マティス展
東京都美術館
2023年4月29日(土)
マティスがいろいろな手法を試して新しいスタイルを生み出し時代を牽引した巨匠だったことがよくわかる展覧会でした。
マティスは初期の頃から多くの画家の手法を学び試しています。
10 豪奢、静寂、悦楽
ポール・シニャックと交流があった頃、新印象主義の手法で描いた作品です。当時、色彩とデッサンを如何に調和させるか腐心していたそうですがここでは納得のいく成果は得られなかったと言っています。しかし筆触分割の手法は後のフォービズムの画風に直接的に結びついているのが見てとれます。
12 豪奢I
海辺の女性の裸婦像。色彩はおとなしいですがマティスの癖がよく現れた作品です。サイズ感がリアルでなく、シンプルな線と平面的な塗りで描いた3人の女性は、抽象にも見えるし装飾的にも見える。描きこんでいない部分もあり未完成のようにも見える。マティスは自身でも解を見出さないまま、完成にしていると思う。
22 金魚鉢のある室内
窓のある室内画を描いています。部屋の中に外の景色を取り込むことのできる面白い構図です。この要素の組み合わせ方は後の室内画に結実します。ここでは、まだ写実性を残していて面白味が薄いですが、これは中央の金魚鉢が効いていてまとまりを感じます。
23 コリウールのフランス窓
窓から見た外の景色が四角く真っ黒に塗りつぶされている。第一次世界大戦の影は作品にも影響を与えています。元々は景色を描いていたそうです。パッと見にはミニマルな抽象画に見えるほど、要素を単純化しています。ここまで試しながらマティスは抽象には進まない。目で見た対象と格闘するのがマティスのスタイルです。
35 背中I 1909年
36 背中II 1913年
37 背中Ⅲ 1916-17年
38 背中Ⅳ 1930年
長い髪の女性の後ろ姿をモチーフにした彫刻で大作です。高さ190cmあります。長い年月をかけて完結した連作で、具象から抽象へ進んでいく過程がよくわかります。背中Ⅳでは女性の体もほぼ円柱です。単純化の方向でも、ここまでくるのに20年以上かかっています。作品として発表するより試行錯誤のためのものだったようです。
マティスは彫刻作品も多く、このコーナーでは頭部の連作も展示されていました。具象から抽象へ変化していく作品で形態をどう扱うかの研究に立体を活用しているのに、絵画の完成作は徹底的に平面なところが興味深いです。
50 赤いキュロットのオダリスク
異国の衣装や布を用いてオリエンタルな雰囲気の女性像を描いています。いわゆるオダリスク、アートの世界のコスプレ絵画です。この作品に限っては女性の上半身の描き方がだけが肉感的で生々しく違和感があります。赤いキュロットなどより胸に関心が持っていかれたというのが本音ではないでしょうか。
55 夢
マティスは女性にポーズをつけないそうです。女性が最も美しいのは、一番自然な姿勢をとった時だから。確かに表情に安らぎを感じます。マティスはさんざんデッサンをしながら、モデルと全然違う形にしてしまうことも少なくないのですが、これは、いいところに落ち着いたのではないでしょうか。
58 座るバラ色の裸婦
こちらはやり過ぎた感がありますね。マティスにとって失敗という概念はないのかもしれませんが、「夢」とこれ、どららを買う?と訊かれれば誰もが「夢」と答えると思います。
80 黄色と青の室内
これはひとつの到達点です。色彩とデッサンの融合を果たした作品だと思います。私はマティスは室内画が好きです。色数も極限まで減らし鮮やかでコントラストが強い。純粋な色彩とデッサンの融合を成し得ていると思います。
81 赤の大きな室内
今回の展覧会では、最も大きな作品でこれが目玉と言って良いでしょう。壁にかかっているのは自身の作品のように見えますが、鏡か奥の部屋の風景かもしれません。花瓶や果物と合わせて空間性も感じられます。
89-108 ジャズ
マティスの天才性が発揮された作品だと思います。人の姿の切り絵のフォルムには躍動感とボリューム感があり、長い間続けてきたデッサンの成果が現れています。ただ装飾的で軽いので、じっと眺めるような作品ではないと思います。ミュージアムグッズにするのにとても良いシリーズです。
ヴァンス・ロザリオ礼拝堂
教会に作品を残したいというのは西洋人の芸術家の性なのでしょう。南フランスのニース郊外のヴァンスのロザリオ礼拝堂をマティスは全生涯の仕事の総決算と位置付けています。白い壁に青と黄のステンドグラス。行って見たい気もしますが実物はそれほどでもないかもと少し疑ってます。
大作はあまりなかった気もしますが、久しぶりにマティスを堪能しました。生涯前衛的な創作を続けながらも、明るい色彩など親しみやすいところもあり、巨匠の名に相応しい画家だと思いました。
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