スコットランド国立美術館 

THE GREATS 美の巨匠たち
東京都美術館 企画展示室
2022年4月29日(金)



スコットランド国立美術館のことはあまり知らないのですが、ヨーロッパから海を隔てていて肖像画や風景画が充実しているというイギリス的な傾向を感じました。

いつも通り気に入った作品を拾ってみるとたくさんありました。質の高い作品が多く最後まで飽きませんでしたので、当然の結果かなと思います。
 
 
05  幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)
  アンドレア・デル・ヴェロッキオ(帰属)
マリアが裸の幼子キリストを地面に置いて両手を合わせて拝んでいる少し変わった聖母像です。テンペラらしく、マリアの赤い服、青い上着の細かい刺繍など細かいところまで緻密に描き込んだ繊細な描写に目が止まります。背景の古代建築は、キリストの誕生以降衰退していった都市を描いており、時代の移り変わりを象徴していると言われています。マリアもキリストも光輪はありません。作者の発想がおりこまれている作品です。
 
10 化粧をするヴェネツィア女性たち  パリス・ボルドーネ
おっぱい仕事かなあ。3人の女性が横並びの構図。左は世話をする女性。中央と右は化粧をする女性。中央の女性は赤いドレスを上からおろし白い肌と乳房がのぞく。画面下に香油の壺が配置されマグダラのマリアの隠喩というか言い訳になっている、と私は解釈しました。
 
16 祝福するキリスト(「世界の救い主」)  エル・グレコ
キリストのバストアップの肖像。右手は指先を上に向け祝福を、左手は水晶球(地球、世界を意味する)に手をかけている。肌は白く、髪・髭・影は黒く、赤い服と肩にかかる青い布のコントラストがエル・グレコらしい。深い輝きをはなつ目も尊さを感じさせる。
 
18 聖ステパノの石打ち  アダム・エルスハイマー
とても小さい作品ですが人物が多く群像図のようでもあり、50倍のサイズに引き伸ばしでも耐えられる絵です。描写の緻密さ、要素の多さ、情報量の高さ、手の込んだ仕事です。
石打ちの刑に処せられ頭から血を流して朦朧とした表情で顔を上げる聖ステパノ。見上げる先には頭にターバンを巻き馬にまたがる異族の頭領、その頭上に降臨する天使。左上の天使から右下の聖ステパノに斜めに光りが差し込みます。
アダム・エルスハイマーは若くして亡くなった画家です。作品数も少ないらしいですが他の作品も見てみたいです。
 
19 卵を料理する老婆  ディエゴ・ベラスケス
うまい。ベラスケス、初期の傑作といわれる作品の画題はなんと「卵を料理する老婆」。このような居酒屋や台所の様子を描いた絵画をボデゴン
(スペイン語)と呼びます。
鍋のスープに浮かぶ卵の描写、左の少年が抱える椰子の実。実写映画のワンシーンのようです。

26 ベットの中の女性  レンブラント・ファン・レイン

ベットから身体をおこし右のほうを覗きみる女性。ホントにそこにいるように見えます。

光は左上からあたり、顔やカーテン(?)をはらう手は影となり薄暗く何か尋常でない雰囲気で、その分肩から二の腕の肌が光って眩しく、ここが寝室であることが印象づけられます。画面下、手前のベットの質感は人物以上にクリアに描かれておりリアリティを高めています。

説明的モチーフはありませんが「旧約聖書」にある話で、結婚初夜に悪魔に7人の夫を殺され続けたサラという女性が、8番目の夫が悪魔と戦う様子をのぞき見ている姿とも言われています。

 


40 田園の情景(「眠る女庭師」)  フランソワ・ブーシェ

41 田園の情景(「田舎風の贈り」)  フランソワ・ブーシェ

39 田園の情景(「愛すべきパストラル」)  フランソワ・ブーシェ

いかにもブーシェという絵が3点並びで展示されています。作品としては別なものですが、縦長の大きな絵でサイズ・構図・画題が同じです。人気があるからたくさん描いてたくさん売ったのでしょう。

野外で語らう若い男女の姿、男性は花や小鳥を女性にプレゼントしています。手前の植物、男女の周りの犬や猫、背景の樹木や小屋が縦に高くあり、その上に青い空と少しピンク色の雲。牧歌的な風景が気持ちよく広がり、心が和みます。


45 ウォルトグレイヴ家の貴婦人たち

今回の展覧会のポスターになっている1点。江戸時代の浮世絵風に言うなら「当世英国三美人裁縫之図」とでも言いましょうか。

白いモスリンの衣装が鮮やかに白く、髪も盛っていてファショナブルです。背景のカーテン、椅子との深紅との対比も、メリハリが効いていて目立ち度が高く、映える絵画です。

 

64 テダムの谷  ジョン・コンスタンブル

私はあまりコンスタンブルは好みではないのですが、これは好きです。荒い筆致ですが緻密でリアル。手前の小高い丘にそびえる木、根元で煮炊きする男、少し先の川、川岸の牛、浮かぶボート、民家、さらに遠くの街並み、海、空に立ち上がる大きな雲、海上に遠くに差し込む光り。

大きな作品で近くから遠くまでよく見えます。


68 悲しみの人  ウィリアム・ダイス

超写実主義的な絵です。地面の草一本、一本、石のひとつひとつも描き切っていて解像度が高い。殺風景な小高い丘で手前に独り俯き加減で座るイエス。遠くの青い空すら寂しく見えます。背景の写実的な描写はイギリスの風景絵画の伝統でしょう。

 

72 「古来比類なき甘美な瞳」  ジョン・エヴァレット・ミレイ

手にスミレの花の入ったカゴを持つ可愛らしい少女像、いわゆるファンシーピクチャーです。飾らないピュアさ、眼差しが印象的。少しおなかが出ています。この少女はベアトリス・バックストンという子役だそうです。


81 エプト川沿いのポプラ並木  クロード・モネ

モネはエプト川沿いのポプラ並木を何点も描いています。正方形の構図。空の青、雲の白、ポプラ並木の緑、そしてピンクと、印象派の好きな方には、どストライクな鮮やかな配色。下半分に大きな筆遣いで描かれた川の水面に映る青空、ポプラもやはり鮮やかで、色彩と光のシャワーのような絵画です。


93 アメリカから見たナイアガラの滝  フレデリック・エドウィン・チャーチ

でかい。スコットランド人が美術館に寄贈した大作。チャーチはアメリカ人の画家で自然の風景を写実的に大きく描くのが得意です。そしてナイアガラを描いた作品としてはこれは最大だそうです。

左手に滝壺をのぞく二人の人が小さく描かれています。立ち上る水煙、はるか下に見える虹。圧倒的な迫力と臨場感で、動いているように見えます。

 


これは出口の撮影コーナー。


作品も幅広くなかなか良い展覧会でした。スタンダードな西洋美術を見たい方は是非足を運んでください。

 

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