関西の音楽活動グループConceptusです。
8月の2回に渡る「フィガロ」を目の前に、
その作品解説を掲載致します。
間男の末路
このオペラの中でさえ、伯爵夫人ロジーナとただならぬ空気を漂わせ、
いつ決定的瞬間にたどり着くのかと思わせるケルビーノですが、
その後どうなるのでしょうか?
「フィガロの結婚」からしばらく、長男が伯爵家に誕生します。
それから1年後、戦争が起こって伯爵は赴任。
伯爵不在の間、ロジーナが住まいと定めたのが、
伯爵がケルビーノの親から買い上げた、
アストルガ(スペイン北部レオン県)の城。
そう、ケルビーノゆかりの土地です。
そこに現れたのが、恋情を募らせたケルビーノ。
とうとう夫人とケルビーノは結ばれてしまいます。
その一度の逢瀬で夫人は新しい命をその身に宿し、
その後男の子を生み落とします。
その知らせを、戦線に行ったケルビーノに手紙で送り、
もう私の前に現れてはならない、との命令を記します。
それに対し、ケルビーノは夫人の想い出の品をすべて、
一通の手紙と共に、ベジャースという男に託して夫人に返します。
その手紙に書かれていたのは、自ら望んで突撃に出ること。
そして、せめてもの思い出に、生まれた男の子に、
自分の名前と同じ「レオン」と名付けてほしい、ということ。
その後、戦場で瀕死の重傷を負い、その血で最期の別れを書くも、
涙でにじんだまま、手紙は完結することなく、夫人に届けられました。
「罪ある母」では、この二通の往復書簡が、
伯爵によって読み上げられますが、伯爵はこの二人の文面から、
忘恩の徒や裏切り者を読み取ることが出来ず、
どう読んでも哀れな者たちのあやまちでしかないと思い知り、
胸が張り裂けそうだ、とつぶやきます。
私もこの手紙のシーンは、
何度読んでも涙が溢れることを禁じることが出来ません。
冷静な気持ちでは到底読めないのです。
この時生まれた男の子、レオンが伯爵家の次男として育てられ、
二十歳になろうとする時、
それが「罪ある母」の年代設定なのですが、
上に書いた通り、1790年パリ、と明記されています。
ということは、上記の経緯を最短で逆算すると、
「フィガロの結婚」は最短でも1767年という計算結果になります。
もっとも、実際の歴史を紐解いてみても、
1769年あたりにケルビーノが死ぬべき戦争
というのは見当たりませんから、
あくまでもフィクションにすぎないのですが、
およそイメージすべき年代は1760年代ということなのです。
さて、この作品にはどうでも良い役、というのがありません。
原作者ボーマルシェ自身の要素や、
周囲の人たちの要素が投入されていて、
この作品のメッセージを補強します。
オペラ化に際していくらか一般化されているとはいえ、
メッセージ性の強いアリアを持つ登場人物もいます。
その典型例が、女中頭マルチェリーナと
音楽教師ドン・バジリオです。
これら二人が最初に登場した時、
小間使いスザンナの敵役として登場します。
パワハラやモラハラ、セクハラをする人たちとして登場するのです。
マルチェリーナはフィガロと結婚したがっていて、
フィガロに対して、貸した金を返すか、
あるいは自分と結婚する、という証文をとっています。
つまり、スザンナのライバルにあたるのです。
そしてドン・バジリオは、伯爵の手先として、
スザンナに対し、初夜権の行使を受諾するよう説得をしています。
そしてそのついでに、この館の中で伯爵と利害対立しそうな相手、
例えばケルビーノに対しては、
もはやイジメを通り越した酷い扱いをします。
すべては最高権力者の利益のために、
という動き方をしているのです。
特にこのドン・バジリオは、
観客に対して徹底的に嫌な印象を与える言動ばかりだと思います。
このような二人が、4幕において非常に重要なアリアを歌います。
それらのアリアが、このオペラの思想的根幹となるのです。
今回はここまでにしておいて、次回はアリアの発するメッセージ、
そして原作に基づくぼんち演出版での二人の扱いについて、
詳述したいと思います。
