すべて未知の世界へ — GUTAI 分化と統合
大阪中之島美術館 / 国立国際美術館
2022年11月3日(木)
今年の年頭にコラムに掲げた目標のひとつに、新設された大阪中之島美術館に行くというのがありました。
ブログに書かなければ行かなかったと思います。何事も実現するには宣言するのが良いと言いますがその通りでした。いつでも行けると思っていると実際の行動には移さないものです。
大阪中之島美術館
さて
具体、GUTAI です。
日本の現代美術のムーブメントにおいて、存在感のある集団です。現代美術の作品を見ていてハッとするものに、具体の作品が多く気になっていました。例をあげると、吉原治良、白髪一雄、元永定正、田中敦子、嶋本昭三、などです。
具体のメンバーの作品は独自の振り切った表現と大作が多い。しかし似てはいない。その秘密はどこにあるのか?一体どんな集団だったのか?
具体の概要から始めます。
具体とは「具体美術協会」の略で、1954年に兵庫県芦屋で結成された美術家集団です。活動期間は18年間。
メンバーの中心人物は前衛画家の吉原治良(よしはらじろう 1905ー72)。金持ちの息子で、実業家にして前衛芸術家。
吉原治良
具体という言葉は「われわれの精神が自由であるという証を具体的に提示しよう」に由来としていると言われています。
抽象芸術なのになぜ具体?と不思議に思っていたのですが表現のことではなく姿勢、理論ではなく実践ということを意味するものでした。
元永定正
向井修二
村上三郎
吉原通雄
吉原の「人のマネはするな、いままでにないものを作れ」という指導が浸透していたのは作品を見るとよくわかります。しかし作品についての具体的な意見は言わないそうで、言うのは「ええなあ。」「あかん。」の二言のみ。それは、つまり、具体の展覧会の出展作に選ばれるか否かということ。その競争環境が各自がそれぞれのやり方と方向で個性を突き詰めるという流れをさらに強化していったのでしょう。
具体は作品が多様であるだけでなく、展示も多様で公園を利用した屋外展示、アドバルーンを使ったデパート屋上での空中展示、など、美術館や画廊におさまらない幅広い取り組みを行っています。
一方で大阪中之島に「グタイピナコテカ」と名づけられた専用の展示場所も持ち、関西を本拠地にした芸術家集団として精力的に活動していました。
フランスの批評家ミッシェル・タピエと交流があり日本の抽象芸術として海外に紹介され世界的にも知られる存在でした。とはいえ抽象主義の枠には収まりきれない幅の広さ、パフォーマンスもあればインスタレーションもある、一つの主義にまとめきれない集団というのは今も変わらぬ評価だと思います。
国立国際美術館
大阪中之島美術館の展示は、あえて章立てをせず作品を並べた展示になっていました。具体は統一した表現の方向性があった訳ではないので実態を反映した展示ともいえます。
白髪一雄
元永定正
村上三郎 あらゆる風景
このひたすら多様に広がり「分化」して行った具体の作家と作品を分類しその特徴を整理し「統合」してみようというのが、国立国際美術館の企画です。
ここでは、次の3つの章立てで作品を展示していました。
- 握手の仕方
- 空っぽの中身
- 絵画とは限らない
展示を観ての正直な感想は、分類はともかく「統合」は難しい。あえて言うなら「1. 握手の仕方」は、具体の共通な方向性を示しているようで統合感がありました。
具体美術宣言において吉原治郎は、
「具体美術に於いては人間精神と物質が対立したまま、握手している。」
と述べています。
例えば、絵の具は物質であって景色ではない。絵の具を使って本物の景色のように見せているがこれは偽物にすぎず、絵の具は絵の具のままであることが真の存在であり、人間の意図により存在に影響を与えることなどできないということです。この考え方を作品によって裏付ける芸術家に、ジャクソン・ポロックやジョルジュ・マチューが挙げられ、具体のメンバーである白髪一雄、嶋本昭三、鷲見康夫、吉田稔郎、田中敦子、山崎つる子なども挙げています。
それまでの伝統的な絵画芸術で行われてきた方法論をやめ、絵の具の使用を放棄して作品をつくる、描く事を放棄して作品をつくる、そのような工夫が人間と物質が対立したまま握手する具体の方法論、握手の仕方であると言っています。
足で絵の具を伸ばして描くことも、絵の具をぶち撒けて描くことも、砂や土やガラスで描くことも、絵の具を爆発させて描くことも同じ考え方の上にあり、ただ気を衒ったパフォーマンスをしている訳ではなく物質と対峙したまま作品を創るというのが具体の方法論の一つというのは、その通りだと思います。
こうして作られた作品は力があり、私の記憶でも目に留まる具体の作品の共通の傾向でした。
残りの2つの分類は間違ってはいないのですが、作品を見て立ち上がってくる具体ならではの共通性としては解像度が足りないと感じます。
今回、2つの美術館の企画展を通して具体を概観してみて「具体は一括りにできないところが具体」というのが私の結論です。見る前の認識と変わらなかったことになりますが、理解は深まりましたし、とても勉強になりました。
個々の作家、作品は掘り下げ切れませんでした。いずれどこかで必ず見ることもあるでしょうから、次の楽しみに置いておきます。
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