多層世界とリアリティのよりどころ

NTTインターコミュニケーション・センター

2023年1月15日(日)



新宿の初台にあるNTTインターコミュニケーションセンターでは、多層世界をテーマにした企画展を継続的に行なっています。今回はエンタメ度が高く、親しみやすい展示が多めでした。


サクッと紹介します。

 


藤原麻里菜 オンラインミーティング用パーテーション

藤原麻里菜は役に立たなそうな面白グッズ発明家です。Twitter をフォローしていると頻繁に新作が次々と投稿されるので楽しみしているのですが、実物を見るのは今回が初めてです。



こちらはリモート会議お役立ちガジェット。

 


寝巻きを着ていてもこれがあれば、ビジネスファッションに早変わり。この他に2点、お役立ちガジェットを展示してます。

 

 

佐藤瞭太郎 Intercharge 

 

「アセット」を用いて制作した映像作品。「アセット」とはインターネット上で配布されている3Dの素材データで、ゲームや映像制作のために無料で自由に使用することができます。ゲーム上でプレイヤーや敵などにメインに使用されることのないモブキャラ、一兵士を主役にしています。 

 ただし、ストーリーは兵士がひたすら自由に動かされ続けるだけ。爆走したり、グヂャグチャに動かされたり。最後にアセットの兵士が自らの手を見つめじっくり手を閉じて開くところで終わります。己の手を自分の意思で動かせるか確かめるかのように。

 サブキャラには自由な意思など必要なく、運命にも逆らえない。何か救いのないオチの作品でした。


 

たかはし遼平 In game botanical

 

写真はポリゴンの植物を現実世界に再現した作品です。対になる作品として現実の公園の画像の中に

CGの植物を埋め込んだ作品(パネル展示)があります。CGの解像度が上がりリアルさが実物と区別がつかないレベルに辿り着いた現在、バーチャルな空間上ではその真偽を確かめることすら意味がないという考え方も出てきています。


ならば仮想空間のものを現実世界に展開して日常の風景としても、もう差し障りないのではないか。スーパーニンテンドーワールドがUSJで大盛況な今日、写真のようなポリゴンの植物でも現代人は抵抗なく受け入れる素地を持っていると思います。

 

 

柴田まお Blue

 

画像合成の技術ではブルーは透明として処理することができます。テレビ番組でもよく実写の出演者に背景を合成するのにブルーバックやグリーンバックを敷きますがこれはその反対。ブルーで制作した立体彫刻をカメラで撮影し合成画面上で消える作品です。現場にいる鑑賞者は青い彫刻を鑑賞できますが、ネット上に映されるライブ映像では何もない展示ホールを人が歩くだけの映像となります。

   先述した「In game botanical」では仮想空間上の存在を受け入れるという方向でしたが、これは反対の方向の作品です。仮想空間の真の怖さは消すことができるということかもしれません。


 

トータル・リフューザル How to Disappear 

 

 

Battle Field  というゲームを用いて制作した作品。タイトルの「How to Disappear」とは脱走のこと。戦場からどうやって脱走するか。現実世界では脱走は軍法会議で死刑という話をよく聞きますが、ゲーム上で脱走しようと戦場から離れれば正体不明のスナイパーの狙撃により100%射殺される設定になっています。エンターテイメント性を担保するために、たやすくプレイヤーは死にゲームが再開される。一方で、見方の弾丸は決して当たることがない。

 このようにゲーム世界ならではのルールと現実世界の戦争の歴史を比較説明していきます。CGが進化した実写に近い戦闘の映像を見ながら様々な分析を聞いていると、現実世界とは違う命の軽さに複雑な感情が湧き上がって来ます。ゲーム空間のルールが、一見リアルに見える戦場の不条理さを浮き彫りにする。こういうアプローチの作品は今後増えるでしょう。



内田聖良 バーチャル供養講


捨てられない思い出のものってありますよね。

そういう品々を3Dスキャンしデータ化して、その品にまつわる記憶のテキストを合わせてひとつのデータにして、仮想空間上に集めます。そこをVRで体験できるようにしたのがバーチャル供養堂です。

 祈りや宗教儀式のDX化は、静かに進行しています。コロナ禍でネット上でお墓参りや説法などの取り組みもありました。科学技術は宗教と相反するものではなく、外堀を埋めるように推進するのではないか。お墓参りやお葬式のVRが普及するのも意外に近い将来のこと。私はそう見立てています。

 



↓ランキング参加中!押していただけると嬉しいです!

にほんブログ村 美術ブログへ