生誕100年 特撮美術監督  井上泰幸展

東京都現代美術館

2022年4月16日(土) 



東京都現代美術館は2012年に特撮を扱った展覧会「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」を行いました。あれから10年振りの特撮の展覧会です。


特撮は一時代を築いた文化としてその保存と評価が進み、美術館でも企画展が行われるようになってきました。




井上泰幸(1922-2012)は、東宝の円谷英二(1901-1970)の世界的な大ヒット作「ゴジラ」(1954)の制作からスタッフとなり、以降、デザイナー・特撮美術監督として活躍。その後東宝から独立して仕事の幅を更に広げて生涯特撮に携わりました。


井上は関わった仕事の資料を保存しており、それが今回の展覧会のベースになっています。


特撮美術監督とはどんな仕事かといいますと、映画本編の特撮パートを担当する監督です。制作プロセスは作品によって変わりますが、凡そ以下の通りです。


「空の大怪獣ラドン」制作プロセス

  • 台本
  • ロケハン
  • スケッチ
  • 計画
  • 図面
  • ミニチュア制作
  • ミニチュアセット建て込み
  • 完成ミニチュア
  • 撮影


「怪獣総進撃」制作プロセス

  • 台本
  • 予算・スケジュール管理
  • イメージボード
  • 井上式コンテ
  • 井上式セット設計
  • セット図面
  • 完成セット


この展覧会は井上泰幸が関わった仕事を年代順に紹介しています。「ゴジラ」「空の大怪獣ラドン」「モスラ」「ウルトラQ」「日本沈没」「連合艦隊」など数多くあります。

展示物は、イメージボード、デザイン、設計用のラフなイメージ図、設計図、図面、模型、セット写真。完成した映画の映像も一部あります。


特撮といっても宇宙や海底都市のようにほとんど空想の世界をつくるものもあれば、怪獣映画のように現実に存在する日本の場所を背景につくるものもあります。ゴジラのような怪獣映画では背景となる日本の街、土地の作り込みがリアリティを左右します。井上は現地のロケハンを緻密に行い、建物の寸法も実物を測って再現、周りのスタッフはもういいのではないかと言い出すくらいの徹底した仕事ぶりだったそうです。


資料のスケジュール見て驚くのは苦心して製作した手の込んだセットも撮影が終わればさっさと解体してしまうことです。(もっとも怪獣映画の場合は派手に破壊されるので解体するまでもありませんが。)壊さなければ次が撮れませんし消耗品なので当然ですがもったいないですね。


完成した映像を見ると、デザインが現代の我々が考える未来のイメージと違うこともあり、明らかに模型やセットに見えてしまうもの多いのですが、今見ても凄いものもあります。「日本沈没」の特撮映像はリアルで怖く一見の価値ありです。 


展示の後半に井上泰幸のインタビュー映像があります。円谷英二も一目おいた現場でのエピソード、水槽を使った海底火山爆発の特撮の再現など、CG全盛の現代の若者には新鮮でしょう。井上の奥様井上玲子氏も登場しています。とても素敵な方でアーティストでもあり映画にも作品をが使われています。




展示の最後は撮影コーナーです。「空の大怪獣ラドン」の一場面、福岡駅ターミナルビル岩田屋周辺のミニチュアセットの再現です。


私のオススメ撮影ポイントは人間の目線の高さです。


福岡ターミナルビル越しに現れたラドンです。できれば静止画ではなくラドンの巻き起こす強風でいろんな物が吹き飛ばされる場面を動画で撮りたいところです。美術館の展覧会では動画の撮影はほとんどNGなので、東美の皆さま、今後の企画よろしくお願いします。


最後に一つオススメの展示をご紹介します。

このセットの背景です。


この岩田屋再現ミニチュアセット背景画を描いているのが、島倉二千六(しまくらふちむ)。今も現役の背景画家で青空の背景はこのセットのために描き起こしたものです。この絵の原画が、セットの向かい側の壁に展示されています。島倉は「雲の神様」と呼ばれるほど雲を熟知していて、天候、場所、日時に応じて描きわけることができます。そして仕事が早い。この原画、離れて見ると写真のようにリアルなのですが、寄って見るとハケの後がハッキリわかるのです。限られた時間で量をこなすことが求められる現場で身につけた技。最低限の筆さばきで絵を完成させる。特撮を支えた凄腕の職人がここにもいました。


映画は総合芸術です。ひとりの力で作り上げることはできません。今後、特撮について研究が進めば、円谷英二や井上泰幸の他にも優れた仕事をした人々の功績が掘り起こされるでしょう。

その時、また東京都現代美術館で展覧会が開かれるのが楽しみです。





 

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