイタリア語です。
ただし、楽譜には「ch’onte」と「che」の「e」が省略されています。
これは、「conte」と発音が同じになるのですが、
「conte」とは「伯爵」です。
つまり、「伯爵の被害」からロバの皮を被ることで
逃れて生きてきた、という締め括りと
解釈することも出来るアリアなのです。
さて、本来脇役であるはずの音楽教師ドン・バジリオについて
長々と解説してきたのには明確な意図があります。
そこに時代背景が、世代間の意識の違いが、
よく表れているからです。
フィガロのようには正面切って貴族と闘うことも出来なかった
音楽家バジリオこそ、
フランス革命の最も暗い背景を象徴しているのかもしれません。
もう1人のテノール歌手
このオペラにはバジリオの他に、もう1人テノール歌手がいます。
それは、裁判官のドン・クルツィオです。
初演に際してはマイケル・オーケリーというイギリス人が
バジリオ、クルツィオの2役を演じました。
同時に出なければならない場面はないので、それが可能でした。
さて、この役の原作における名前は、
ドン・ギュスマン・ブリドワゾンといいます。
ブリドワゾンとは、「首を繋がれたガチョウ」という意味で、
俗語で「バカ」を意味します。
そしてギュスマンというのは、
原作者ボーマルシェが訴訟に臨んだ折、
ボーマルシェから賄賂をとるだけとって、
何もしてくれないどころか、危害まで加えようとしてきた
裁判官のグースマンという人物の名前のもじりです。
つまり、ドン・ギュスマン・ブリドワゾンとは、
「グースマン判事のバカ」という意味の揶揄です。
ちなみに、グースマン判事はその後、
ボーマルシェとの闘争で失脚し、
一般市民として暮らしていましたが、
フランス革命において国家反逆罪で捕えられ、
かのアンドレア・シェニエと同じ護送車に乗せられて
ギロチンで処刑されています。
容貌は醜く、顔面神経痛持ちだったそうです。
さて、次回はいよいよ、
登場人物がどのような結末を迎えることになるのか、
ご紹介したいと思います。
実に様々なことが起きるこのオペラですが、
その結果彼らの未来がどうなるのか、
考察してみたいと思います。
キーワードは、「誰も思い通りにならない」です。
