江戸絵画の華〈第2部〉京都画壇と江戸琳派
出光美術館
2023年2月25日(日)
エツコ&ジョー・プライスコレクションの第2弾は円山応挙が中心の展覧会ではなく、京都画壇VS江戸琳派という構成でした。今回の出展作品では江戸琳派の勝ち!という感じもしましたが、その辺は実際見て確かめていただければと思います。
1 懸崖飛泉図屏風 円山応挙
四曲・八曲一双の変則的な組み合わせの屏風です。おそらくは注文主の住宅事情、長方形の部屋の短辺と長辺に合うよう幅を変えたと思われます。それを再現するよう会場でもわざわざL字型に配置していました。短辺となる四曲の屏風は、遠くの山に流れ落ちる滝、長辺となる八曲の屏風は遠くの山、二頭の鹿、岩から生える夫婦松、と次第に距離が近づいて来ます。描いた対象の間は余白が大きくとられ、空想で間を補って見る屏風です。見る位置が大切で、良い位置、良い高さで見ると自然の風景を実際に観ているような体験ができる江戸時代のVR作品です。
3 夏冬白鷺図屏風 山口素絢
銀地の背景に夏と冬を描いた六曲一双の屏風です。
左隻が冬、雪のつもる木の幹につかまる幾羽もの白鷺。木の幹が右肩上がり。
右隻が夏、水辺から飛び立つ白鷺。飛び立つ白鷺の並びが左肩上がり。
一双で並べた時、中央に視線が誘導される構図。
銀地はいい状態だと思いますが、完成当時の完璧なイメージを見てみたい作品です。
6 虎図 円山応挙
京都画壇の虎図を並べたコーナーがありました。中でも円山応挙のものがひとつ抜きん出ています。展覧会のポスターにも採用されていますから異論を挟む余地はないでしょう。応挙の一門は写生を重視していますが虎は日本にはいないので、過去の作品に学ぶか猫を参考に想像(創造?)して描くしかなくリアリティは低い。そんな中でこの虎図は、細かい毛並みがふわっとしているばかりでなく流れまで一本一本丁寧に描いています。そして何より目が印象的。細い縦長の画面でも、とても存在感があります。
14 撫子に蜻蛉図 亀岡規礼
日本画において写生が重視されても、残念ながら動物の写生画は表面は写実的でも骨格のような解剖学的な精度がイマイチなものが多いというのが私の印象です。対して植物の写生は精度が高いです。これは撫子が細部までが見事なだけでなく、二匹の蜻蛉も合わせて写実的な作品です。
16 唐美人図 岸駒
二人の女性の立ち姿、題名の通り、唐の女性ですので衣装も唐の装束です。人物画としては平凡な感じもしますが、衣裳の描き込みが繊細です。宮様への納める絵画だから妥協は許さないのでしょう。小さいのに見れば見るほどその執拗な描写に視線が引っ張られる単眼鏡が必要な作品です。
19 扇面流し図屏風 鈴木守一
これぞ琳派という屏風。尾形光琳の「紅白梅図屏風」を彷彿とさせる金地と、画面全体を大きくUの字型に流れる川の鮮やかな群青に施された流水の模様。散りばめられた扇面には四季を表す植物や物語の場面が描かれています。こうして見るととても現代的な感じがします。
20 粟穂に流水鶉図 池田孤邨
鶉(うずら)は胴体の羽毛が細かい模様になっていて描くのが大変そうですが、それが何羽もいてどれも精緻に描きこまれおりいい仕事です。つぶつぶの粟の穂や岩もキッチリ描かれています。対して流水はパターン化されており、教科書通りという感じもしますが、高い完成度の作品です。
23 秋草図 鈴木守一
描表具(かきひょうぐ)です。
日本画は絵が描かれている本紙を表装して掛け軸などにします。掛け軸の場合、外国から輸入された織物、裂地(きれじ)に貼られることが多いのですが、この裂地の部分も本紙と同じ布などにして掛け軸全体に絵を描いたものを描表具といいます。目的は様々ですが、江戸琳派では本紙の四角い枠から草花が飛び出して見えるような趣向の作品が多いそうです。この作品では、秋草に一羽の蝶が舞う本紙から、手前に草の葉が飛び出しているように見えます。る。でもこの作りだと、裂地が取り替えられないので、メンテが大変ですね。
25 四季草花図・三十六歌仙図色紙貼交屏風 酒井抱一
とても状態の良い屏風です。背景は四季の植物が右から左へ季節の順に桜、青い朝顔、薄、紅葉と華やかに配置され、その上に歌人と短歌のセット絵が36点配置されています。絵画というより図案という気もします。その辺が日本画において琳派の評価がイマイチだったところです。他にもあるのですが、特に江戸琳派の作品には私のアート脳が発動しないものがあります。これがギリOKなところかな。
29 十二か月花鳥図 酒井抱一
12点で1セットの掛軸です。酒井抱一には同じ画題の作品がいくつか存在し、宮内庁三の丸尚蔵館にも所蔵されています。この花鳥図は少しパターン化され過ぎている感じもします。総じてプライスコレクションの江戸琳派は、分かりやすい構成が多い。逆に現代の日本人に受け入れやすいとも言えます。
32 青桐・合歓図 鈴木其一
カーテンの布のような表現の雨が青桐と合歓木をぼかして見せています。あまり見ない表現で面白い。
38 蘆に蛇図 鈴木其一
墨一色、シンプルな筆使いと濃淡で描かれた良品です。くねる蛇、サッという筆遣いで描かれた蘆の葉、生命感があります。
やはりプライスコレクションは、とても見やすいです。出光美術館というと渋い作品が多いイメージなのですが、つかみどころのある作品があれば見ていて集中力が切れにくくもなるでしょうし、そもそも、美術館に足も向くというものです。今後の展覧会が楽しみです。
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