レオポルド美術館 エゴン・シーレ展
ウィーンが生んだ若き天才
東京都美術館
2023年2月1日(水)
予想していたほど重くなく、軽いわかりやすい展覧会でした。
前半はウィーン世紀末展という感じで、エゴン・シーレの作品も少なめ。1890年に生まれ、20歳頃から頭角を現した紛れもない天才ですが、1918年にスペイン風邪をこじらせて28歳で没。実質的な活躍期間は10年程度なので、こうなるのもやむを得ないでしょう。
私のエゴン・シーレの印象は人物画で、特に裸体画。人間の本性、特にエロティシズム、卑猥さ、生々しさ、魂を晒すような赤裸々な表現をし、必ずしも綺麗なものではない。見ていて胸が苦しくなるような、それでも目を背けられない引力を持っている。そういう芸術家です。
9 グスタフ・クリムト ハナー地方出身者少女の頭部習作
11 グスタフ・クリムト 赤い背景の前のケープの帽子のかぶった婦人
クリムトの人物像は肌の色がなんとも言えない鮮やかな艶かしさがあります。2点とも顔が浮かび上がっているような感じです。大型の作品になると素肌以外の部分は平面的な装飾と金に埋め尽くされます。
エゴン・シーレが生まれた時、既にクリムトは巨匠でした。後に弟子入りし、その才能を認められ大きな便宜も受けますが、影響を受けつつも独自の世界を切り開いていきます。
12 カール・モル テレーズ・クロネスの家
13 カール・モル 自転車に乗る人のいる郊外の風景
14 カール・モル ハイリゲンシュタットの聖ミヒャエル教会
日本の浮世絵に触発されて制作した木版画です。画面は正方形。ダークグリーン、ダークブラウンなどの渋い色彩で街の景色。風景画でありながら浮世絵の猿真似でないところに好感が持てます。構図はリアルなパースペクティブで人の仕草を見てもおそらく写真か撮影した景色を風景に落とし込んでいると思います。
16 ヨーゼフ・マリア・オルプリヒ 「第2回ウィーン分離派展」ポスター
ウィーン分離派の展覧会ではよくウィーン分離派展のポスターが展示されます。縦長な画面に平面的な装飾デザインが多いです。このポスターは分離派会館(セセッシオン)を設計した建築家ヨーゼフ・マリア・オルプリヒのデザインだからか分離派会館の外観を正面から捉えています。ドームは金、外壁は白、シンプルな配色の建物が少ない色数のポスターにうまくはまっています。
20 アルフレート・ロラー 「第16回ウィーン分離派展」ポスター
セセッシオン(Secession)のSの2文字が髭のように下に長く伸びているのが特徴的なタイポグラフィ。会期や会場の文字も凝りすぎて読みにくいくらいです。何となく日本手拭いのようにも見えるデザインですが、まさか影響は受けていないでしょう。
30 グスタフ・クリムト シェーンブルン庭園風景
クリムトの作品としては珍しい風景画。画面は正方形。手前下半分は庭園の池ですが、木々の緑が反射してほぼ緑、少し青空も映っています。奥には、池の周りを散策する人々の姿。樹木の緑と空の青に埋め尽くされた気持ちの良い作品です。
38 コロマン・モーザー 洞窟のヴィーナス
絵画の他にマルチに活躍した人で、始めの展示室にはデザインした切手の原画も展示していました。晩年は色彩の研究に没頭したそうです。このヴィーナスも研究の成果が発揮され、補色的な色使いで、展示室の中で一際光り輝いて見えました。
51 エゴン・シーレ ほおずきの実のある自画像
赤いほおずき
小さい作品ですが、緊張感と力強さがあります。荒々しく見える筆致も目を凝らすと黒い服の模様など精緻な線の積み重ねで、勢いで描いただけのものではないでしょう。痩せこけてゴツゴツした岩のようにも見える顔に大きな目玉。何かを見透かすような視線。この目を待っているから、こんな絵が描けるのでしょう。
54 エゴン・シーレ 闘士
剣士の石膏像を元に描いたと言われています。痩せてはいるが筋肉質でくの字した独特なポージング。シンプルですがエゴン・シーレらしい作品です。
61 エゴン・シーレ 悲しみの女
モデルであり恋人のヴァリを描いた作品です。顔は白く髪は黒いのですがヴァリは髪が赤かったそうで、単なる肖像画ではありません。背後で顔をチラ見せしているピエロのような男はエゴン・シーレ。ありのままの姿で描かないあたりが二人の関係の複雑さを暗示しているようです。
68 エゴン・シーレ 吹き荒れる風の中の秋の木(冬の木)
シーレの風景画も展示していました。ここだけは撮影OK。パッと見た感じは白壁に入ったヒビ。実は下に地面と遠景の山々。ヒビにも見えた線は曲がりくねった一本の木とその枝振り。人物像と同じ方向性の風景画というより一種の自画像ではないでしょうか。
84 オスカー・ココシュカ ピエタ(「クンストシャウ、サマーシアター」の演目、「殺人者、女たちの希望」のポスター)
オスカー・ココシュカは日本では馴染みが薄いように思いますが「野生の王」と呼ばれていたそうです。(知りませんでした。)これは自身の戯曲のポスターです。恐ろしい顔をしたマリアが赤い血まみれのイエス抱き抱える、ピエタの表現主義バージョンです。
103 エゴン・シーレ 頭を下げてひざまづく女
この展示室の裸体の女性像は、私にとっては典型的なエゴン・シーレ作品。エロスと共に背徳の気配を感じます。10代の頃に師匠のクリムトの奔放な生活を目の当たりにしていれば、女性関係も色々あるでしょう。「生身の女」を描いている、生の人間を描くのがシーレです。
106 エゴン・シーレ 縞模様のドレスを着て座るエーディト・シーレ
107 エゴン・シーレ 横たわる女
108 エゴン・シーレ 横たわる長髪の裸婦
片手をついて身体を起こす長髪の裸婦
109 エゴン・シーレ リボンをつけた横たわる少女
壁際に4点並んでいました。とても良かったです。並びが絶妙だったと思います。
106は、シーレの絵と思えないくらいのしおらしい女性像。「悲しみの女」のひねくり回した表現とは真逆。妻のエーディトを品良く描いています。こういう絵も描けるんすね。
107も健康的で肉感的なグラビアアイドルのような裸婦。(グラビアアイドルはここまて脱がないか。)これも前の展示室の裸体画とは違う方向性。シーツのシワが花びらや萼にも見える明るい作品です。
残りはデッサンの魅力にあふれる2点。108は早い線で表現された流れる長い髪、柔らかい乳房。一夜を共にした朝のような臨場感があります。109はベッドかソファに身体を捻って横たわるドレスを着た少女。衣服だけを少なく線で描いているのに、その中の人体の構造を的確に捉えているところに技術の高さを感じます。
美術館という場所はホワイトキューブと呼ばれるくらい無機的で洗練された空間です。シーレのいかがわしさがとても薄められていることが、いいことなのかとは思います。
もちろんシーレの魅力がよく伝わるいい展覧会でした。基本的にはオススメです。
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