Tokyo Contemporary Art Award 2020-2022 受賞記念展

藤井光

東京都現代美術館 企画展示室3F

2022年4月16日(土) 


藤井光はTokyo Contemporary Art Award 2020-2022 を受賞者です。受賞者は海外活動の支援が得られます。しかしコロナのために海外へ行くことがかなわず、国内からアメリカの国立公文書館をリサーチ、「日本の戦争美術」をテーマにしたインスタレーションを制作しました。展示スペースは3つ、作品は2つありますが、これはまとめて1つの作品と見るべきでしょう。


「日本の戦争画」

「日本の戦争美術」


「日本の戦争画」とは第二次世界大戦中に日本の画家たちが国威発揚を目的に戦争を描いた絵画です。戦場の様子や講和会議の風景などをリアルな筆致で描きました。戦後、日本では戦争画に触れることはタブー視されていました。近年、徐々に公開されるようになっています。


このインスタレーションは敗戦した日本を占領したアメリカ軍が日本美術を接収し、発見した戦争画を見て生じた現場の困惑を追体験できるようになっています。


一つ目の展示スペースは戦後まもなく開かれた美術展を模したものです。1946年、東京都美術館。主催はアメリカ合衆国太平洋陸軍。展示されているのは日本の戦争美術です。



ここでは実物の絵画は飾られていませんが、カンバスに代わる板、パネルが壁にかけられ、その下にアルファベットと日本語で作品名と作者名が記されています。藤田嗣治、小磯良平、宮本三郎などです。



戦争絵画を見たことがない方は絵は想像するほかありませんが、とにかく軍の全面的な支援でいずれも大きな号数の作品、大作がたくさん描かれたことはわかります。



続く2つ目の展示スペースは「日本の戦争美術」です。長い真っ直ぐな通路の照明は落とされ真っ暗です。戦争画に関連するイメージ映像が両側に映され、入り口と出口に一つずつ、2つの映像が流されています。英語の音声とその字幕です。


入り口の映像は、日本の戦争美術に関する報告です。

出口の映像は、日本の戦争美術についてアメリカ本国とのやりとりです。


1945年に日本を占領したアメリカ軍は日本美術を接収します。歴史的・文化的に価値のある文化財を保護するのが目的です。まず作品を集め、そして整理となるのですが、そこで大量の戦争絵画を発見します。


描いたのは当時の日本美術の名だたる巨匠たち。世界的な有名な画家である藤田嗣治も入っています。絵画の技術は高いものです。

日本の戦争を肯定する目的で描いた以上、単なるプロパガンダであり、だとすれば芸術ではなく文化財保護の対象にすらならない。廃棄してよしということなります。


日本でこの作業に従事し本国に報告したのはヒュー・ジョン・ケイシー陸軍少尉です。上野の美術館に収集した文化財の価値を見積もる仕事をしていました。藤井光はアメリカの国立公文書館のマイクロフィルムを調べて当時の様子をインスタレーションの形式で復元したのです。


 そして3つ目の展示室。美術展にて展示されていた絵画が整然と収納されています。いわば倉庫です。



アメリカには日本の戦争美術は文化財とは認められないということで、東京国立近代美術館に無期限貸与となりました。近年では常設展の中で数点展示されています。これを芸術的価値のあるものとして扱うか、日本の美術界は慎重です。


一方で西洋絵画の歴史においても戦争画は描かれています。名作も数多い。露骨に権力者を礼賛して名声を獲得した有名な画家もいます。それらと日本の戦争美術の差はどこにあるのでしょうか。日本が勝利していれば名作として評価されたのでしょうか。或いは、戦争と作品は別のものとして切り離して評価することはできるのでしょうか。


戦争画の評価が第二次世界大戦の日本の行いの総括に直結しかねない。火中の栗をあえて拾う人はいないでしょうから、今後も美術館の隅で展示されるだけかもしれません。


美に正義はあるのか。

そもそも美に正義が必要なのか。

誰がそれを決めるのか。


描かれた戦争画は我々日本人の評価をひっそりと待ち続けています。


 

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