テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ

国立新美術館

2023年7月15日(土)


 

 「光」がテーマの展覧会なら光に満ちあふれた作品を観ることができるだろう、そういう期待を裏切らない展覧会です。テート美術館の収蔵品、つまりイギリス美術中心で、西洋美術全体をカバーするものではないのですが、問題なく誰でも楽しめます。


08 ジョージ・リッチモンド 光の創造


最初に展示されていました。西洋美術といえばキリスト教。これは旧約聖書の創世記。神は最初に天と地を作り、そして光を作りました。始まりの光の場面。小品ですので、さっと通り過ぎかけましたが、踏みとどまってよく見るとテンペラ特有の緻密な描き込みで、見れば見るほど見入ってしまう。空や海、太陽、草木が描かれていますから、1日目ではありません。この展覧会の始まりにぴったりの一枚です。神の身体にまとわりつく衣服も妙にぴったりしてます。



17  ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー

湖に沈む夕日 


イギリスといえば、ターナー 。光といえばターナーということで最初の展示室は、ターナー多めです。光を求めた結果、もう景色はどこかに溶けてしまいました。左の白い点がかろうじて沈む夕陽の印象を留めています。



19  ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー

光と色彩(ゲーテの理論)-大洪水の翌朝-創世記を書くモーゼ


こちらはモーセが創世記を執筆しているイメージ画です。大洪水の翌朝、すべてを流し去った清々しい(?)朝を陽の光が包み込んでいます。画面右下の人々のおどろおどろしい姿に大惨事の跡を見ます。ターナーの色彩は暖色が中心で光を強調するための闇を描きません。こんな内容でも悲惨さが感じられるないのはそのためです。神の御業は人の生き死にを超越し輝かしいものであるということでしょうか。

旧約聖書をテーマにしつつ、タイトルはゲーテの「色彩論」を引用しています。



01 ジョゼフ・ライト・オブ・ダービー 

噴火するヴェスヴィオ山とナポリ湾の島々を臨む眺め

 

ダービーは火山好きのアーティスト。映画のポスターのようなスペクタル感のある絵をこの時代に描いているのは凄い。実物はもっと赤くて劇的です。西暦79年、あのポンペイ市を一瞬で埋没させた大噴火です。当然ダービーはこの出来事を見ていません。実は実際の噴火も見たことがないそうで、資料と想像でここまで再現しています。


 

27  ジョン・エヴァレット・ミレイ   雨に濡れたハリエニシダ


ラファエロ前派は、光を追求するユニットではありませんが、自然を緻密に描く卓越した技量をもつミレイなら光も捉えるでしょう。草木を描くのが変態的に上手い画家。雨に濡れた森を描くのに挑戦しようと思い制作した作品。ただの綺麗な風景画とも一線を画す。森に何か宿っているような気配が表現されています。

 

 

11 エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ  愛と巡礼者

 

色彩はグレーが基調で地味め、あまり光は関係ないように見えますが、いい絵だと思うので取り上げます。キューピッドが迷える巡礼者を薔薇の中から救う場面。何の場面かはわかりませんが、物語を感じます。キューピッドの頭上を飛び交う鳥たちは自由の象徴。大量に描いているので、不自由からの解放を象徴していることになります。愛をつかさどる天使が人助け、矢を杖代わりに使い手を握って歩いて巡礼者を導くとても人間くさい作品です。

 


22  ジョン・ブレット

ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡


イギリス海峡はほんとうにこんな青く明るく透明なんでしょうか。とても綺麗な風景画です。ブレットは航海の経験の豊富な画家で、この絵を描くにあたり、詳細な記録を集めて制作に臨んだそうです。結構大きなサイズでしかもかなりのワイド画面。海の広さが充分に伝わります。画面中央少し右にある黒い小さなぽっちは船です。ですからこの絵はかなりの広角で描いています。


 

64 マーク・ロスコ  黒の上の薄い赤

撮影NGです。光があれば闇がある。今回の展覧会で最も闇を感じさせる作品です。現代美術の抽象表現画家として有名なマーク・ロスコは光というより色彩の探求者。真っ黒のカンヴァスに薄暗い赤い四角がボヤっと描いてあるだけですが、何か精神性、哲学性を感じます。そしてこの企画の流れで見ると深く吸い込まれそうな黒い闇が奥に広がって見えてきます。



70 ゲルハルト・リヒター  

アブストラクト・ペインテイング(726)

 

これはリヒターらしい作品です。何某かの風景を描き、スキージという技法でこすっています。朧げに浮かぶが焦点を結ぶことのないイメージに知覚が不安定なものとなり、違和感と関心がせめぎ合うえもいわれぬ感覚を呼び起こされます。中央の白い部分は光なのか、垂らしただけの絵の具なのか。明確な答えは導けませんが、心のどこかに光のイメージがチラつきます。


82 オラファー・エリアソン  黄色VS紫

 

どうでもいいことかもしれませんが、日本語の題名は「黄色VS紫色」ではないんですね。「色」のあるなしに定義があるのかもしれません。

これは透明な円い板が2枚、宙づりにされて回転していて、そこにライトが当てられています。ライトが当たると黄色に変わり、2枚重なると紫色に見える。この作品は東京都現代美術館のオラファー・エリアソン展で見たことがあるのですが、今回の方が黄色と紫色が綺麗に発色していました。

 

92  オラファー・エリアソン  星くずの素粒子

 

まさに光のアート。透過と反射、色彩は用いていないのに、これだけ緻密で、ニュアンスに富んだイメージを生み出れるのですから、メディアアートにはまだまだ可能性を感じます。オラファー・エリアソンの作品はどういう意味があるんですか?と気になる人もいるかもしれませんが、こういう作品は、わあ、綺麗!とか言って写真撮ってればいいと思います。

 

さて、まだまだ面白い作品はありましたが、キリがないのでこの辺で。この夏、オススメの展覧会です。

 


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